趙雲のマンションに泊まりに来たは、手料理を趙雲に振舞った後、風呂に入ったり気になっていたDVDを見たりと寛いでいた。
 最初の頃はそれなりにぎこちなかった二人も、ここ最近はすっかり落ち着いて同棲じみた気楽さが見られるようになっていた。
 趙雲も、が家に住んでくれればいいのにとも考えるが、やはりきちんと籍を入れてからとも考えてなかなか言い出せずにいる。
 プロポーズをすればYESと言ってくれるだろうと踏みながら、しかしこれまでの苦い失敗の数々が趙雲を臆病にしていた。
 初見の企業に飛び込んで契約を納めてくる趙雲の肝の太さは、君主の劉備にも認められ褒められるところではあるが、どうにもだけには頭が上がらずにいる。
 夜になってから触れさせてもらえるだろう白い肌を思うだけで悶々としてしまう青い趙雲は、この日もまたいつものように時間が過ぎていくのだと思っていた。
 それが突然波乱に変化したのは、の何気ない一言だった。
「孫堅専務って、いいわよね」
 言葉通りならたいしたこともないはずだが、趙雲の顔は一気に引き攣った。
 きっかけはDVDに出て来た外国の俳優の顔が誰かに似ているというところからで、孫堅に似ていると思い出したが続けざまに放ったのが前言なのだ。
 しかも、ご丁寧に白い肌に薄っすらと朱を差し、とろりと目を蕩けさせての一言であるから趙雲には堪らない。
 孫堅が女子に人気があることは趙雲も知っていた。
 更に言うなら、K.A.Nの中で行われているランキングとやらで『浮気したい男No.1』なのが孫堅であることも、不本意ながら趙雲は知っていた。
 例え自分が『結婚したい男No.1』なのだと知っていても、何やら負けた気にさせられるのが不思議だった。
「何処がいいんです、あんな中年男の何処が」
 趙雲にしてはくだらないやっかみだったと言えよう。
 けれど、が男を褒めることは実に少なく、彼氏たる趙雲など怒られることこそ多くとも褒められることなどまずもってない。
 と言うか、は褒めているつもりでも趙雲はそう取らないケースが多く、自身もごちゃごちゃと言い募ったりしないさっぱりとした(言い方を変えれば非常に男らしい)性格だった為、すれ違いが生じていた。
「あんな大きな子供が三人も居るんですよ」
「子供が居るとか大きいとかは関係ないでしょう? 孫堅専務って素敵じゃない?」
 男から見るとそうじゃないのかしら。でも、女から見るととても魅力的な人だと思うわ。
 すぱん、と豪快に趙雲の泣き所を斬り付けるが如き言に、趙雲は涙目になりつつがっくりと項垂れた。
 結婚したい男と言う言葉にあまり魅力を感じない。
 そうだと知らされた時は正直嬉しかったのだが、同僚の馬超(ちなみに奴は恋人にしたい男No.1だった)に、確かにお前はキープ系だとあっさり言われた瞬間、その喜びも露と消えた。
 夫なんぞは元気で不在が一番だという聞き捨てならないCMが流行した時期もある。よって趙雲には、結婚したい男No.1の称号は足枷に等しく、遠慮できるなら遠慮したい代物であった。
 ましてその意中の恋人が浮気したい男No.1を褒め讃えるという非常事態に、趙雲には最早為す術はなく涙に明け暮れる他ないのである。
 おどろおどろしいオーラを放って俯く恋人を、はむぅ、と唸って見詰めた。
 どうせろくでもない思考に陥って自爆しているのだろうと思うのだが(そしてそれは過たず的中しているのだが)、一度落ち込むとなかなか復活できないのがこの真面目が取り得の恋人の悪い癖である。
 でも、とは趙雲ににじり寄りながら考える。
 俯いた頬に指を掛け、顔を上げさせると、まずその額にキスをして、次いで頬にキスを落とす。
 口付けは趙雲の方から強請られた。
 軽く啄むようなキスを何度も交わすと、頬の辺りがほわっと暖かくなってくる。
「……そろそろ、寝る?」
 誘いかけるような言葉は、無論言葉通りのものではない。趙雲は頬を染めると、の体を容易く抱き上げた。
 小さな体は、趙雲の腕の中にすっぽりと納まってしまう。
 もう一度キスを交わすと、趙雲の眼差しは熱くを射抜いた。
 単純なんだから、と胸の内で囁き、でも、そこがとても好き、と付け加える。
 体の内側から熱が湧き出し、出口を与えてくれる相手を求めて衝動が走る。
 細い腕を首に回され、趙雲は愛しさに頬を緩めながら、不機嫌に陥ったことも忘れて寝室へと歩を進めた。

  終

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