が寝ていると、誰かの来訪を告げるインターフォンの電子音が高らかに響き渡った。
 久し振りに仕事を持ち帰らない休日に、何処の馬鹿だとカメラを覗くと、そこに大喬が立っていた。
 一も二もない。すぐに玄関のオートロックを解除した。

 大喬はのマンションに上がりこむと、早速自分のエプロンを取り出す。
「お掃除、してしまいますね」
「はぁ」
 いつものことなので、何も言えない。
 大喬とは孫策を挟んで三角関係を形成しているわけだが、普通のそれと違うのは、大喬とはとても仲が良いことだった。
 は会社では几帳面で通っているが、全精力を仕事につぎ込んでしまっているせいか家事全般はほとんど壊滅状態だ。デスクは綺麗に磨き上げられているのに、リビングの応接セットには洗濯物が脱ぎ散らかしてあるし、カーペットの上にはごみや空き缶が散乱している。
 例の黒い奴が湧く前に大喬がわざわざやって来て掃除してくれるのだが、いつから始まった習慣なのかも既に明確でない。
様、お休みになっていて下さい」
 少しうるさいかもしれませんが、とにっこり微笑まれるが、大喬に自分の家を掃除させておいて、高いびきを決め込めるものでもない。要らなくなった本や新聞紙を束ねたり、ごみの選別をしたりして大喬を手伝う。
 しばらく雑談を交わしながら掃除していると、だいぶ綺麗になった。
「お昼、何食べたいですか」
 手早く仕上げの乾拭きをしながら、大喬が尋ねてくる。
「……外、食べに行かない?」
「駄目です、栄養が偏ってしまいますから。それに、外に出るの面倒でしょう?」
 何もない休みの日は、パジャマで気楽に過ごすのがの何よりの楽しみだった。大喬もそのことを知っているから、自分が作ると言ってきかないし、生半の店よりよほど美味いものを作るのでも文句が言えない。
 ただ、何ともいえない申し訳なさが拭いきれないのは仕方ないだろう。
「えーっとね」
 あんまり外で食べないもの、ということでが注文すると、再びインターフォンが鳴り響く。
 大喬が出たのだが、一言もなくロックを解除しているのを見て嫌な予感に駆られた。
「……誰?」
「孫策様です。お昼、一緒に食べましょうね」
 邪気のない微笑みに、否と告げられるわけもない。
 それにしたって、変な関係だ。
 が溜息を吐いていると、やがてもう一度インターフォンが鳴り、大喬に頼まれて渋々迎えに出る。
 玄関を開けると、やはり不機嫌そうな孫策がそこに立っていた。
「何よ、嫌なら来なきゃいいでしょうが」
「俺だって、来たかねぇよお前のゴミ屋敷なんか」
 ゴミ屋敷と言われるほど汚くはない。それに、もうほとんど掃除は終わっていた。
 蹴倒そうとするの足を避け、孫策は何か不服げな顔をに向けた。
「何よ」
「……何でもねぇよ」
 畜生、と悪態ついて靴を脱ぐと、孫策は肩をすくめて中に入っていった。
 何が何だかわからない。
 孫策を認めると、大喬は嬉しそうに立ち上がった。
「いらっしゃいませ、孫策様」
「大喬、掃除なんかコイツにやらせればいいだろ、自分ん家なんだからよ」
「その家主に向かってコイツ呼ばわりか、今すぐ帰れ今すぐ」
 孫策はソファに座り込むと、勝手にテレビを点ける。を無視して野球を見始めた。
 大喬も、勝手知ったる他人の家、茶を淹れてガラステーブルに載せると、エプロンを脱ぐ。
「じゃあ私、お買い物に行って来ます。お留守番、お願いしますね」
「え、じゃあ私一緒に」
 の言葉を遮って、大喬は微笑んだ。
「大丈夫です、すぐ近くですもの。2〜30分で戻りますから」
 のマンションは今流行りのタイプで、敷地内にスーパーマーケットから飲食店、病院まで設置されて、小さな街の態を為している。マンションの玄関を出て、更に地下に続く階段を下りればすぐ目の前がスーパーだから、確かにそれほど手間は掛からないかもしれない。
「じゃあ……悪いけど……」
「はい、お任せ下さい」
 大喬は足取りも軽く出掛けていった。
 玄関に鍵を掛け、振り返ると孫策が立っている。
 何だと声を掛ける間もない。両の手の平で突然乳房を鷲掴みされた。
「んだよ、やっぱブラしてねぇっ!」
 天を仰いで嘆く孫策に、は一発拳骨を食らわした。
 寝る時はゆったりしたいのでブラを外すのが常だ。寝起きのパジャマ姿のままで居たから、当然ブラをしていなかったわけで、孫策の不機嫌はその為だったらしい。
「人がブラしてようがしてまいが、キサマに何の関係があるか」
「勃っちまうだろー! つか、勃っただろー!」
 知るか。
 けんもほろろにソファに戻ると、すぐ隣に孫策が滑り込んでくる。
「なー、ー」
「ざけんな、大喬ちゃん帰ってきたらどうすんのよ」
 甘えかかってくるのを邪険にあしらうのだが、孫策は慣れた様子で怯みもしない。
「すぐ済ますから、なっ!」
「自慰でもこいてろ」
 頬杖突いてテレビを眺めていると、不意に『じーっ』と金属が擦れる音がする。
 横目でちらりと見たことを、は激しく後悔した。
 引き摺り下ろされた白いブリーフを押し下げるように、隆々と天を仰ぐナニを間近で見てしまったのだ。
「何、本気にしてんのよ馬鹿っ!」
 せめてトイレに行け、つか、人の目の前で露出させるなと喚きながら逃げようとするを、孫策は圧し掛かって押さえつけてしまう。
「お前が居るのに何でトイレ行かなきゃいけねんだよ」
「いいから仕舞いなさいよ、馬鹿ぁっ!」
 薄地のパジャマの下はショーツしか纏っていない。尻の割れ目に当てがい、剥き身のそれをすりすりと擦り付けられて鳥肌が立つ。
「勃っちまって、擦れて痛ぇもん。だから、な、
 何がだからなのか。
 と言って、孫策は諦める気配はないし萎える気配もない。時間もない。こんなところを大喬に見られるのだけは御免だった。
「わ、かった、からっ!」
 自棄になって、ついでに孫策の肩口を蹴り上げて引っ繰り返すと、は孫策の昂ぶりを口に含んだ。
 孫策の息が、艶かしく弾む。
 先端に舌を宛がい、嬲るように舐め上げると、孫策の掠れた声が上がる。
 指で輪状に膨らんだところを軽く擦ってやりながら、鈴口をちろちろと舐めると、竿に太い血管がぴしぴしと浮いた。
 口の中に深く含み、強弱をつけて吸うと、とろりとした先走りの汁が舌の上に零れてくる。
「……っ、……」
 孫策がおもむろに膝立ちになる。
 釣られるように顔を上げたが、続きをしようともう一度孫策のものを口に含むと、孫策の手がの頭をがっしりと抑えた。
「悪ぃ、ごめん、な」
 言うなり、腰を突きこんでくる。
 喉深くまで突きこまれ、嘔吐きそうになるのだが孫策は手を離さない。快楽に呑まれ、を慮る余裕がないようだ。
「あっ、あっ、すげえ、気持ち、イイ……!」
 の方は、それどころではない。吐き出したいのに、咳き込みたくて肺に鈍痛が走っているというのに、情け容赦なく突きこまれて呼吸不全で逝ってしまいそうだ。
 閉じることの叶わない口の端から涎が垂れ、喉の表皮を滴り落ちていくのもむず痒い。
 死ぬ、と思った瞬間、口を塞いでいた肉塊が外れ、次の瞬間大きく口を開いたに向け白濁した精液がぶちまけられた。

 大喬が戻ると、は服に着替えて出てきたところだった。
 あら、と首を傾げる大喬に、は顎をしゃくって孫策を指す。
「あの馬鹿が、ミルクぶちまけた」
 孫策はテレビに見入っている振りをしているが、ぎくり、と肩が弾けたので聞こえているのがバレバレだ。
「……ミルク……ですか?」
 大喬がきょとんとして孫策を振り返ると、耐え切れなくなった孫策が、脂汗をかきながらこくこくと頷いた。
「そっ、そうなんだよな、、悪ぃな、ごめんなっ!」
 謝って済むか。
 の冷たいジト目と、やたらに慌てた様子の孫策を見比べて、大喬はやはりきょとんとしていた。
 とにかく、と大喬は料理を始め、もそれを手伝う。
 孫策は、すっきりしたことも手伝って、贔屓のチームがホームランを連発する試合に歓声を上げていた。
「出来ましたよ、孫策様」
 ガラスのテーブルに、出来立てのシチューが並べられる。籐籠の中には、まだ温かい焼きたてのパンが盛り付けられ、香ばしい匂いを放っていた。
 いただきますと手を合わせ、和やかな食事が始まる。
「そう言えば、様」
 大喬が、シチューをすくいながら何気なくに話しかける。
「ミルク、大きいサイズのしかなかったので、余っちゃいました。置いていきますので、飲んでいただいてよろしいですか?」
「ああ、ちょうど昨日で切らしてたから、助かる」
 孫策の手が、止まる。
「どうしたんですか、孫策様。お口に合いませんでしたか?」
「……いや、いや美味いぜ、大喬」
 良かった、と微笑む大喬に、邪な翳りは微塵もない。
 それが、怖い。
 救いを求めるようにに視線を向けた孫策だったが、は無心にシチューを食べ続け、その視線を無視した。

  終

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