世間では黄金週間などと呼ばれているらしいこの祝祭日ラッシュは、にとっては必ずしも有難いものではなかった。
 仕事から解放され、家でのんびり寛げるのは確かに有難い。
 朝、シャワーを浴びた後自然乾燥で髪を乾かせるのも、休みならではだろう。
 重たげな黒髪を手ですくと、ほんのりと爽やかなシャンプーの香りが匂い立つ。
 元来はそれほど嗜好品にこだわる方ではない。シャンプーにしたってそれは変わらない。綺麗に洗えて、あまりおかしな強い香りがしないものなら、後は値段と相談でいいぐらいだった。
 このシャンプーを継続して使うようになったのは、この香りを好きだと言われてからだった。
 馬鹿馬鹿しいと思うこともある。
 何の気なしに言われた言葉で、きっと相手も言ったことなど忘れているに違いないのだ。
 それでも、はこのシャンプーを使い続けている。
 休日を愛する妻の為に捧げる男の為に。
 充電器に差し込んだ携帯が振動した。
 アパート住まいのせいもあり、うるさい音が立つのを好まないは、家の中でもマナーモードにしたままだ。たいていは気付くし、出られない時は留守録に伝言を入れてもらえばいい。
 この日は、何となく一人で居たくて居留守を使った。
 誰の声も聞きたくなかったし、誰とも会いたくなかった。
 約束があるわけでもなし、偶にはいいでしょう、と誰に聞かせるでなく呟くと、は濡れないようにと肩に掛けていたタオルを洗濯籠に投げ入れた。
 天気もそれほどいいわけではないから、洗濯するのも億劫だ。
 連休の谷間のこの二日間も、K.A.Nでは連休になっていたから、仕事が溜まって身動きが取れない者や事情があって出社せざるを得ない者以外は、休暇を楽しんでいる頃合だ。
 は、今日一日をのんびり過ごすことに決めた。
 コーヒーを多めに作り、簡単な食事を済ませる。洗い物を済ませ、ざっと掃除を終わらせると、後は怠惰に過ごすことに集中した。
 昼から贅沢な眠りに就くのも悪くないか、と思いつつ新聞を読んでいると、玄関のチャイムが高らかに鳴る。
 ちらりと目を遣り、再度新聞に目を落とす。
 チャイムが再び鳴り響く。
 三度目を数えるに当たり、なかなかしつこいのと何か急用だったら困ると思い立ち、覗き窓から覗くだけ覗こうかという気になった。
 そっと足音を忍ばせていき、覗き窓を覗き込む。
 少し、いやかなり子供っぽいと思ったが、反面少し楽しいような気もした。
 覗き窓を覗き込むと、そこには意外な人物が立っていた。
「開けていただけませんか、
 息を潜めていたはずなのに、ここに居るとすぐさま察知されたことに、は思わず口元を押さえた。

 諸葛亮の手土産は、綺麗な青い箱に収められた小さなケーキだった。
 どんな顔をしてこれを買ったのだろうと思うと、何だか不思議だ。
「花を買うよりは、こちらの方がまだ多少はハードルが低いのですよ」
 の淹れたコーヒーを飲みつつ、諸葛亮は一人ごちた。相変わらず察しがいい。
 休日だというにも関わらずスーツ姿の諸葛亮とパジャマ姿のでは、まるで見舞い客と病人のようだ。
「どうしていらっしゃったんですか」
「電車で」
 そうではなく、と眉を顰めると、諸葛亮は常の柔らかな笑みでを見つめた。
「貴女がどうしているだろうと思って」
「……そんなことを仰って」
 の機嫌が斜めに傾いでいくのを察したか、諸葛亮はにこりと笑った。
「月英は、この休みを利用して研究に打ち込みたいと言うものですから。ならば、出かけた方が彼女も落ち着けると思いまして。ですが、行く先を考えたら何も浮かばなかったのですよ」
「そう……でしたか」
 ならば、良い。
 ほっとしていると、諸葛亮は苦く笑う。
「普通の女性なら、こんなことを言ったら怒り出すでしょうに。貴女は本当に不思議な方だ」
「奥様を蔑ろにしたいとは思いません」
 月英に関しては、は後ろめたく申し訳ない気持ちが募る一方だ。体だけの関係と割り切っているつもりだが、妻である月英にしてみればそれが面白い訳がない。
 二人がセックスレスだという話も、正直最初は信じられずに居た。月英も諸葛亮もまだ若く、体を繋ぐ快楽に溺れていい頃合だろう。
 非生産的、月英はそんな風に言っているらしい。必ず子が為せるなら計画的にできるのに、いきなり孕んで仕事を中断させざるを得ない、厄介な作業だとずいぶん憤慨しているのだと聞く。
 まだ若いから、もう少し研究に専念したいという彼女の主張に、諸葛亮は反対する理由もないので素直に了承したそうだ。
 聞き分けのいい旦那様は、妻の代わりに己の性欲を解消する相手を見つけなければならなかった。
 私は、ちょうど良かったのだろう。
 卑下するでなく、は自分を振り返る。
 ちょうど良くて、良かった。
 そんな風に思った。

 考え事をしていたせいで、諸葛亮が見つめていたのに気付かなかった。
 は頭の中でさっと状況を整理した。
 四部屋で構成された二階建てのアパートの住民は、隣が空き室で下は旅行中、の部屋は交通量の多い道路に面した部屋だから、よほど大きな声を上げなければ大丈夫だろう。
 まだ昼間だけれど、とは思ったが、今更だ。
 寝室に使っている隣の部屋に諸葛亮を案内すると、諸葛亮は後ろ手で開放されたままだった引き戸を閉じた。
 密室の雰囲気が濃厚になり、の下腹部がざわめいた。
 本当に月英はセックスをしたがらないのだろうか。自分の存在に気がついていて、それで諸葛亮に肌を許さないのではないだろうか。
 諸葛亮の話では、月英とセックスレスになったのはとこうなる前だったというけれど。
「こういう時の考え事は、いけないと申し上げたはずですよ」
 俯くの顎を取り、諸葛亮は口付けを落とす。
 柔らかく交わるそれが、徐々に熱を帯びたものに変化する。
 するりと忍び込んできた諸葛亮の手に、の肩が跳ね上がり諸葛亮が不思議そうに目を遣る。
 シャワーを浴びた後、本格的にものぐさになって下着を着けていなかったのだ。上は勿論、下も着けておらず、それで諸葛亮は驚いたのだろう。
 別に貴方に抱かれる為ではない。ただ、締め付けられるのが嫌だっただけだ。
 胸の内で囁くに留め、は諸葛亮の指の動きに翻弄される。
 陰唇を撫で擦られ、勃ちかけた朱玉をつままれる。腰が引け、崩れ落ち掛けるのを諸葛亮が引っ張り起こし、指の戯れから解放しようとはしない。
 音がするようになるまで甚振られ、達く寸前で諸葛亮の手が離れる。
 どさりと音を立ててベッドに腰を落とすと、諸葛亮はのパジャマの下を剥ぎ取り大きく足を開かせる。
 陰毛に愛液が絡み、黒々とした茂みをてらてらと光らせている。
 隠されるように奥まった箇所にある朱玉を、諸葛亮は飴をしゃぶるように舌を伸ばして舐め上げた。
「嫌!」
 途端に我に返って激しく拒絶し、は体をずり上げて諸葛亮から逃れた。
 手の平でしっかり秘裂を覆い、足を閉じて諸葛亮を睨めつけている。
「貴女とて、私にして下さるでしょう」
「私がするのはいいんです、でも、されるのは嫌」
 が隠す秘部に、諸葛亮の視線が落ちる。
 普段と何も変わらぬはずの視線に未練がましさを感じ、秘裂から愛液が滲んで手の平を濡らす。
 諸葛亮は無言のままシャツを脱ぎ、ベルトを外す。
 ファスナーを下ろすと、そこから怒張が飛び出し大きく揺れた。
 はそっと近付くと、怒張を指で支えて口に含む。
 わずかに汗の匂いを感じたが、諸葛亮のものだと思うと気にもならない。
 唇で扱くようにすると、諸葛亮の怒張はふるふると震える。鈴口から染み出る汁を、は丹念に舐め取った。
、後ろからしてもよろしいですか」
 諸葛亮は業務の書類を頼むような何気なさで、に破廉恥な姿勢を求める。
 わずかに嫌悪を滲ませつつ、はベッドの上で四つん這いになった。
「そうではなく……こちらへ」
 の尻を押さえて、ベッドの端の方へ引き摺り寄せた。
「こうすると、立ったまま貴女を責められますから」
 言わずに置けばいいものを、わざわざ口に出す。
 諸葛亮に抱かれる女は、多少マゾっ気がないとやっていられないかもしれない。
 言葉通りに立ったままの秘裂に肉棒を押し当てると、慣らすようにゆっくりと挿入を始める。
「……っ、……っ……」
 声を押し殺すの唇から、形にならない悲鳴が零れる。ぞわぞわと悪寒に似た感覚が全身を覆い尽くしていくのを、は四肢に力を篭めて耐えた。
 奥まで届く諸葛亮のものに、文字通り貫かれたままは歯を噛み締めた。
「相変わらず、よく締まりますね」
 感想じみた言葉に、は眉の根を寄せた。
 背後の諸葛亮の体がわずかに揺らめき、短い艶言が漏れる。
「突き、ます。ご要望があれば、仰って下さい」
 ふざけているのか、諸葛亮は前置きにそんな戯言をほざいて腰を揺らめかし始めた。
 要望などあるはずもない。諸葛亮がこうして自分に圧し掛かり、獣じみた荒い息を吐いている。それだけで、眩暈がするほど心地良い。
 何時の間にかパジャマのボタンが解放されて、下を向いた紡錘状の乳房が大きく揺れ動く。冷たい手が伸びてきて乳房を鷲掴みにすると、そこをとっかかりに腰を強く押し付け始めた。
 声が出てしまう。
 咄嗟に掛け布団を掴み、口元に引き寄せる。
 指が乱雑に勃ち上がった乳首を擦り、苛むのがたまらなく悦くて、の膣はよがるように引き締まった。
「く……貴女は、ここが、本当にお好きだ……」
 乳房、とくにその朱色に色付く先端を弄られるのに弱い。知っていて毎回弄り尽くすくせに、言葉で愚弄するのも忘れない。
 本当に、マゾでもなければやっていられないかもしれない。
 蜜壷が灼熱に滾るのを感じながら、それをかき回す諸葛亮の肉棒に翻弄される。
 跳ね上がった肉棒が、背中に熱い液体を撒き散らすのを感じながら、自身も秘裂から熱く噴出すものがあるのを感じていた。
 達した衝撃に体を強張らせて耐えていると、諸葛亮は萎えた肉棒をの尻に押し付けてきた。
「どうして声を出さないのです」
 がっかりとした声音が演技だとわかっていても、胸に痛い。
「……近所に聞かれては、困ります」
「少しぐらいは、構わぬでしょう?」
 留守のお宅が多いようですし、としらっと答えて返す。来るついでに在宅確認でもしてまわったのかと疑ってしまいそうだ。
「次は、もう少しきつくしますよ」
 の尻で擦っていた肉棒が、力を取り戻して剛健に蘇ったのを肌で感じる。
 絶対に声など立てるものか、と固く決意した途端、勢いよく突き込まれた衝撃に小さな声が漏れてしまった。
 その調子で、などと揶揄され、の体が熱くなる。
 ふと、あの電話は諸葛亮からのものだったのかもしれないと思った。
 出ていたら、声を聞かせていたら、諸葛亮が訊ねてくることもなかったかもしれない。
 良かったのか、悪かったのか。
 意識を逸らしているのがバレたのか、諸葛亮がの体を反して横から突き込んできた。はしたない体勢に、顔に朱が走る。
 諸葛亮の口元に笑みが浮かぶのを見ながら、は観念して唇を解いた。
 惚れた方の負け、という言葉が、頭の中を過ぎってすぐに消えた。

  終

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