口付けをねだったのは無意識だった。
姜維は誘われることに何のためらいもなく、の唇を吸う。
柔らかくしっとりとした唇が重ね合わされ、当たり前のように舌が触れ合わされる。
上手いキスというのがどんなものか判然とするほど経験があるわけではないが、姜維の口付けはいつもの心臓を急激に加速させる。
心臓発作で逝ってしまったらどないしよう、などとろくでもないことを考える。
困った時は、馬鹿なことを考えるのがの半ば癖となっていた。
したくなっていた。
重ねた唇があんまり気持ちよくて、体が過敏に目覚めつつある。
先日ようやく、しかも人には話せないような子供のような前置きを経て、やっと結ばれたばかりだ。
昼の職場、二人きりとはいえ、事に及ぶには条件が悪過ぎた。
「さん」
「は」
「さん……!」
アイタ、とは頭を抑えたくなった。
姜維の若さは抑制を知らない。のデスクに押し倒されるように倒され、鼻息が荒くなった姜維の顔を間近に見てしまう。
ホテルの薄暗い照明とはわけが違う、昼の陽光は穏やかですらあるのに、姜維の放つ淫猥さを如実に浮き彫りにした。
薄いスーツの下で、張り裂けそうに勃ち上がった姜維の雄が腿に押し当てられる。
「あ、あかん、姜維くん」
何で自分が、こんな陳腐な台詞を吐いているのかよくわからない。
いつから団地妻になったんやろと自嘲しつつ、それも古いなとツッコミを入れた。
姜維の昂ぶりは留まることを知らず、仕方なくは人気のないスポットを頭の中に羅列させた。
思い悩むを他所に、姜維は乱暴にの手を引き、立ち上がらせる。
どこに行く気だと思っていると、姜維は人目を避けるように廊下を小走りし、も仕方なくそれに付き合った。
姜維の出向いた先はシャワー室だった。
ぎょっとしていると、姜維はその奥にあるドアを開け、を引きずり込んだ。
「何、ここ」
「サウナ室だったらしいですよ。もっとも、今は使われてませんが」
何でそんなものが、と目が点になる。
バブル期にでも、業者に乗せられて作ってしまったのだろうか。そも、そんなものが会社に必要とも思えない。シャワー室があるのだって珍しい気がするのに。
姜維はの思惑には振り向きもせず、ドアにモップの柄を咬ませて鍵の代わりにしてしまう。
今は掃除用具が入れられているらしいが、取り立てて黴臭いわけでもない。秘密の場所としては、なかなかいい具合だった。
物を退かしたり埃を払ったりしている姜維を見ていると、の気持ちは段々と冷静になっていく。
こんなことしてまで、しかも二回目なのに、職場でなんてと考えると、妙に気恥ずかしい。
「あ、あんな、姜維くん」
会社が終わってからでいいのではないだろうか。
帰り道、時間は早いかもしれないが、それならまだ道義としても筋が通る気がした。
おどおどと切り出そうとしたを、姜維がにっこり笑って抱きすくめた。
その笑みは、いつもの可愛い年下の男の子のものではなく、妙に男臭い色気のある笑みだった。
「ちょ」
ずるいと言いかけた口を、姜維が塞いでしまう。
開きかけた唇に舌が侵入し、するすると撫でさすっていくのがくすぐったいような気持ちいいような、不思議な感じだった。
胸乳に姜維の指が這い、は背筋をびんと反らせた。
「固くなってます」
言わんでいい、と文句を言いかけ、結局言えずに口篭る。
不貞腐れたようにそっぽを向くに、姜維は無言でブラウスのボタンを外した。
指で引っ掛けてブラを持ち上げられると、他愛無く上にずれたブラから円い胸乳が転び出る。
ぷる、とゼリーかプリンのような弾力で震える肉に、姜維は舌を這わせる。
吸い上げるような音に、の腰が砕けそうになった。
中腰での胸乳を舐めしゃぶっていた姜維は、不意にの後ろに回る。
「な、何」
「汚してしまうといけないので」
背中から抱き締められて、は思わず声を上げた。
ぞくぞくした感触が背筋を走り抜け、尻に力が入る。
「……可愛い、さん、可愛いです」
「な、何言って……」
可愛いと繰り返し耳元で囁かれ、は体が熱くなるのを感じた。
背中に密着する姜維の胸板は、思ったよりもずっと厚くてたくましい。押し付けられるだけでよがってしまいそうで、は慌てて振り解こうともがいた。
「あっ」
力を入れようと広げた足の間に、姜維の指が滑り込んできた。あっという間にストッキングとショーツを押しのけて、痴丘にある割れ目に辿り着いてしまう。
「凄い」
呆然としたような声に、顔が焼きつくような恥ずかしさを感じた。恥ずかしいと思えば思うほど、ぬるぬるしたものが溢れてくるような気がして、はきゅっと唇を噛んだ。
「な、なんや恥ずかしー……」
どうしようもなくて顔を抑える。
その間も、姜維はに『可愛い』を言い続け、指先での恥部を擦り上げる。
年下の癖に、自分だってもう我慢が出来ないくせに。
「もう、姜維くん」
怒りの滲む声に、姜維ははっと我に返り、指の動きを止める。
「時間、あんまりないんよ」
振り返らないの耳が真っ赤だということに、姜維はふと気が付いた。
の指がスカートをたくし上げ、ストッキングごとショーツを引き摺り下ろす。
指を締め付けていた覆いがなくなり、冷たい空気が触れた。
ぱさり、と乾いた音がして、床に脱ぎ捨てたショーツとストッキングが丸めて捨て置かれていた。
「……早よ、して」
たくし上がったスカートから、の白い尻のラインが隠しきれず露になっている。
すべてが見えているわけではないからこそ引き立つ淫靡な様に、姜維は生唾を飲んだ。
「さん」
もどかしげにベルトを外す音、次いでジッパーが擦れる音がし、はわずかな時間放置されたままそれを聞いていた。
かさかさという音に、姜維がコンドームを持ち歩いてたという事実を知り、無性に可笑しくなる。
余裕があったのは、そこまでだった。
スカートが、自分の手ではない手で持ち上げられる。
心臓が、ばくんと跳ね上がった。
押されるように木の台に手を置くと、の隠されていた部分すべてが姜維の眼前に晒される。
飛びついてきた姜維に、の体も弾むように揺れる。
がばっと覆いかぶさるように抱きつかれ、すぐさま尻の柔肉に姜維の指が食い込んでくる。
潤んだ秘裂に熱い肉棒が差し込まれ、ずぶずぶと音を立てた。
「……ふ……ぁ……、さん……さんっ……!」
上擦った声がを呼ぶ。
答える代わりに、は足の間に力を篭めた。
姜維の体がびくんと跳ね上がり、の中に悦の波紋を作る。
「あ、駄目です、ごめんなさい、すみません、さん」
言うなり、遮二無二腰を突き込まれる。
崩れ落ちそうになるのを必死で律して、姜維の猛攻を必死に耐えた。
擦り上げられる膣壁は、最早どろどろに蕩けて判然としない。ぐちゃぐちゃになった肉の中で、太い芯のような姜維の存在だけは知覚できた。
「いい、いぃんよ、きょ、いくっ……あっ、あぁっ……」
詫びなくてもいいのだと言っているつもりだったが、気持ち『いい』と訴えているようでもある。
どうでも良かった。
ぞわぞわして、津波の前の波のように、体の中が一気に引き絞られる。
「あぁっ、あかん、も、あかんっ……あかんのっ……!」
逃れようとくねる尻を、姜維が押さえつけて打ち付ける。
どくん、と心臓の鼓動のような音が蕩けた膣の中から聞こえ、汗ばんだの背中に、姜維が荒い息を落とした。
「遅くなったわ、堪忍ー」
フロアに駆け込んできたを、が笑って出迎える。
「駄目です、明日のランチはさんのおごりですよ」
「え、あかん、今月金欠や。堪忍して」
「駄目ですー」
ごめんと謝って、茶化して許してもらえるのは、築き上げてきた信頼関係の賜物だ。
それを軽んじてはならないとは思う。
そうやってきたし、これからもそうするつもりだ。
はでしかない。らしくやるしかないのだ。
それを気付かせてもらえる相手が居ることは、にとって掛け替えのない幸運である気がした。
先ほどの秘め事を思い返し、はわずかに頬を染める。
「さん」
の呼び声に、ぎくりと肩が跳ね上がる。
「な、何?」
「ストッキング、伝線してますよ」
顔を強張らせるに何か察するところでもあったのか、は疑うような眼差しでを見詰める。
「あ、ホンマ。変えてきても、ええかな」
「今日のおやつも、さん持ちです」
分かったわい、と投遣に言い捨て、はフロアを飛び出した。
多少財布に犠牲が出ても、赤くなった顔を覚まさないことには、到底午後の仕事に集中できそうになかった。
終