下手をすると毎日のように来ていた趙雲の家に、は久し振りにやってきていた。
 久し振りと言っても、何日ぶりになるのかよく分からない。
 よく燃える紙切れに火が着いたように騒動は燃え上がり、また燃えやすいが故にあっという間に鎮火してしまった。
 騒ぎの後も、に託された重要任務を遂行すべく悪戦苦闘していたし、の異動に伴い事務系等をを筆頭に立て直すこととなってからは、通常業務においても混乱が生じていた。
 すべてが落ち着いたのは、今日のことだ。
 一番後回しにしていた趙雲との仲直りをした。
 本当は、趙雲自身に気が付いて欲しかったし、そうでなければいけないと思っていた。
 と付き合うからには、守ってくれなくては困るルールだからだ。
 べったりいちゃいちゃすることは出来るかもしれないが、相手の何もかもを許容して受け入れることなどできない。
 それは、という人格を廃棄することに等しい。
――『私』を愛してくれること。
 それがが趙雲というパートナーに望むことであり、例え喧嘩になってもいいから、お互いに支え合い何処までも高みを極めたいというのが、切望する理想だった。
――理想というのは、手に入らないものではないわ。
 実現できるか否かは、本人の努力次第だと思っている。
 趙雲も、が間違っていると思えばそう言えばいいのだ。指摘されたことに納得さえできれば、は自らの改善を厭わない。
 けれど、趙雲は何も言わない。言うことがないのか、はたまた言う気がしないのか、そういうことも判然としない。
――そのままの君が好き、という言葉は、耳触りは良いけれど。
――それじゃ私はイヤなの。
 わがままで傲慢で、ひたむきで一途なは、常に上を目指すことを止められない。
 趙雲には、何の曇りもなくぴかぴかに輝いていて欲しい。
 自慢したいのではなく(それも確かに少しはあるのだが)、何時までも夢中にさせて欲しいのだ。
 そしてその趙雲を、ぴかぴかの自分に何時までも夢中にさせてやりたい。

――私は欲張りなの。いつも一緒に居たいの。心も、体も、視点も、思考も、何もかも。
 目に思いを篭めて趙雲を見上げる。
 趙雲の目が、熱を帯びて熱い。
――同じように思っているかしら。貴方も。
――そうでなくてはイヤだけど、きっと今、これだけは一緒だって分かっていることがあるの。
「貴女が好きです、本当に、貴女が好きです」
「そういう甘い言葉は要らないわ、子龍。思っていること、素直に言ってみて」
 の言葉に、子龍の眼差しが揺れる。
 心よりも、その目の方が余程素直だと思った。
「……貴女が、欲しい。今すぐにでも抱きたい、
 私もよ、と答えて、自ら趙雲の唇を奪った。

「仲直りの印に、いつもと違うコトしてみない?」
 趙雲の目が不機嫌そうに揺れた。
 すぐさま抱こうと、服を脱がしにかかる趙雲を押さえ、二人代り番こにシャワーを浴びた。
 バスタオル一枚に包まれた体を向かい合わせ、いざという時になってまたが訳の分からないことを嘯くもので、趙雲は焦らされ過ぎて苛立ちすら感じていた。
 は気が付いていないのか、可愛らしく小首を傾げている。
――ああ、思い知らせてやりたい。
 趙雲の憤りは、炎が吹き上げるように熱く胸を焦がしていた。
「何でも、いいんですか」
 うん、と呟くの唇に、趙雲の喉はごくりと鳴った。
 いつもいつも、の唇は卑猥過ぎて卑怯だと思ってしまう。
 この口が甘く喘ぎ、この口が甘い吐息を零し、この口が自分の肉を咥えるのだ。
――マスクでもさせて、誰からも隠しておきたい。
 そう考えていると知ったら、は何と言うだろうか。盛大に呆れるか、大声で笑い転げるか、どちらかといったところだろう。
 趙雲はを抱え上げ、台所に向かう。
 注がれるいぶかしげな視線が、いっそ心地良かった。
 ダイニングに置かれたクラシカルな作りのテーブルは、大きさもさることながら太い脚に彫り込まれた美しい彫刻が売りで、その分かなり重い。
 テーブルの下が掃除しにくい点を覗けば、もお気に召した珍しい家具だ。
 その上にを寝かせる。
「冷た」
 が小さく悲鳴を上げたが、構わず寝かせておく。
 棚の中に仕舞っておいた目当ての小瓶を取り出すと、の元に戻る。
 趙雲の手の中で温められている小瓶を見て、は眉を潜めた。
「それ、どうするの」
「こうするんですよ」
 たらり、と粘度の高い金色の液体が、のはだけた胸に注がれる。
 液体は、の肌の熱を吸ってわずかに緩みながら、重力に引かれて弧を描く。
「子龍、甘いものなんて好きだったっけ」
「それほどでは。けど、一度やってみたかったんです」
 の柔らかな胸に、蜂蜜がねっとりと絡まりついている。
 それを舌で舐め取っていくと、の体がぶるぶると震えだした。
「何処で覚えてきたの、こんな、こと」
 途切れ途切れになる言葉が、が感じ始めていることを露にした。
「映画だったか、テレビだったか」
 粗方舐め取ると、再び蜂蜜を垂らしていく。胸から腹へと落としていくと、蜂蜜が綺麗な形に窪んだへそに溜まっていった。
「こんな、こと、したかっ、たの……?」
 へそに溜まった蜂蜜を舌で掬い上げるように舐めると、の声に小さく嬌声が混じった。
 蜂蜜がなくなっても、しばらくそのまま舐め上げていると、の足がもぞもぞと動き出す。
「したかったですよ。ずっと、それこそ喧嘩している間中、色々なことを妄想してましたよ、貴女で」
 口に出すのもおぞましいような妄想の数々を、が聞いたらどう思うだろうか。
――私はどうしようもない男なのだ。貴女もいい加減、思い知ればいい。
 趙雲は自らもテーブルに上がると、を跨いで膝立ちになる。
「甘いもの、好きだったでしょう?」
 の口元に、蜂蜜に塗れた昂ぶりを押し当てる。
 逆らわずに舌を伸ばしたを確認し、趙雲はの秘部に流し込むように蜂蜜を落とした。
「ひぁ……んっ……」
 可愛らしく声を漏らすに、趙雲は微笑んだ。
 舌を伸ばして舐め上げると、の足がびくびくと震える。
「あ……ん、あ……そこ……あん、あ……」
 声に促されるように熱心に舌を動かせば、も負けじと張り合うように舌を動かしてくる。
 互いに互いの秘部を舐め合い、蜂蜜を残らず舐め取ってもまだ執拗に舐め上げた。

 体を起こし、向きを変えると、は頬を染めてぽーっと中空を見つめていた。
 小さな唇から赤い舌が覗いていて、趙雲はそこに蜂蜜を垂らして舐め取る。
 が舌を出して応じ、お互いの舌を舐めあうようにして蜂蜜の甘露を楽しんだ。
 息が上がり、衝動は耐え難いものになっていた。

 促す声に、目を閉じて横たわっていたが身動ぎする。趙雲が導くのに任せ、テーブルの端へと移動した。
 趙雲はテーブルの下に降り、の足を自分の方へと引き寄せた。
 足首を掴んで掲げると、そこにあるの秘部を見て、ふっと笑ってしまった。
――小さい。
 は、唇の造作の小ささに合わせたかのように、こちらの造作もまた小さく可愛らしい。
 陰唇とはよく言ったものだと感心しながら、趙雲は昂ぶりを沈めていく。
「……あっ、ああっ、ん、挿っ、くる、ぅ、んん……」
「ええ、挿れてますよ、。わかりますか。当たっていますよ、ほら」
 酷く狭い膣壁を、押し分けるようにして腰を進める。
 最初の時は、全部入るのかと心配になったほどだ。
 の中は、趙雲のものを根元まで受け入れて、ちょうどぴったりだった。それこそいつも感動するほどで、わずかに違和感のある『行き止まり』を感じると、下腹がの尻にぶつかって止まる。
 愚かしくも愛しい一致を、趙雲はこの上もなく幸せなことと感じていた。

 尻に趙雲の腹が当たり、耳障りな音を立てる。
 引っ叩かれているようで、は自虐の悦を感じていた。
 後ろからされるのはあまり好きではないが、この音はとても卑猥で、割と好きだった。
 一度目は腹の上に出して、二度目はちゃんとゴムを着けてしている。
 安心感のせいか、趙雲の動きは更に激しく、乱雑なものになっていく。
「あ、あぁん、も、しりゅ、もっ……」
 昂ぶり極まりそうになっているのに、趙雲は許してくれない。更に激しく煽るように動かれて、逆に頂点が遠のいていく。
 先程からこんなことの繰り返しだ。
 もう、が、もっと、に聞こえているのかもしれない。
 些細なズレ。
 いつも、こう。
 けれど、そのズレが二人一緒に居るのだと証してくれるようで、耐え難いのにたまらない。
――子龍、好き、大好き、もっと私を感じてね。
「……っりゅ、好きぃ、あ、す、き、っと……!」
 折角気持ちを素直に言おうと思ったのに、趙雲の動きが激し過ぎて言葉が言葉にならない。
――ま、こんなもんでしょう。
「……っ、もう……!」
 切羽詰った声で呼ばれると、たまらない悦が込み上げる。
 一際高い声を放ち、は達した。

 一緒にシャワーを浴びながら、体を洗う。
 趙雲は手のひらにボディソープを泡立てて、そのままの体を洗っていた。
 妙に執拗に撫でさすられている気がして、は背後に居る趙雲を軽く睨めつけた。
「えっち」
「なっ、ち、違いますよ!」
 蜂蜜が落ちないと困るから、とか何とか言い訳を始めた趙雲に、は唇を尖らせた。
――何だ、違うんだ。
「え、何か言いましたか
 何でもないと誤魔化して、趙雲にもたれかかる。
「また、喧嘩しよっか、子龍」
「私は御免です。何だってそんなことを言い出すんですか」
 一気に機嫌を悪くした趙雲に、はくすくすと笑った。
「だって、凄いえっちしてくれるんだもん」
 真っ赤になって固まってしまった趙雲に、は軽いキスをした。

  終

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