手料理が食いたい、と、そこまで露骨なことは言わなかったつもりだ。
 何がきっかけだったかは思い出せずにいたが、とりあえず今、が家の台所を占拠している。
 任せるっスよ、と言うなり台所から追い出されてしまった。
 しかし。
 どごんっ!
 台所から聞こえてくる破壊音に、夏侯惇は頭を抱えた。
 どごんっ!
 ある一定のリズムで繰り返されるこの騒音に、近隣の住民から苦情が来ないかと冷や冷やしている。
 何を作っていたら、あんな音になるのかわからない。
 入ろうとすると邪魔だといって追い出されるから、夏侯惇はが何を作っているのか未だに知らないのだ。
 食べられるんだろうな。
 いや、それ以前に死なないだろうか。
 ではなく)が聞いたらその場で正拳突きが飛んできそうなことを考えつつ、夏侯惇は組んだ手の中に額を押し付けた。
 どごんっ!
 騒音はしばらく、夏侯惇に嫌がらせするかのように続いた。

 だいぶ時間が過ぎて、夏侯惇はと差し向かいに座っていた。
 目の前には、小山の如く盛り上がった白い物体、否。
 うどん。
 盛り付けるのに使われている、編みこまれたざるはそれなりに大きい。
 にも関わらず、うどんの山の頂上は夏侯惇の目の高さに届く。
 いったい何人前なんだ、とぼんやり考えた。
「食べないデスか?」
 の前にも夏侯惇の前に置かれたのと同じざるが置かれている。高さも同じくらいだったのだが、もう胸の辺りまで目減りしていた。
 慌てて箸を取り、ざるうどんを啜る。
「やっぱりうどんは打ちたてが一番デスよー」
 うんうんと頷きながら、珍しくにこにことしているに、夏侯惇は何とも言えない目を向けた。
 手料理といえば手料理だが、手料理と言っていいのだろうか。
 腹立たしいことに、が言うとおりうどんは美味くて、それが余計に癪に障った。

  終

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