「うどん、嫌いデス?」
「いや、美味かった。美味かったが、その、何か違うものにしてくれ」
 あれだけの量がつるりと入るうどんの美味さは確かに脅威だったが、やはりどう考えても手料理とは何かが違う気がする。
 日を空けてを呼び寄せ、再び『手料理』を作らせることにした。
「……言っておくが、蕎麦は禁止だぞ」
「お蕎麦、嫌いデス?」
 じゃあどうしようかな、とぶつぶつ言っているのを聞き及び、打てるのかとツッコミ半分、釘を刺して置いて良かったと思った。
「……ラーメンも禁止だ」
「ラーメンも嫌いデス?」
 嫌いじゃない、とにかく麺類は禁止だと言い含めると、はきょとんと夏侯惇を見上げた。
「ラーメン、ぐんぐん伸びてカッコイイデスよ?」
 こう、ぴゃーっと、と麺の軌跡を描かれるに及び、麺類禁止にして良かったと安堵した。

 かなりの間待たされて、出された料理に夏侯惇は絶句した。
 かなり大き目の深皿に、煮込まれたキャベツがまるごと一個、でん、と出された。
「……何だコレは」
「キャベツデスよ?」
 それは見て分かる。
 呆然とする夏侯惇を尻目に、は差し向かいに座り、いただきますと手を合わせた。
 仕方なく夏侯惇も手を合わせる。
 は、脇に用意していたナイフとフォークで、キャベツをずばずばと切り分けた。
 その一片を夏侯惇の皿に載せ、深皿に満ちたスープをかける。
 中に何か仕込まれているのかと思ったが、どう見てもただのキャベツだった。
 おそるおそる口に運ぶ。
「…………」
 美味い。
 芯と外側の葉が均一に柔らかく煮込まれたキャベツは、甘みが程よくスープに絡み、またそのスープも見た目より遥かに複雑な、滋味溢れるものだった。
「何だ、コレは」
「キャベツデスよ?」
 はもしゃもしゃとキャベツを頬張っている。
 これ以上は訊いても話が進むまい。
 見切りを付けた夏侯惇は、黙ってキャベツを頬張った。
 しかし、やはり手料理ではない気がして、複雑な心境に駆られるのだった。

  終

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