残業しているの背中を、夏侯惇は何の気なしに見ていた。
元気がないというか、いつもと違うというか。
これ、と言えるものはないのだが、何かがおかしかった。
最近では、の仕草や雰囲気でだいたいの感情が読み取れるようになった。
一風変わった娘だが、女にありがちな演技や作った顔がまったくないだけ、夏侯惇には読み取り易く感じられた。
だが、これは夏侯惇だけの話らしく、他の者は(それこそ曹操さえ)の考えていることが掴めないと思っているらしい。
普段から鈍いの察しが悪いのと言われていた夏侯惇は、そんな訳で少しばかり自慢だった。
一緒に仕事をしている、恋人として付き合っているという加算はあっても、人を見る能力に長けた曹操でさえ不可解なを夏侯惇は理解できるのだ。自慢に思わずには居られない。
別に、皆も本当に夏侯惇が鈍いと言っている訳ではない。
鈍いのは極一方面、色恋沙汰の誘い掛けに集中する。何気なく誘われても、夏侯惇にはぴんと来ないらしい。
それで、周囲の人間は夏侯惇を鈍いと称し、夏侯惇は自分はもてないと思い込んでいる。
閑話休題。
だからこの時の夏侯惇は、の感情が読み取れないことに戸惑った。読み取れないというより、初めて見せる感情なのではないかと気付いた時、不意にが席を立った。
くるり、と転進して夏侯惇の隣に回りこんでくる。
どうした、と声を掛けるのと、が夏侯惇の足元にひざまずくのはほぼ同時だった。
ジィーっと甲高い耳障りな摩擦音が聞こえ、股間にこそばゆい感触が走る。
「何をしている」
慌てて取り押さえるも、はじたばたと暴れて夏侯惇の言うことを聞こうとしない。
子供っぽい外見とは裏腹に、何処か浮世離れして超然としているが、こんな駄々をこねるのは珍しい。
だが、人気がないとはいえ一応ここは職場のフロアだ。
突然誰が来てもおかしくないという状況下で、事に及ぶような厚顔無恥さを夏侯惇は持ち合わせていない。
男の力に敵うべくもなく、はぺたりと床に座り込んだ。
「どうしたんだ、急に」
ファスナーを上げる夏侯惇の指を、は恨めしげに見ている。
口をへの字に曲げているのも、としては珍しいことだった。
「……したいなら、帰ってからにしろ。俺の家に来るか」
がいったい何をどうしたいのかが読み取れず、とりあえず誘ってみるのだが、はふるふると首を振った。
「俺が、お前の家に行っても構わんが」
何なら、ホテルに寄ってもいい。
阿呆な誘い方だとは思ったが、が反応してくれないことには夏侯惇とて手の打ちようがない。
周囲の人間をして分からぬと言われるだから、その表情仕草から感情を読み取れない今、夏侯惇にさえもが何を望んでいるのかは計りかねた。
だが、はただ無言で首を振るのみだった。
とことことパソコン前に戻り、また作業を再開させる。
怒っている様子もしょげている様子もない。
それだけに、何か得体が知れなかった。
夏侯惇は、一旦読み掛けの書類に目を戻したが、集中できずにすぐ苛付いて髪をかき上げる。
指の第二節を噛み、の背中を薮睨みに睨んだ。
「」
呼び掛けても、振り向きもしない。
いつもなら、名前の第一音で素早く察して振り返る。反応が異様に早いのだ。
だからこそこんな風に振り返らないの背中は、夏侯惇にはひたすら苛立たしくなる。
自分から席を立ち、の隣に立つ。
ファスナーを下ろすと、夏侯惇を見上げたの目が丸く見開かれた。
夏侯惇自らが引きずり出した肉に、の舌が絡む。
教えた覚えはない。
何処かで学習してくるのだろうが、日に日に上手くなっていっているのが妙に不安を駆り立てた。他に男が居るのかも知れぬと思ってしまうのだ。
そんな訳があるかと思いつつ、しかしの気質ならとも考えてしまう。
溜息を吐いて思考を止める。
こんな馬鹿げた感情は、には決して理解できまい。
捕らえたいと足掻くのは、囚われないの性質のせいかもしれなかった。
ぴちゃぴちゃと音を立てていた舌が引っ込み、大きく口を開けて夏侯惇の肉を先端からそろそろと飲み込んでいく。
前歯が掠め、肉の表面をわずかにこそげていくのが何とも言えない。
堅く勃ち上がる肉に、の手管も徐々に熱が込められていく。
挿入する時のように激しく前後したかと思えば、膣壁のように締め上げる。唐突に冷たい空気に晒された直後、舌でねっとりと舐められて怖気に似た快楽が背筋を走り抜けた。
「……ここで、するか」
口より、膣で放出したい。
単純な欲望が、理性を凌駕した。
は何の躊躇いもなく頷くと、自分で服を脱ぎ出した。
焦らすこともなく上から順にぱっぱと脱いでいく途中で、夏侯惇は何気なくの手を止めた。
「それは、いい」
服と呼ばれるものは、既にすべて脱ぎ捨てられていた。
残っていたのはオーバーニーと、にしては珍しいアンクルベルトの付いたパンプスだけだ。
人形のように滑らかでつるんとしたの体に残されたそれらは、場所の非現実さと相まって淫靡を極めた。
夏侯惇は内ポケットに仕舞っておいた薄いケースを取り出すと、中からスキンを取り出す。
「……いつも、持ってるデス?」
「いつ、こんなことになるか分からんからな」
夏侯惇が答えると、何故かの体が醒めていく。
しかし、夏侯惇は構わずを抱き寄せた。
誘い掛け、その気にしたのはの方だ。責任を取らせても文句はなかろう。
夏侯惇は手早くスキンを装着した。
挿入しようとを抱えるが、はこの場に来て抵抗し始める。
じたばたもがくに焦れて、夏侯惇はその唇を奪う。呼吸をも飲み込む勢いで口付け、何度となく角度を変え貪った。
指はの秘部に滑り込む。指先で朱玉を刺激してやれば、の尻がひくひく蠢くのが分かった。
やっと抵抗が止んだところで解放してやると、の体はくったりと崩れた。
そうしていると、本当に人形のようだ。
背中から抱きかかえ、膝裏を持ち上げてしまう。
今、フロアに誰か入って来たら、夏侯惇を飲み込むの姿を余すところなく見せつけられるだろう。
が羞恥に萎縮することはなかったが、夏侯惇自身がその病的な妄想の奔流に押し流された。
「やっ、惇さんの、また大っきくなっ……」
処女から仕込んだの膣は、夏侯惇の肉の形にぴったり添うように抉れている。
締め上げ、貪欲に肉を貪る濡れた穴を、夏侯惇は無我夢中で突き上げた。
オーバーニーを脱がさなかったことで滑ることもなく、の体を抱え上げるのは容易い。
デスクの上に浅く腰掛け、足を押し上げてやるだけで夏侯惇の肉棒は確実にを責め上げ、その体は小気味良く跳ねた。
「ひ、あ、あ、あ……」
の声は小さい。
だが、その表情は、声音の色は、の快楽の度合いを鮮烈に夏侯惇に伝えて寄越した。
ここ最近で、急に慣れた。
気持ちいいとは言っていたが、意識もしっかり残っていたし、挿入時には痛みを覚えて顔を顰めていることが常だった。
今は違う。
視線は茫洋として定まらず、半開きの唇が捕らわれた獣のように戦慄き、夏侯惇を甘く誘う。滑らかな白い肌が悦の熱に焼かれ染まるのが、夏侯惇には何物にも変え難い快楽を与えるのだ。
震える体が、が達しようとしていることを告げている。
先刻口で与えられた悦で、夏侯惇のものも限界が近かった。
「……達くぞ」
耳元で囁くと、は大きく息を吐き出した。
夏侯惇の精が噴き出すと同時に、の体は硬直し、夏侯惇の残滓を振り絞った。
恍惚としながら最後の悦に浸っていると、抱え上げたからまたあの不可思議な感情を感じる。
「あのヒトにも、こんな風に出しちゃったデス?」
強張った声音に、ようやく夏侯惇は気が付いた。
これは、嫉妬だ。
おかしな感動があった。
人形のような娘も、嫉妬することがあるのだ。
その感情が自分に向けられたことに、夏侯惇は強い感銘を受けていた。
「……ここ最近、お前以外に抱いた女は居ないぞ」
が何を何処でいつ見たのかは知らないが、天地神明に賭けて心当たりがない。恐らく、社外の女性と打ち合わせか何かで会っていたのを目撃し、勘違いしたのだろう。
あまりにありきたりな焼餅に、しかしがと思うと夏侯惇の口元に笑みが浮き上がる。
だと言うのに。
「じゃあ、あのヒト、男の人だったデスか」
あんまりなの言い草に、夏侯惇は引き続き仕置きせざるを得なかった。
終