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「ねぇ、賈詡殿」
賈詡の決して狭くないデスクの両端には、渦高く書類が積み上げられている。
モーゼの如く割られた空間は、橙子の為に設えられたかのようにフィットしていた。
ただ、無論賈詡のデスクは
橙子が身を投げ出すように用意されたものではないから、これは単なる偶然といえる。
「女史」
「何?」
「その体勢だと、女史の下着が御開帳ということになりはしないかな」
確かに、橙子のタイトなスカートで尻を突き出したりしては、スカートがたくし上がってエライことになりそうだ。
けれども、橙子は動じなかった。
「大丈夫、このスカートは、賈詡殿のデスクに身を乗り出してもギリギリ中が見えない丈なの」
「……いつ、試したんだい?」
「先月、忘れ物を取りに来たついでに」
何をしているんだろうなぁ、と賈詡が溜息を吐く。
「そういう時は、俺を呼んでくれなくては。本当に見えないかどうか、第三者の視点で確かめる必要があるだろう?」
「大丈夫、まかり間違って見えてしまっていたとしても、現時点で夏侯惇殿が何も言わないということは、セーフなのよ?」
引き合いに出された夏侯惇は、一瞬嫌な顔を見せたがすぐに目を反らした。
露骨なまでに『赤の他人です』な態度は、このフロアでは至って模範的な対応である。二人に敢えて関わろうという物好きは、早々居ないのだ。
「橙子さん、私で良ければ承るけれど?」
早々居ない人間の一人たる郭嘉は、どこからともなく現れて話に混ざろうとする。
だが、当の橙子からあっさり拒絶された。
「嫌よ、郭嘉殿は十把一絡げだから」
「それは、悲しい誤解だ」
大して悲しくもなさそうな顔で髪を梳き上げると、郭嘉はその場を辞す。正に、疾風のように現れて、疾風のように去っていく郭嘉だった。
そして、橙子と賈詡は、郭嘉の退場を気にも留めずに会話を続ける。
「ねぇ、賈詡殿」
「女史」
「何?」
「その体勢だと……」
否、ループする。
しかける。
「会話が繰り返されてるわよ」
橙子のツッコミに、賈詡は肩をすくめた。
「一応、踏襲しておいた方がいいかと思ってね」
「無駄だわ。時と資源は、大事にしないと」
「すべて無駄として切り捨てるのも、どうかと思うけどね」
そうね、と橙子が頷く。
そうだろう、と賈詡が頷く。
「それでね、賈詡殿」
「女史」
「何?」
「その体勢だと……」
「飽きたわ」
ずばりと切り捨てられるも、賈詡は至って平静に、そうだな、と同意の意を示した。
「回りくどいことは止めて、仕事をしよう、女史」
「もう、終業時間だけど」
就業時間内に滔々と私語を続ける程、無神経ではない。
賈詡は、そうだな、と頷いた。
「では、明日に備えて早々に退社するとしよう」
いつの間に用意していたか、荷物を詰め終えた鞄とコートをデスクにとんと置き、賈詡は身軽く席を立つ。
しかし、持ち上げようとした鞄は持ち上がらない。
橙子が押さえているせいである。
「女史」
「何?」
「この体勢だと、俺は帰れないんだが」
「邪魔なんかしてないわよ? 帰ったらいいじゃない?」
けろりとして言い放つ橙子と、賈詡の視線が複雑に絡む。
行為の割に、色気はない。
賈詡は、大仰に溜息を吐いて腰を下ろした。
「じゃあ、あんまり聞きたくないけれども話を聞こう」
大層な言い分である。
人によっては、気分を害するレベルだろう。
「うん、あのね」
よらない橙子は、気分を害さなかった。
再びデスクに身を乗り出し、胸を強調する形で腕を組む。
「ホワイトデーの、お返しを頂戴?」
「ああ」
賈詡は、ぽんと手を打った。
「それを先に言ってくれないと」
「それは、悪かったわ」
ようやく話が進展した。
「女史」
「何?」
「俺は、女史からバレンタインのチョコレートをもらってないよ」
沈黙が訪れる。
「……そうだったかしら」
「そうだよ。女史が俺にチョコをくれたら、空から槍が降るじゃないか」
そんな大惨事、忘れる訳がないと賈詡は力強く握り拳を固める。
「降らなかったかしら?」
「……降ったかい?」
これは迂闊と携帯で検索を掛け始めた賈詡と、背伸びしてその手元をのぞき込む
橙子の目は、真剣そのものだ。
「……お前等、いいから帰れっ!!」
夏侯惇の、我慢の限界がきた。
フロアが震える怒声に、居合わせた者は一様に肩をすくめたが、賈詡と
橙子のそれはどこか芝居掛かっている。
二人は無言のまま、打ち合わせたわけでもなく同時にフロアの出口へ進んでいた。
「どこに行こう?」
「気分的には、酒泉?」
賈詡が頷き、エレベーターのボタンを押す。
折り良く到着した箱が、自身の到着を知らせて小気味良い音を立てた。
今日は夏侯惇の水入りで終わったので、ワリカンである。
終