司馬懿の直下で働くことになって、早一月が経とうとしていた。
直下と言っても、要するに雑用係として召し上げられることになったまでだ。
然したる経験も知識もない友貴が、突然直属の配下扱いになっては差障りがあったのかもしれない。
とは言え、自分の実力を弁えている友貴にとっては、司馬懿の傍で働けること自体が光栄なことだ。
嫌な顔もせず(時折半泣きになってはいたが)怒鳴られている友貴に、元から司馬懿付きだった文官や家人の同情は厚かった。
最初は幾日も持つまいと思っていたものがせっせと頑張っている様は、邪な嫉妬ですら排除してしまうものらしい。次第次第に友貴は受け入れられていたのだった。
一日の業務がようよう終わり、肩で息を吐く友貴と司馬懿以外は既に帰路についていた。
友貴は、何だかんだで後片付けがあったので、どうしても一番最後にさせられてしまう。この日もまたそうだった。
「友貴」
呼ばれ、片付け途中の竹簡を抱えたまますっ飛んでいく。
この『すっ飛んでいく』のが重要なのだと、先日雑事に従事していた文官から教わってからは忠実に守るようにしていた。
司馬懿がやや面白くなさげな顔を見せるが、毎日怒鳴られてばかりでは幾ら友貴でもめげようというものだ。
「これを読んでおけ。灯りはこの室のものを使って構わん。私は少し所用で出てくる。それまでには読み終えておけ」
友貴の返事も待たず、いいな、と勝手に念押しして出て行ってしまう。
扉が閉まる寸前、慌てて了承の返事をしたが、司馬懿がちらとでも振り返ることはなかった。
溜息を吐きつつ、高い棚に竹簡を仕舞うように置かれた踏み台を引っ張ってきて、灯りの傍に据える。
文字はそこそこ読めるとはいえ、司馬懿の読むような難解な書を読むのは一苦労だ。
頑張って読まないと、と思った友貴は、しかしそこに記された文章の書き出しに首を傾げた。
――陽と陰とを上手く結ぶ法。
てっきり、史書か何かだと思い込んでいた友貴は、その一文にじっと目を凝らす。
意味は分からないが、何の書なのだかの見当も付かないでいる。
するすると竹簡を解くと同時に、友貴は顔から火が出るような錯覚を覚えた。
そこに記してあったのは、男女の繋がり方を説明したものだった。様々な名前が列挙されており、次にどのように繋ぐかが記されている。
慌てて閉じて、どうしようかと辺りを見回す。
司馬懿が間違えたのだろうかとうろたえるも、当人が居ないでは訊ねようもない。
そも、司馬懿がどうしてこんな書を保持しているのか、その点も友貴には疑問だった。
読んでおられるのだろうか。
あの司馬懿が真面目な顔をしてこれを読んでいる様など、想像もできなかった。
だが、読んでいるとしたら。
恐る恐る広げて、また慌てて閉じる。
読みたいような読みたくないような、複雑な気持ちに駆られた。
どうしよう、でも。
そうだ、と思い出す。
司馬懿は戻るまでに読み終えておけと言っていた。仮にこれが間違いであろうと、司馬懿の命に間違いは存在しない。何故読まなかった、何故命に従わなかったと叱責されるのがオチだ。
友貴は覚悟を決め、竹簡を広げた。
読んで、読み切って、司馬懿が間違いだと気付いた時には何事もなく澄ました顔をしていればいい。
最も問題が起こらなそうな解決方法は、それしかない。
――陽具を怒らせ、陰具を跨がせ徐々に陰液に馴染ませる。
勃たせ、その上に跨って擦り付ける。
読むとなると意味合いも読み取りながらになるので、友貴の顔は真っ赤になったままだった。
司馬懿に抱かれた記憶が鮮明に蘇り、体が熱くなる。
友貴が上に乗せられ、腰を振るように厳命された時があった。
あの時はなかなか入らなくて……と、記憶が文章に触発される。
でも、体がとっても熱くなって、お尻が勝手に揺れちゃって、司馬懿様のに擦り付けるみたいになって。
「や、やだ、どうしよう……」
体が震えてしまう。
胸の先端を淡く彩る朱が、固くしこって布地に擦られるのが分かった。
尻から背中に掛けて、ぞくぞくとした感覚が何度となく迸る。
慰めないと、収まらない。
事実としては理解できたが、司馬懿の執務室でそんな真似が出来るはずもない。
おろおろと扉を振り返る。
司馬懿が出て行ってからそれ程経っていない。未だ、しばらくは戻らないだろう。
悩んでいた友貴だったが、おずおずと指を股間へ滑らせる。
「う、ん……!」
布地越しに熱を感じる。
司馬懿に仕込まれつつある体は、他愛もないことで蕩けるようになった。
片手は胸に回し、柔々と揉み込む。
それだけで十分な悦が生じるのは、ここが自室ではなく司馬懿の執務室だという事実のせいかもしれない。
股間に置かれた指に力を篭めると、蜜壺と化した秘部からじっとりとした感触が滲み出てくる。
布越しでは到底我慢しきれなくなって、怯えながら指を滑り込ませた。
ぬるりとした愛液が指に絡み付き、友貴を更に追い詰める。
「ん、ん……ど、どうしよう……司馬懿様に、見つかったら……」
ぱたん。
奈落に突き落とされるかのような寒気が走った。
振り返ることも出来ずに固まる友貴の背中越しに、嗅ぎ慣れた体臭が香る。
「読み終わったのか」
「……あ、の……」
司馬懿の手が友貴の手首を掴み、濡れた指を友貴自身に見せ付ける。
恥ずかしくて死にたくなってしまう友貴に対し、司馬懿は濡れた指を上から握り締めた。
「濡れているな」
「は……あの……」
「立て」
厳しく命じられ、友貴は半泣きになりながら立ち上がった。
「何故濡れている。何処が濡れたのだ。私に見せてみろ」
「あ、う、そ、それは……」
躊躇う友貴に、司馬懿は容赦なかった。下に穿いているものをすべて、突然膝まで引き摺り下ろしてしまう。
「何を躊躇う必要がある。此処以外にはなかろう」
司馬懿の指が秘裂をすべり、友貴は崩れ落ちそうになるのを必死で堪えた。
「書は、読み終えたのか」
「と、途中まで、です……」
行きつ戻りつ、襞を撫で上げるように滑る司馬懿の指使いに、友貴は眩暈を起こしてしまいそうだ。
「読み終えておけと、言い付けた筈だが」
「申し訳……申し訳、あ、ありませっ……」
陰核を突付かれ、友貴は司馬懿に縋る格好でもたれかかる。
体の中に熱く蠢くものがあって、最早恥も外聞もなくなってしまった。
「罰を、罰を、下さいっ」
悲鳴のように懇願を迸らせる友貴に、司馬懿は密かに唇の端を吊り上げた。
「自ら罰を欲するとは……しょうのない奴だ」
司馬懿は友貴の腰掛けていた踏み台に座り、服の裾をたくし上げていきった肉を取り出した。
友貴の目が細まり、飢えたようにそれを見つめる。
「先日より『腕』が上がっているか、確認してやろう。来い、友貴。自ら挿れてみせよ」
司馬懿の命に微かに頷くと、友貴は膝下にわだかまる装束や下着を脱ぎ捨てた。
足を開いて司馬懿の膝に跨るようにすると、少しずつ腰を揺らして司馬懿の肉を濡らしていく。
「お前は愚図だが、物覚えは悪くない。先程の書はくれてやるから、読み下して覚えるがいい。ただし」
実践する相手は、私のみだ。
当たり前のことを念押しされたような気はしたが、友貴は素直に頷いた。
震える膝を律して腰を浮かせると、司馬懿のものをそっと膣口に押し当てる。
「ん、んっ、ん……」
以前はここまでするのにも四苦八苦していた友貴が、今はゆっくりとではあるが滑らかに事を進めている。
本当に、物覚えは悪くはないのだ。特にこちらの方面に関しては。
司馬懿のものを根元まで飲み込んだ友貴の体は、瘧に掛かったように震え続けている。
熱った肌に汗が滴り落ちるのを、司馬懿は特等席で眺めていた。
「し、司馬懿、さまっ……!」
「許す。好きに貪れ」
途中までとは言え、書簡を読んで自ら慰めるまで昂ぶったのだろう。
ならば、そんな友貴がどのように狂うのか、見てみたかった。
「は、い、有難うございますっ」
掠れた声で礼を述べ、司馬懿の肩に掛けた手に力を篭める。
司馬懿は逆に友貴の肩を押さえ、『愛弟子』の『成果』を見届けようと目を凝らした。
終
【双屋のComment】
掲示板キリ番1111のリク消化です。
続きのようなそうでないような。
創意工夫は友貴嬢には無理そうでしたので、司馬懿が創意工夫してくれたということで。
他のお約束品は今やっておりますのでもう少しお待ち下さい。