■夢の残滓

 夜中、咲は喉の渇きを覚えて目を覚ました。
 起きだそうともぞりと身動けば、誰かの手が額の辺りをぽんと押さえる。
「……よぉ、起きたのか」
 苦笑混じりの声は、上官たる夏侯淵だった。

 咲が夏侯淵の参謀の一員として側に仕えるようになった時は、さすがに少々一悶着があった。
 童顔の割に肉付きの良い咲は、その体で夏侯淵を惑わせたのだという噂が流れたのだ。
 夏侯淵はその噂を取り合いもしなかった。
 が、咲に関しても何の助けも出さなかった。
 実力で評価するのが曹操以下のやり方であり、実力で何とかするのが本人の意地と言うものだ。
 咲の場合、実際夏侯淵の『処理』を任じられていたこともあり、噂を否定しきれない。
 妾で構うまい、妾としてなら居ても構わぬ。
 そう断じる者もなくはなかったし、咲にもその気持ちは察することが出来た。
 いわゆるぽっと出の素人が、したり顔で『軍師でございます』などと大きな顔をしていたら、面白い筈もない。
 弱いところがあれば叩きたくなるのが人間と言うもので、だから仕方ないのだと思った。
 ただ、咲とて言いなりにしてやるつもりなど断じてない。
 参謀に加われと言ってくれた夏侯淵の面子を潰すことなど、あってはならないことだった。
 仕事の合間も懸命に学び寝る間を惜しんで働く咲への信頼は、目で見て取れぬ程ゆっくりと、まるで水底に塵が積もるような速度で積み重ねられていった。
 陣を試算し形成する軍議の空気にもようやく慣れた。
 退路の確保に拘る咲の考え方は、一部好戦派には惰弱と罵られたが、守戦派には貴重な軍師として愛でられるようになった。
 全員が全員仲良くなれるのであれば戦など起こるまい。まして、咲自身は功を競わねばならぬ軍師の群れの中に居る。目を掛けてもらえる一派があるだけ恵まれているというものだ。
 今は、その一派を代表する軍師に色々と学ばせてもらっている。

 夏侯淵手ずから水を飲ませてくれる。
 椀に注いだ水を、口移しで含まされていた。
 夏侯淵の熱を吸って温くなった水が、咲の乾いた口腔を潤していく。喉を滑って落ちていっても、夏侯淵は咲を離そうとしなかった。
「駄目、です……こんな」
 明日の業務に差障りがあるではないか。
 咲の注意は小さく微かで、夏侯淵は聞く耳を持とうとはしなかった。却って強引に舌を弄り、吸われてしまう。
 体が熱くなって、視界が霞んでくる。
 頃合を見て、夏侯淵の指が咲の秘裂へと伸ばされた。汗ばむ腿の間に指が潜り込み、更に奥で溢れるものを探り当ててしまう。
 くちゅくちゅと水音を掻き鳴らし、朱玉を柔らかに擦る。
「……あ、あぁ、ぁ、ん……」
 切なげに啼く咲を宥めるように軽い口付けを落とし、空いた手で襟を割り胸元を露にした。
 豊かな乳房が大きく跳ねて、晒された空気の冷たさに咲の尻が浮く。
 頬や額に落とされていた口付けが、今度は胸乳の先端に落とされた。
「ひゃ」
 びく、とすくむ肩に、夏侯淵が笑う。
 舌先でくすぐられ、ねっとりと絡ませられると、咲の体は更に大きく身震いした。
「あっ、か、夏侯淵様、そこ、そこは駄目です、そこは……!」
「気持ちいー、だろ?」
 ちゅ、と大きな音を立てて吸われると、咲は一声高らかに啼いた。
 念入りに弄りながら、濡れそぼつ膣口に指を突き込む。
 慣れた体は夏侯淵の指を容易く呑みこみ、きゅっと強く締め上げる。
 咲の声が徐々に理性を失くし、夏侯淵が醸す悦の波に溺れているのが良く知れた。
「挿れっか」
「ん、は、い……挿れて、下さい……」
 迎え入れるように膝を大きく広げる咲に、夏侯淵も慣れた仕草で亀頭を押し付ける。
 ぐっと押し込むと、咲の体が大きく跳ねた。
「は、入ってくる、くる、よぅ」
 舌足らずな甘い呟きが、夏侯淵の耳元に吹き込まれる。
 固く目を閉じて挿入の悦を受け止める咲の頬は上気し、眦に快楽の涙が浮かぶ。
 適当なところで一度止め、中を擦るように動かすと、咲の中がぎゅっと締まった。
「やぁ、やぁだ、意地悪、しないで下さい……!」
 早く早くと咲の尻が浮き上がる。
「そっちのが、気持ちいーんじゃねぇか」
「ん、気持ち、いーけど……いい、けど、もっと強く……」
 強くか、と夏侯淵は一人言を漏らし、咲の膝裏を抱え上げる。
 ぐいっと一気に突き込むと、咲は顎を仰け反らせて悲鳴を上げた。
 夏侯淵が眉根を寄せて止まっていたのは、わずか寸の間のことだった。
「強く、強くと」
 言うなり、がつがつと音を立てて乱雑に突き込みを始める。
 咲の嬌声は悲鳴に近く、太く固い肉槍は容赦なく咲を襲い続けた。
「……おら、ご希望通り、強く、してんぜ……いい、か?」
 自らも荒く息を吐きながら腰を振る夏侯淵に、咲はこくこくと頷いて見せる。
「……あっ、いいっ、いいっ……淵様、の、いいよぅっ……」
 啜り泣きながらも夏侯淵のものを貪る。
 相変わらず体力はないくせに、こういったところは酷く貪欲だ。
「淵様、イッちゃ、イッちゃう、あたし、イッちゃうっ!」
「おお、達け達け。ナンボでも達け」
 朱玉を摘むと、咲の体が激しく痙攣する。
「やっ、淵様も、淵様も、お願いっ!」
 ふっと眼差しを翳らせた夏侯淵は、朱玉から手を外すと咲の腰を掴んで捻った。
「……今日は、お前の中、俺の出したモンで一杯にしてやるからな。零すなよ」
 言うなり横合いから強く押し込み、咲を翻弄する。
「く……出すぞ……!」
 体の奥底で爆ぜるものがあり、何かが咲の内側に溢れ出す。
 熱くて濃い感触に、咲は真っ白に染まった。強く強く引き絞り、夏侯淵の残滓もすべて啜り上げる。
「ん、くっ……ち、千切る気か……」
 夏侯淵が悲鳴を上げるも、咲は悦の波に攫われたままで聞こえていない。
 それでも夏侯淵が無理矢理引き抜くと、驚いたように一声啼いた。
 ぐったりと横たわる咲の尻を、夏侯淵が引き摺り上げる。
「まだだぜ」
 手早く勃たせて再戦に持ち込む夏侯淵に、咲は半ば気を失いつつも与えられる快楽に縋り付いていた。

 咲が目を覚ますと、夏侯淵が傍らに居た。
「……よぉ、起きたのか」
 昨夜と同じ声、同じ言葉に咲は不思議な違和感を感じた。
 きっちりと鎧を着込んだ夏侯淵の姿には、艶の残滓は残っていない。
 また夢を見たのかと、少しばかり残念な思いがした。
「今回は、良くやった……まぁ、城に着いてすぐぶっ倒れたのはご愛嬌だとしてもな」
 夏侯淵の言葉に、記憶が緩々喚起される。
 戦に負けたのだ。
 絶望的に負け込んで、撤退する道は咲の地図読みの力と夏侯淵の武が切り開いた。
 幾夜も費やしようやく城に着いたと同時に、咲は気を失った。それきりずっと眠ったままで、やはり幾日幾夜も過ぎているのだという。
 そう言えば、腹が空いたような気もする。
 咲が漏らすと、夏侯淵は苦笑した。
「……何だ、あれだけ食っておいて、まだ足りねぇってか」
 途端。
 足の間から滲み出たものがある。ぬるりとした感触には覚えがあった。
「か、夏侯淵様、何かいっぱい出てきちゃってます」
 混乱して嘯く咲に、夏侯淵は呆れ顔だ。
「零すなっつったろー?」
 どら、と上掛けをまくる夏侯淵は、当然のように腰のものを剥き出した。
「な、な、何するんですか」
 体が重いとは思っていたが、腰から下は動かせないほど酷くだるい。あれが夢でなかったとしたら、それも当然だと思う。
「何って、零れた分また注ぐんだよ。一発くらい、当たるかも知れねぇ」
 当たる?
 目を丸くする咲の膝を広げながら、夏侯淵はにやりと笑った。
「子供が出来たら言い訳も立つしなぁ。あいつらめ、お前を損なうは軍の損失なんて騒ぎ立てやがってよ。けどよ、元はと言えば俺様の嫁にするっつって横に置いたんだ。文句は言わせねぇ」
 軍師達が咲の寿引退を許さぬと騒いでいると、咲はこの時初めて知った。
 夏侯淵がはっきりと『咲を嫁にもらう』と明言したのも、実にこの時が初めてだった。
 訳も分からず泣き出した咲を、夏侯淵が抱き上げる。
「泣く様なことかよ」
 笑いながら、しかし子供をあやすようによしよしと優しく抱いてくれる。
「……して」
「お?」
 涙で顔をくしゃくしゃにした咲は、思い通りにならぬ体を無理矢理動かして夏侯淵に縋る。
「して、孕ませて下さい、淵様。淵様の子供、あたしに生ませて下さい」
 とんでもなく赤裸々な言葉に、夏侯淵は一瞬唖然とし、次いで笑った。
「……おお、だけどな、孕ます前にすることがあるわな」
 何を、と目線で問い掛ける咲を、夏侯淵はそっと下ろした。
「滅茶苦茶、気持ち悦くしてやんぜ?」
 二人で顔を見合わせ、同時に吹き出す。
「して、淵様。滅茶苦茶気持ち悦くして、それで気持ち悦くなって。あたしの中、淵様のでいっぱいにしちゃって下さい」
「おおよ」

 未だ明るい時間に始まってしまった情事は、人払いの効果をも併せ持っていた。
 あまりに露骨な嬌声と紡がれる音に、誰しも土足で乗り込むような度胸を持てなかったのである。
 近寄るに近寄れず、事が済むまで延々と待たされた人々を酷く悩ましめたのだった。


  終

【双屋のComment
昇進特典のSSです。
お待たせいたしましたー。
結局エロになりました。そんなこともあります。

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