■ 品子 V.S 蔡紫

■武器対決

 偶然にも国を治める主家の血筋に仕える者が、この題目を引き当てることとなった。
 品子は主家筋どころか当主その人たる曹操の『側近』であり、蔡紫は孫家次男孫権『側』に仕える身である。
 どちらも『曰くあり』と噂を立てられる女性であった。
 また、どちらもそのことを恥じていないことも共通している。
 品子はちらりと目線を向ける。
 蔡紫は動じることもなく、艶然と微笑んだ。
「……?……」
 微かな違和感を感じ、品子は曹操から借り受けた倚天の剣を強く握り込む。
 蔡紫は頬笑みを消さぬまま、皇狼剣のに唇を寄せた。
 対決の開始を告げる声に合わせ、剣と剣とを打ち合わせる。
 どちらも慣れぬ武器ではあるが、実戦の経験が勝る分、蔡紫の方がやや有利に見えた。
 品子の表情は晴れない。
 何故だか蔡紫が本気で打ち合っているように思えないのだ。
 言ってみれば、巧妙に隠された慇懃無礼を肌で感じる。
 心地よい筈もなかった。
 蔡紫は、表情を必死の形相に取り繕いながら、内心では落ち着き払っていた。
 曹操の女を下手に傷付けては、後々の遺恨になる。こんな遊びで本気を出すことはない。
 つまらない意地を勝ち取るよりは、すべては後の、交渉の為にこそ人事を尽くすべきだと思った。

――勝敗結果:品子の辛勝

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