■隠し芸対決
題目を聞いた時、菊華は伏せがちの(糸目とも呼ばれる)目を思い切り見開いてしまった。
万事、緩い事柄には縁のない人である。
その硬派一直線の人が、よりにもよって『隠し芸』の披露を強要される日が来ようとは、本人のみならず菊華を見知った者であれば誰しも大なり小なりの衝撃を受けたことだろう。
ところが、特別出場という名目で現れた(本当に、誰がどうやって呼んだのか知る者がなかった)対戦相手は、題目を知るなりにっこりと笑った。
「おお、隠し芸とあれば望むところでござる!」
言うなり、開始の言葉も待たずさっさと芸の披露を始めた。
よくよく考えてみれば仙人の弟子とかいう小雨のこと、この手の奇術幻術は得意中の得意であって、隠し芸と呼称していいものかどうかさえ甚だ怪しく思えるのだが、この時の菊華は題目に衝撃を受け過ぎていて生憎指摘するに及ばない。ただただ茫然自失として、繰り広げられる小雨の『隠し芸』を見守るばかりだった。
本人が隠し芸だと言えば隠し芸だ。
押し切ることも時には必要ということを、菊華は後程苦笑交じりに忠告されることとなる。
――勝敗結果:小雨の勝利