ホテルに入ると、馬超に襲い掛かる。
 と言っても、単に汚した下着やらを剥ぎ取るだけで、本体はとっとと風呂場に押し込んだ。
 水で大まかにヌルついたものを流すと、洗面台にあるハンドソープで匂い消しを兼ねて洗う。
 黒のスラックスは、夏用のせいか生地は極薄い。こちらはともかく、ボクサーパンツの方は乾かすのにちょっと手間取りそうだった。
 ドライヤーを当てていると、馬超が扉の隙間からこちらを伺っている。
「何してんだよ」
 さっさと出ればいいものを、何故か愚図愚図としている。
「う……、着る物……」
 顎をしゃくって部屋を指す。
「向こうのクローゼットにバスローブも入ってる。取って来い、俺は忙しい」
 何で忙しいかは見れば分かりそうなものだが、馬超は恨みがましく俺を見つめている。
 面倒臭ぇな、と呟きながら、横にあったバスタオルを馬超に投げてやった。
 馬超はそれを拾うと、慌てて風呂場の扉を閉める。
 女の子なら可愛いのかもしれないが、馬超がやっても可愛くも何ともない。
 そもそも、俺の尻にあれだけザーメンぶちまけておいて、今更恥ずかしいもくそもないものだ。
 俺はドライヤーを切ると、馬超の服を置いて外に回った。
 壁を覆うロールカーテンの紐を、くっと引いて離す。
 ロールカーテンは勢い良く巻き取られ、浴室の中を露呈させた。
 馬超は、最初背を向けていて気がつかなかったようだが、不意にこちらを振り返った。
 俺が真顔で手を振ると、顔を真っ赤にして外に飛び出してきた。
っ!」
 勢いで俺の胸倉を掴む。そこから先を如何するか考えていなかったのか、襟首を締め上げながら唸り声を発している。
 抱きたいな、と思った。
 『馬超』の時には遮二無二、ただ肌を合わせられればいいという衝動だけが俺を支配したが、今目の前で顔を赤くしている馬超を見ていると、抱かれたいではなく、ただ抱きたいという欲求が湧いてきた。
 それは本当に緩いもので、どうしても抱かずには居られないといった、迸るような急激さはなかったので、俺はかなり落ち着いていた。
 馬超の手を外させると、俺は馬超の手を取ったままその場に膝を着き、腰に巻かれたバスタオルを口と歯で剥ぎ取った。驚き身を竦ませる肌に口付ける。
 馬超は抵抗しようとはしなかった。
 魅入られたように俺を見ている。
 俺は、馬超の視線に答えて笑った。
 早くも首をもたげている馬超の肉に舌を這わせる。ぺちゃぺちゃと濡れた音が耳に響いた。
 肉は、あっという間に硬度を高めて、雄々しく天を仰ぐ。先端を覆っていた皮が剥けて、中から綺麗な赤が見えた。とてもいやらしくて、卑猥で、美味そうな肉だった。
 俺が口で咥えると、馬超の体が大きく揺れた。背中に、振り解かれた手が回り意味もなくかきむ
しってくる。
 強烈過ぎる悦を耐えているのだろうか。
 声が短く途切れ途切れに上がる。熱の篭った声は、言葉にもなれずに消えていく。
「馬超」
 限界が近いと察した俺は、馬超をその場に座らせた。
 荒い息を吐く馬超の顔を、足の間から見上げる。
 この角度なら、良く見えるだろうか。
 俺は馬超のものを二三度舐め上げた。
 馬超の目が快楽に顰められ、尚強い刺激を強請って腰を揺らめかす。
「見てな、お前の、飲むから」
 刺激が強かったのか、ぎょっと歪んだ顔が可笑しかったが、俺はそのまま顔を下げ、馬超の昂ぶりを咥え込んだ。
 口の中で、吸い上げたり舌で突付いたり、余った部分に指を絡めて刺激する。
 輪のような膨らみに舌を這わせると、馬超の声が一層艶やかに響き渡る。
 指の下で、びくびくと脈打つ肉に、果てを覚った。
 先端を口にくわえ込んだまま、指で上下に強く擦ってやると、馬超は体を丸めて硬直させ、俺の背中の辺りで拳を強く握りこんだ。
「……ぅ、んっ……!」
 口の中に独特の味が広がり、後から溢れてくるものを嚥下する為に俺は忙しく喉を動かした。
 ごきゅ、ごきゅと喉が鳴る。たらりと零れる精液を舐め取り、綺麗に拭いさると顔を上げた。
 馬超が、顔を真っ赤にしてがたがたと震えていた。
 信じられないものを見た。
 そんな言葉がぴったりとくる、驚愕に満ちた顔だった。
 一度放っても、馬超のものは何故か項垂れることもなく上を向いている。
 指先で突付くと、馬超の腰がびくんと揺れて、肉は元の勢いを取り戻していた。
 若さ故の回復力だろうか。
 それほど年が違うとは思っていなかったが、あまりに強い馬超の精力に、俺は感心するより呆れていた。
 指を、無防備に晒された後孔に移すと、馬超の足にぐんと力が篭った。
 膝を閉じずにいるのは、俺に触れさせてもいいという意志の表れだろうか、踵が浮き上がった分爪先に力が入って、白く浮き上がっていた。
「……誰かに挿れさせたことは、」
「あるわけがない!」
 むっとして怒鳴られても、顔が赤い上に目が蕩けたようになっているから、怖くも何ともない。
 俺はファスナーを下ろし、馬超に自分の肉棒を見せ付けた。
「舐めて。硬くして」
 俺の言葉を受けて、馬超は戸惑ったように俺の顔とものとを見比べた。
 やがておとなしく口に咥え、舐めたり吸ったりし始めた。
 元々立ち上がりかけていたこともあり、すぐに馬超の口いっぱいに大きく膨れ上がる。
 喉を突かれて苦しいだろうに、馬超は必死になって俺のものを咥え込む。
「もういいよ」
 肩を叩いて合図し、口を離させる。馬超の舌と俺の肉が、唾液ではない透明な線で結ばれた。
「咥えるの、平気なのか?」
 馬超の眉が跳ね上がる。俺の言葉に侮蔑を感じたのだろうか、睨めつけてくる。
、だからやる。他の奴になどやるものか」
 ふぅん、と流すと、馬超は面白くなさそうに顔を逸らした。
「じゃあ、俺が挿れさせてって言ったら、お前、挿れさせてくれんの」
 馬超の顔が引き攣る。
 どう感じたのかは分からないが、俺の手を取ると、ベッドに乗った。
 手を引いたまま、俺を振り返る。
「……どうすればいい」
 怒ったような声で、顔で、俺を振り返る。
 俺は無言でベッドに乗ると、馬超の体を倒してそのまま口付けた。
 唇から、鼻や頬、額やこめかみとキスを降らせて、耳朶に舌を這わせる。
 くすぐったそうに眉を顰める馬超を見ながら、首筋を吸い上げた。
 痛みを感じたのか、馬超の肩が小さく跳ねる。
「跡、ついた」
 俺が笑うと、馬超が困ったように俺を見上げる。どうしたらいいのか分からないようだ。
 乳首に吸い付き、音を立てて舐め上げる。小さな豆のようにぷっくりと硬くなるのを舌先で転がすと、馬超がじっとこちらを見ているのに気がついた。
「……、あの……」
 あまり、その、よく分からないのだが、とおずおずと問うてくる。
「……おかしいだろうか」
 俺は、一度胸まで下げた体をもう一度戻して馬超の顔を覗き込んだ。
「あのな、ちゃんと言え? よく分からないじゃなくて、感じないんだろ?」
 むっとして睨め上げる馬超を笑っていなし、腕を伸ばして股間の昂ぶりを掴んでやった。途端に、馬超は弾かれたように体を浮かせる。
「まぁ、女じゃあるまいし、初めてであんまり反応がいいのもな」
 馬超のものを飲んだ時に、それはもう鮮やかに反応を返してくれたのはスルーして、俺はそう言って馬超を慰めた。
 舌での愛撫はやめ、手で馬超のものを煽る。
「……、も……いいから……」
 懐かしい言葉を聞いた。
 俺が、この言葉を誤解して、勃たなくなって、『馬超』を酷く傷つけたのだ。
 俺とは駄目なくせに、と怒っていたのを思い出した。
「…………?」
 思い出に浸って手が止まっていた俺を、訝しく思った馬超の声が引き摺り戻す。
 俺は馬超を四つん這いにさせると、尻を高く掲げて固定した。
「いいな?」
 馬超の背に緊張が走る。
 振り向かないまま、馬超はゆっくりと頷いた。

 熱が引くのを促すように荒く息を吐く。
 けれど、熱はますます体の中に篭って、肉を重く沈めていく。
「起きろ、
 不貞腐れたような馬超の声に、瞼を無理やり抉じ開けると、馬超は未練がましく俺の足を抱えようとしていた。
「ばっ……もう、無理だ、やめろって」
 俺はちゃんと手加減してやったというのに、何なんだこの回復力は。
 別に馬超が俺に『もっとして』と擦り寄っているわけではない。逆だ。
 やはり馬超は痛がったので、指二本までで止めてしまった。
 男相手に素股と言うのも味気ないと思いつつ、後孔を突付くように擦り上げ、尻に放って俺は満足したのだ。
 事が済み、服を乾かしに洗面台に戻ろうとする俺を馬超がひっ攫い、今度は俺に突っ込んでくるとは予想だにしていなかった。
 既に三回達していると言うのに、まだ犯りたがる馬超の性欲を持て余す。
「ソープにでも行ってこい、ソープにでも!」
「嫌だ、以外に出す気はない」
 風俗嬢相手に中出しする気かとののしる。見当違いも甚だしいが、とにかく馬超を押し留められれば何でも良かった。
 こんなことなら、痛がろうが喚こうが突っ込んでしまえば良かった。
 後からするから後悔というのだろうが、それにしてもこれは酷過ぎる。
、結婚しよう」
 ろくでもない戯言をほざくので、何とか鉄拳制裁を加えてやろうともがくのだが、挿入後の拡張された後孔にずぶりと亀頭を差し込まれ、声を失う。
「俺は、大学辞めて働くから。元々そのつもりだったし、だからもホスト辞めて、俺だけの物になってくれ」
 寝言は寝てから言え。
 擦られ過ぎた腸壁が、それでも馬超のものを咥えこんで離そうとはせず、俺は苦痛に近い悦に翻弄され、頭を横に振るのが精一杯だった。
「……じゃあ、辞めなくていい、俺専属になってくれれば」
 意味がないし、分からない。
 何とかして馬超のものを抜こうともがくのだが、馬超に抱え上げられ、座位を取らされると抜くに抜けなくなってしまった。膝に力が入らず、まだ自由になる上半身は、しっかりと馬超に抱え込まれてしまった。

 熱っぽい声が吹き込まれる。
 否定の言葉が切れ切れに漏れた。
 馬超はうるさそうに俺の顎を掴むと、無理やりキスをして舌を絡めてきた。
 かろうじて酸素を取り込んでいた唇を塞がれ、俺は、5を数える前に意識を飛ばして暗い世界に落ちた。


  終

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