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- PatiPati (Ver 4.3) -


 うららかな昼下がりだ。
 日差しはやや強いが、雲もあり、風が心地よい。
 黄蓋は、芝生もまだらな平地に、無造作に寝転がっている。
 その横にはいた。
 臆することもなく、堂々と黄蓋の寝顔に見入っている。
 付き合いの長さが成せる業だ。
 もっとも、に限っては、出会い当初からこんなものではあった。
 さすがの黄蓋も、もう慣れている。
「黄蓋様」
 が声を掛ける。
 黄蓋からの応えはなく、規則正しい呼吸で胸が揺れるのみだ。
 しかし、は構わず言葉を続けた。
「この前の戦が終わったら、私を黄蓋様のものにしていただける約束でしたよね?」
 人目がないからまだしも、聞く人によっては衝撃で石と化すようなことを、平気で言う。
 だが、やはり応えはない。
 は続ける。
「未だお手が付かずじまいなのですが。黄蓋様、覚えてらっしゃいますよね?」
 応えはない。
「覚えてますよ、ね?」
 再度の追撃にも、返事がない。
 は、やにわに立ち上がると、寝ている黄蓋の腰の上にまたがった。
「おい!」
 飛び起きてはみたものの、腰の上のを突き飛ばすに至らず、中途半端に身を起こすに留まる。
 に気にした様子はない。
 狸寝入りと露見していたのだろうが、現状の体勢をこれ幸いと、黄蓋の鼻先に顔を寄せる。
「覚えてますよね?」
「……あぁ」
 渋々認めた黄蓋に、は破顔して見せた。
「お嫌なんですか?」
 黄蓋は、困ったように眉を寄せた。
「わしのような年寄りに……」
「それは何度も聞きました」
「もっと他に男が……」
「それも何度も聞きました」
 黄蓋の言い分をあっという間に叩き落とすと、は更に顔を突き出す。
「どうしても嫌とおっしゃるなら、寝たふりを続けて下さい」
 その間に済ます、と、恐ろしいことを言う。
「いや、それは……」
 黄蓋が口籠ると、は体を後ろにずらした。
 退いた訳ではない。
 それが証拠に、黄蓋の下履きに手を掛け、結び目を解こうとしている。
「こら……こら、!」
「はい」
 は、黄蓋の視線を真っ向から受け止める。
 その目にあるのは拒絶される悲しみでなく、怒りだった。
 こんな女を、黄蓋は見たことがない。
 他の男もそうだろう。
 この気の強さ、もとい一途さでは、他の男の手に余ろう。
 黄蓋の口元が、苦笑に歪む。
「わかったわかった……わしの、負けだ」
 白旗を上げた黄蓋に、はけれど不審げだ。
 黄蓋の苦笑が深まる。
「このようなことは、昼日中からやることではなかろう」
「私は構いませんが」
 一刀両断である。
 今度は黄蓋が、怯まず続ける羽目になる。
「夜にしよう。今宵、な」
 が黙り込む。
「……約束、ですよ」
 どこか泣きそうな声に、黄蓋は笑いを堪えた。
 どうしてここで泣くのか、意味が分からない。
 そんな男でないと嫌だと駄々をこねるが、不思議と可愛くて仕方がなかった。
「おお、約束しよう」
 が黄蓋の方を押した。
 逆らわず倒れた黄蓋の胸に、は頬を寄せる。
「おい」
 短い抗議に、短い応えが返る。
「しばらく、このままで」
 の肩に触れていた黄蓋の手が、地に落ちる。
 二人は、しばらくそのままでいた。

  終