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「月が綺麗だな」
孫堅の言葉に、はいささかげんなりとして見せた。
その言葉が『愛している』を意味すると教えてしまったのは、痛恨のミスと言っていい。
うっかりにも程がある。
お陰で、月が綺麗な晩には毎度こうして呼び出される。
仮にも一国の君主相手であるから、迂闊なことも言えはしない。
「『いい加減、しつこい』といった顔をしているな」
「え、いえ、そんなことは」
見透かされ、心臓が大きく飛び跳ねる。
孫堅は、声もなく笑っていた。
「笑うこと、ないと思います」
すまん、と孫堅は素直に詫びた。
「お前があまりに可愛らしくてな」
「それは、余計です」
頬を膨らませていると、手招きされる。
それにはおとなしく従い、孫堅の横に座った。
「お前が嫌だというなら、もう言うまい」
突然の宣言に、は驚き孫堅を見遣る。
孫堅の目は静かに、それでいて力強くを見詰めていた。
体の奥まで透かされていそうで、は思わず己が身を抱く。
が、それも無駄な抵抗だった。
掻き抱いた体ごと引き寄せられ、抱き締められる。
うっとりするような男の匂いに包まれて、そのまま溶かされるような錯覚に襲われる。
「月が綺麗だな」
孫堅の呟きに、我に返る。
「もう言わないって、言いました」
の抗議に、孫堅は苦笑いを浮かべた。
「美しいものを美しいと言ってしまうのは、仕方のないことだろう」
確かに、今宵の月は一段と美しい。
孫堅の腕に抱かれながら、は月に見惚れた。
「……愛しい者を、愛しいと言うのもな」
何を言っているのか。
再び抗議しようとしただが、その唇は塞がれて、遂に言えず仕舞いになった。
終