暗い、灯火揺れる廊下の一角。
何時までも動こうとしないの腕を優しく掴みながら、大丈夫か、と一声掛ける馬超。
は、腕に置かれた馬超の右手をそっと両手で包み込むと、真直ぐに馬超の瞳を見詰めた。

「孟起…お話が、あるんです」

馬超は何所か不安そうに瞳を揺らめかせながら、首を傾げた。





寵姫壊籠





翌日、陽も中天に差し掛からん頃。
が自室で茫、と鉄格子の嵌った窓の向こう、高く聳え立つ塀を取り留めもなく眺めていたところ、こんこん、と部屋の外から戸を叩かれた。
その音に、は慌てて今まで見ていた窓の外を眺め直すも、馬超が返って来るにはやはり時間が早過ぎる。
では、家僕が何か訊ねに来たのだろうか、しかし昼食はもう終わった筈だから何だろう…そんな疑問を巡らせながら、は寝台に下ろしていた腰を上げ、部屋の入り口へ向かった。

「子龍さん!…あら?でもこんな時間にどうされたんですか?」
「今日は休みでな」

優しい頬笑みをその面に浮かべると、立ち話もなんだ、とに導かれるままに、趙雲は歩き出す。
茶を淹れて来る、と言ったと別れると、馬超とと三人で何時も酒盛りをしていた部屋に趙雲は先に入った。
もう自分の席と決められたような何時もの場所に趙雲は座ると、何所か所在無さ気にを待つ。
何度となく訪れ、何度となく腰を落ち着けた部屋。
だけれど、それでも落ち着かないのはきっと、懐の中で転がる預かり物のせいで。

「お待たせしました」

盆に二つ湯呑みを持って現れたを迎える趙雲の笑みが何所かぎこちなかったのも、きっとそのせいだと思われた。
湯呑みを一つ趙雲に差し出すの首が、不思議そうに傾げられる。
趙雲は一つ咳払いすると、の腕を引きながら自室まで戻り始める。
ぐいぐいと引っ張られ、は足元と水差しとに両方気を使いながら馬超の後を追った。
馬超に続きも部屋に入ると、ご丁寧にも馬超が自室の戸を閉める。
そして、寝台近くの小机にが水差しを置いたのを見ると、馬超は寝台に上がり、端に寄り、に空間を提供した。
何もしない、と馬超は言ったが、とて数日前馬超と一緒に寝ている。
が嫌がったのは、馬超の言動が読めない恐怖からだった。
馬超が何もしない事は、先日の一件で判っている。
けれど今日の馬超は異質だった。
故に、戸惑った。

「おやすみなさい」
「ああ」

は馬超に意図的に空けられた空間に身を滑らせると、掛布にもぐった。
自分と馬超が綺麗に入るように掛布を整え直すと、は馬超に身体を向ける。
馬超も、のほうに身体を向けていた。
そうしてが、馬超が、眠りに落ちて行く。

その日、馬超があの夢を見る事はなかった。





二人同時に起き、二人一緒に朝食を摂って、再び馬超の部屋に戻ってきた。
の左手薬指には、馬超が贈った翠の指輪が輝いている。
若しかすると、昨日も嵌めていてくれたのかも知れなかったが、何分暗かったし、馬超も酔っていたから気付かなかった。
が自分の贈ったものを身に付けてくれている。
それだけで馬超はむず痒いような喜びを感じた。
しかし、喜んでばかりもいられない。
これから、話さなければならない事があるから。

「五日くらい前に、尚香ちゃんに連れられて、伯符が遊びに来てくれたんです」

寝台に腰掛けていた馬超の眉が、ぴくり、と跳ねた。
孫尚香に連れられて来た、伯符と言う人物。
伯符が誰か判らなかったものの、孫尚香の孫の字を思い浮かべて判った。
恐らく伯符とは、呉の孫策だろう。
そんな重要人物が蜀に来ているなど知らなかった。
否、知らないのは、自分が余り他人と接しないが故の情報取得不足と言う事で判断が付く。
情報源の馬岱とも、此処数日顔を合わせる機会もなかった。
だが、趙雲とはそれなりの回数、顔を合わせていた筈なのだが。
しかし趙雲からは、そのような人物が来ていると言う話は一度もなかった。
その上、孫策はこの、馬超の邸に遊びに来ていたのだと言う。
夜は自分が居るから、孫策が遊びに来たのだと言うのならば、昼だ。
昼ならば、門の前に護衛兵を立たせている。
その護衛兵には、誰も中に入れるな、と言っている筈だった。
只、孫尚香の訪問だけは、劉備の妻と言う事で無碍に出来ず、暗黙の了解で許している所があった。
恐らく、孫策の訪問も、孫尚香に押し切られるような形で成立したのだろう。
勝手に、と腹立たしいところも合ったが、仕方無い、とも思え、馬超は険しい顔で溜息を吐いた。

「その次の日も、伯符は遊びに来てくれて。色々なお話をして、それで…」

言い淀むように言葉尻が窄んでいくの顔を、馬超は直視出来無かった。
孫策は一日だけでなく、二日、きっとそれ以上この邸に遊びに来ている。
面白くなかった。
否、面白くないどころか、胸の内に言い表せないような澱みが生じているのが、馬超自身感じられた。
は寝台の縁に腰掛けた自分の太腿の上で手を組み、そこに視線を落としていたが、しかし一つ頷くと、隣に座る馬超の顔へと視線を移す。
目を見ると、息を吸って吐いて、口を開いた。

「三日前、私は伯符と一緒に、街に出ました」
「………」

何、と。
言葉にすら出来なかった。
馬超は逸らしていた視線を思わずに向け、真っ直ぐに自分を見てくるの瞳を直視してしまう。
馬超の瞳は見開かれていて、それはきっと驚きからのものだけではない筈だ。
胸の中で何かが壊れる音がした。
築き上げてきたものを、悪戯に壊されるような気分。

「その次の日、私は伯符と一緒に呉に行くか、ここに…孟起のところに残るかのどちらかを、選ぶ事になりました」
「………」

それで、は如何したんだ。
そう問おうとして、はっ、と馬超は冷静になった。
は馬超を選んだから、今此処に居て、こうして話しているのではないか。
自分の狼狽振りに、馬超は舌打ちをしたくなった。
けれど、考え直す。
は此処に居る。
此処に居ると言う事は、孫策ではなく、自分を選んでくれたのだ。
胸の内で繰り返し、馬超は平静を取り戻した。
しかし。

「私は、どちらかを選ぶなんて事を出来る程に、自分の気持ちに自信がなかったんです。だから、私は孟起の所に残る事を選びました。助けてくれたお礼もまだ出来ていないし、何より、正直に伯符の事も何も話せていなかったから」

取り戻した平静を、馬超は再び取り落とした。
が馬超を選んだのは、の気持ちからではなく、只の義務感。
馬超の頭に血が昇る。
勢い良く立ち上がると、馬超は驚きに自分を見上げてくるの腕を掴むと立ち上がらせ、引っ張り出した。
掴んだ腕の手の先に嵌められた翠の石が輝き、馬超を咎めているように見えたが、馬超は気付かない振りをする。

「城下に出るぞ」
「え、え、あ、待ってください、孟起!」

馬超の大股に追い付くには、は小走りするしかない。
もう少しゆっくり、とに言う暇も与えずに、馬超は廊下を直進して行く。
がら、と戸を開けると、護衛兵が馬超に頭を下げる、が、その後ろにが居る事に気付いて、酷く驚いた顔をしていた。
それを見て、馬超が、が、立ち止まる。
馬超は既に外に足を踏み出しているが、手を引かれているは未だ、外に出ていない。
馬超はの腕から手へと改めて繋ぎ直す。
ゆっくりと手を引かれるままに、が玄関口から一歩、足を踏み出した。

「…行くぞ」
「はい」

馬超の手で、馬超の意思によって今、はこの邸から外に出た。
太陽の光がやけに眩しい。
と馬超は、只外に出るだけだと言うのに、こんなに厳かな雰囲気にしてしまっている自分達が可笑しくて、笑う。
しかし、只外に出るだけではあっても、二人にとっては、とても大事な一歩である事に他ならなかった。



馬超が何所を見て巡ったのだ、と言ったから、は孫策と歩いたこの城下の記憶を掘り起こす。
最初は肉饅屋だった。
その次は硝子細工の店だったか。

「腹は減っているか」
「いえ、朝ごはん食べたばかりですし…」

辿り着いた肉饅屋の前で、馬超も唸る。
先程朝食を食べたばかりで、馬超自身肉饅を胃に入れる気はしない。
だが、と思い至った所で、馬超は自分が何を考えているのだろう、と思った。
の中にある孫策との思い出を、自分との思い出に塗り替えようとしているのだろうか。
そうだとすれば、何と幼稚な発想であろう。
自分自身が情けなくなって、馬超は唇を噛んだ。

「その次は、硝子細工のお店に入ったんです」

馬超の心情を知ってか知らずか、が連なる店の一角を指差す。
思考の海に沈んでいた馬超が顔を上げると、狭い空間に所狭しと商品が並べられている店が目に入った。

「…下手に動くと薙ぎ倒しそうで怖いな」
「…ふふっ」
「何だ?」
「いえ」

孫策と全く同じ事を言うものだから、思わずは笑ってしまう。
倒した時は逃げるから、合図を決めておこう。
そんな事を話したか、と孫策との思い出を思い起こして唇に弧を描く。
馬超はそんなを、不思議そうに見ていた。

「あ、これ」
「何だ、茶器か?」
「ええ、ですけど、冷酒を呑むのにも良いかな、って思ったんです」
「ああ、それは良いな」

硝子で作られた急須を手に、が頬笑む。
次に対で売られている器を手にすると、の笑みが思い出し笑いに変わった。

「何だ?」
「いえ、これ良いな、って」
「?買うか?」
「でも買うなら、器は四つ…要りますね?」
「四つ?…俺とと、…趙雲殿、で三つだろう?後一つは誰の分だ?」

不思議そうに首を傾げる馬超に、は頬笑みを浮かべる。
その頬笑みは、今にも笑いに変わってしまいそうで、は懸命に堪えていた。

「孟起の分ですよ」
「何?俺とと趙雲殿と、俺の分?訳が判らんぞ」
「孟起はすぐに酔っちゃって、器を落としちゃいますから。だから、壊れた時の孟起の分の予備ですよ」

言うと、とうとうはくすくすと笑い出してしまう。
馬超が酒に弱いという訳ではないのだが、と趙雲が強過ぎるのだ。
故に、何時も馬超が一番に酔い潰れてしまう。
好きで間抜けな姿を露している訳ではない馬超は、むぅ、と唇を尖らせた。
その様子が子供のようで、更にの笑いを誘う。

「で、買うのか?買わないのか?」
「孟起はどうですか?」
「俺はに聞いている」
「……えぇ、と、ですね」

仕返しとばかりに馬超が問えば、予想通りには困惑を面に浮かべる。
には、主体性がないのだ。
故に、こうして意見を求められると、返答に窮してしまう。
は困ったように器と馬超とを見交わしていたが、一向に答えを出す気配はない。
暫くそんなの表情を見て悪趣味ながらも楽しんでいた馬超だったが、流石に可哀想か、と思い、苦い笑みを面に貼り付けながら、ぽんぽん、との頭を撫でた。

「家に戻れば似たような物があるかも知れん」
「あ、じゃあ、必要ないですね」

馬超の言葉に、ほっとした表情を浮かべながら、が顔に頬笑みを戻した。
の色々な表情を見たいとは言え、やはりには笑顔が一番。
馬超は一人頷くと、を促して店から出た。



そう言えば孫策の時は、この店を出た時から険悪な雰囲気になった。
否、実際は孫策が不機嫌になった為にそのまま店を出る事になったのだが、は未だにあの時何故孫策が不機嫌になったのか、判らずにいる。

「……花、!」
「え、あ、はい!すみません、何ですか?孟起」

孫策との事を考え込んでしまっていたらしく、馬超の呼び掛けに気付く事が出来無かった。
大きめの声で呼ばれ、が慌てて振り向くと、不機嫌そうに馬超が顔を顰めている。

「何を考えていた」
「え?」
「あの男の事か?」
「あ…」

図星を指され、が慌てたように口元を抑えた。
その反応が更に馬超の不興を煽る事に、は気付かない。
馬超は不愉快そうに顰め面になると、無言のままに歩き出した。

「………」

怒らせてしまったのだろうか。
また、孫策の時と同様に、怒らせてしまったのだろうか。
あの硝子細工の店には、入ると人を不機嫌にさせる何かがあるのか。
そんな事を思わず思ってしまうほどに、には馬超の不機嫌の理由が判らなかった。
否、今回は判るか。
が馬超の話を聞いていなかったのが悪いのだ。
続く無言に不安を覚えながら、が自分を責める。

「…ごめんなさい、孟起」

無言に耐え切れなかった訳ではなく。
謝らなければ、とは思ったから、勇気を振り絞って想いを言葉にした。
けれど、小さ過ぎるその声は雑踏に掻き消されてしまったようで、馬超の元には届かない。
は唇を引き結ぶと、何故か涙すら浮かんでくる自分を叱咤し、再度口を開く。
馬超に貰った指輪の翠の石を撫でて、勇気を貰いながら。

「孟っ、きゃぁっ!」
「…っ、!?」

途中で切れてしまった馬超を呼ぶ声は聞こえなかったようだが、細い悲鳴は馬超に届いたらしい。
何事か、と馬超が振り返ると、が体勢を崩して地面に倒れこもうとしていた所だった。

「大丈夫か!?」
「あは、は、すみません、孟起」

硝子細工の店から出て、相手が不機嫌になって。
そして自分が転んでしまう。
孫策との行動、しかも悪い事を全てなぞっているようで、は思わず涙が出た。
悪い事を経験したら、二度と同じ事を繰り返さないように学習するべきなのだ。
だと言うのに自分はまた、同じ事を繰り返している。
今回は、怪我は両の掌を擦った程度で、痛みはそれ程でもない。
けれど、情けなさで、は涙が出て来た。

「…済まん」
「やですよ、もう、何で孟起が謝るんですか。悪いのは、私ですから」
「違う!」

の腕を掴んで起こしながら、馬超が号ぶように言う。
浮かんだ涙を拭いながら、自分が悪いのだ、と言うを、馬超は違う、違う、と否定し続けた。
の涙は既に止まっていたが、今度は馬超の瞳に涙が浮かびそうで。
は驚いたように馬超を見ていた。

「俺が…悪い。悪かった。俺が悪いんだ。俺が」

俺が悪い。
俺が孫策に嫉妬したから悪い。
そこまでは自尊心が邪魔して言えなかったが、しかしそのくだらない嫉妬のせいでが転んだとなると、自分で自分を殴りたくなる。

「孟起は悪くないです!私もほら、全然大丈夫ですし。ね?」
「…しかし」
「あ!」

馬超までもが孫策と同じ行動をなぞっているなど、本人は知る由もない。
は手を振ったり足を動かしたりして、自分は全然平気なのだ、と示すが、しかしふと何かに思い至ったように、声を上げた。

「あの、孟起。私、行きたいところがあるんですが…良いですか?」

控え目に訊ねているものの、の瞳には意思の輝きが宿っている。
主体性が皆無と言っても可笑しくないが、自ら行きたい場所がある、と言ってくるとは思わず、馬超は驚きに目を見開いた。
そして、にこの変化を齎したのも、きっと孫策が関係しているのだろう、と思うと、馬超は顔を顰めずにはいられない。
けれど、顰める訳にはいかない。
今此処で顔を顰めると言う事は、の望みを否定すると言う事だ。
何より、好い加減このくだらない嫉妬心も捨てたい、と馬超自身思っていた。

「ああ、構わん。何所だ?」
「えっと…三日前に来た時、私怪我しちゃって、それでお世話になったお家に行きたいんです」
「…怪我?」

三日前に来た時も、怪我をしたのか。
やはり外になど出さないほうが良いのだ、と馬超は思ったが、その思いは一先ず心の奥底に封印する。
そんな事は、後からでも考えられるから。

「あ、いえ、もう大丈夫なんですよ。ちょっと膝を怪我して…それで、手当てしてもらったんで、お礼に行きたいな、って思って」
「…本当に、もう大丈夫なのか」
「はい」

真顔で問うて来る馬超に、は柔らかに頬笑んで、頷いた。
ならば良い、と馬超も渋々納得すると、あの老夫婦の居る家に向かうを引き止め、手近な店に入って行く。
店先でを待たせた後、馬超は包みを手に店を出て来た。
が首を傾げると、馬超は只首を振る。
気にするな、と言う事なのだろうか。
首を傾げるの腕を掴むと、馬超は歩き出す。
しかし数歩歩いた所で、自分は先導する側ではなくされる側なのだ、と思い出すと、はた、と立ち止まった。
そしてに先を促す。
も一度来ただけだったので不安だったが、店と店の間にある小さな家、と言う特徴を憶えていたので、如何にか見付ける事が出来た。
三日前、孫策が適当に選んだ家。
口煩い老夫婦の住む家。
過日の記憶を思い起こしては唇の端に笑みを浮かべながら、その家へと入って行った。
孫策が、そうしたように。

「すみません」
「何だい?…おやおや」

先日と同様、開きっ放しの戸口から声を掛けると、老婆が顔を出してきた。
を見て懐かしそうな声を上げると、上がりな、と言って卓に戻って行く。

「調子は如何だい?」
「はい、お蔭様でもう治りそうです」
「そりゃ良かったね」
「で、今日はあの小生意気な餓鬼は連れてねぇのか?」
「あ、今日は、」
「…失礼する」

老人の言葉に、戸口の前で立ち尽くしていた馬超が家に入ってきた。
馬超は家に上がると、先程買った包みを差し出し、軽く頭を下げる。
馬超のその様に、その顔に、老夫婦は揃って湯呑みを取り落とした。
温くなった中身が撒かれるが、卓が床が濡れる事に気を取られているのはだけで。
老夫婦は、二人揃って目を見開いて、下げられた馬超の頭を穴が開くほど見詰めていた。

『馬将軍!?』

二人同時に叫ぶと、馬超が頭を上げると同時に二人は平伏した。
自分が顔を出した時点でこうなると分かっていたのかも知れない、馬超の顔は苦い。

「…が世話になったようで、礼を言う。これは大したものではないが…受け取ってくれ」
「いえ、礼を言われるような事はしておりませぬ!」
「いや、の怪我を処置してくれたのだろう。礼をせねば、此方の気が済まん」

下げたまま頭を上げようとしない老夫婦と、何所かこうなる事に諦めを抱いたような顔の馬超とを、は困惑しながら交互に見遣る。
一先ず床と卓は拭かねばならんだろう、と場違いな事に思い至り、は卓の上にあった布巾で片付け始めた。

「…!様、そのような事はせんで良いのですぞ!」

老人に腕を掴まれ、は困惑気に眉根を寄せた。
突然の様付け、敬語にも、は困惑している。

「様、だなんて止めてください。それに、言葉遣いだって、前と同じにしてください。私は三日前と、何も変わっていないんですから…」
「しかし…む、婆!様が、手を怪我されておるようだ!」
「うん?おやおやおやおや、様、ちょいと此方へ。馬将軍、様を手当てしますので、お借りしますぞ」
「あ、ああ、頼む」

流れるようにを運ばれていってしまい、馬超は置いていかれたような顔をして頷いた。
は流し場の様な所へ連れて行かれて、擦った両手を水で清められる。

「…あんた一体、何者なんだい」
「私は…」

隣に居る馬超に聴こえないように老婆がに耳打ちすると、は困ったように首を傾げた。
何者、と言われても、判らない。
自分は只の異世界人で、馬超に拾われたに過ぎない。
そして、孫尚香に気に入られて、孫策と少しの時間を一緒にしただけ。
本当に、自分は何者なんだろう。
只、何の能力もない、花が好きな人間、としか自身説明しようがなかった。

「あの坊ちゃんの次は馬将軍とはねぇ。喫驚魂消たよ。で、あの坊ちゃんは如何したんだい?」
「あの人は違う国の人なんです。だから、国に帰りました」
「へぇ。あんたは付いて行かなかったのかい」
「…はい」

老婆に釣られるようにして、も声を潜める。
付いて行かなかったのか。
その問いが、の心に虫食いを作る。
孫策に付いて行かなかった。
それは自分の意思だ。
自分の意思で、此処に居る。

「まぁ、あの坊ちゃんが何者か知らないけどね。馬将軍捕まえてるなんざ、あんた凄い事だよ」
「…そう、なんですか」

の顔が暗くなったのを見て、年の功、何かを覚ったのかも知れない。
老婆は話を変えると、呵呵と笑う。
釣られてが頬笑みを零す頃には、手当ては終わっていた。

「馬将軍、様の手当てが終わりましたぞ」
「ああ、何度も済まないな」
「いえいえ、お気になさらず」
…行くか」
「はい、ありがとうございました」

黙って卓を囲んでいた馬超は立ち上がると、の手を取って戸口へと向かう。
が振り返ると、老夫婦はやはり平伏して馬超を見送っていた。
見えていないと判っていながらは頭を下げると、馬超の後に続く。

「…で、如何だったよ」
「馬将軍だろ?ありゃぁ、この間の糞餓鬼とはてんで対照的だな。一言も喋りやしなかった」
「みたいだね。しっかし、、だっけか?あの娘は本当、何者なんだろうねぇ」
「さぁ、な。婆、茶ぁ淹れ直せ」
「じゃ、あんたは床拭いとくれ」
「やだね」
「何だいこの糞爺」

と馬超の姿がすっかり見えなくなった頃、老婆が湯呑みを手に立ち上がる。
老人は卓と床を拭く気は更々ないらしく、何時ものように踏ん反り返っていた。



暫く歩いていると、孫策と餡蜜二十人分に挑戦したあの甘味処が目に入った。
あの時の自分の行動を思い返し、が頬を朱に染める。
突然俯いて歩き出したを馬超は不思議そうに眺めながら、その店の横を通り過ぎた。

「街外れまで来てしまったな」

それからもう暫く歩いていると、何時の間にやら街外れまで歩いてきてしまっていた。
は、遠く遠くに目をやる。

「戻るか?」
「…はい」

馬超が踵を返すと、もそれに続く。

「………」

が名残惜しそうに背後を振り向くと、遠くには一本の巨木の姿が小さく見えた。



帰宅する頃には、もう陽も暮れんと言う時間になっていた。
当然ではあるが、玄関から帰って来ると言う事が、に違和感を与える。
この家を出るのにも入るのにも、如何してもあの窓から、と言う印象が強く出てしまう。
これも全て、孫策の御蔭だろう。
は馬超に隠れて苦笑する。

「疲れたな」
「でも、楽しかったです」

廊下を歩きながら馬超が背伸びしようと手を上げ…そこで、の手を握ったままであった事に気付いた。
馬超は暫く自分の右手を眺めていたが、このままでも良いか、と思ったらしく、左腕だけを上げて伸びをする。

「…偶にはこうして一緒に出掛けるのも…良いかも知れんな」

伸びを終えると、馬超はぽつりと呟く。
は、そうですね、と笑顔で答えた。





翌日馬超が出仕した後に、孫尚香がやって来た。
凡そ一週間振りの孫尚香の訪問には喜んで出迎えると、自分の部屋に通す。
暫し孫尚香がこの一週間の事を一方的に喋り、が笑顔で頷くと言う遣り取りがなされていたが、ふ、と突然孫尚香は黙ると、真剣な顔になった。

は…楽しかった?策兄様と一緒に居て、楽しかった?」

何故か不安そうな表情を浮かべる孫尚香に、は笑顔で頷く。
作り笑いなどではけしてない。
本当に、心の底から楽しかった、と。
あの三日間を楽しかった、と言えるから。

「うん。伯符を連れて来てくれてありがとう、尚香ちゃん」

が柔らかな笑顔をその面に湛えると、それを見た孫尚香は、ほっとした表情を浮かべた。
策兄様に頼んで、やっぱり良かった。
孫尚香もまた、にこり、と頬笑む。

「あ、そう、尚香ちゃん!」
「何、如何したの?」

は立ち上がると、棚の中の物を掻き分け始めた。
一番奥に仕舞っていたらしい物を取り出すと、孫尚香に手渡す。

「あぁこれ、懐かしい」

趙雲経由で渡された、孫策からの贈り物。
掌に収まる大きさの木箱を上下左右から繁々と眺めると、孫尚香は言葉通り懐かしそうに、唇に弧を描いた。

「仕掛け小箱ね。これ、策兄様からでしょ?」
「はい、伯符からなんですけど…」
「開けられない?」
「そうなんです」

が首を傾げて困ったように言うと、孫尚香は悪戯そうな笑みを浮かべて木箱を掌で転がす。
そして、の目が追い付かぬ程の速さでかちゃかちゃと木箱を弄っていくと、やがて凸凹と引っ込んだり突き出したりしている木片で構成された木箱は、真っ二つに分かれた。

「…どうやったんですか…?」
「ふふ、内緒」

あっさりと、いとも簡単に開けてしまった木箱を手渡されると、は唖然とした表情で孫尚香を見詰める。
孫尚香は、誇らしげな顔で笑うと、良いから中を見てみなさい、と促した。

「…あ」

中に入っていたのは、陽光を照り返す銀の指輪。
その指輪には透明な紅の石が付いていた。
六つの鉤爪が花弁のように見える、愛らしい創り。
…そう、それは、今が左手の薬指に付けている翠の指輪と全くそっくりな、石の色違いの指輪と言っても可笑しくない程に似た意匠の指輪だった。

「………」
「似た物選んで来る、って事は、やっぱりにはその意匠が似合ってるから、って事なのよ。あ、ほら、指輪の他に紙も入ってるわ。読んでみたら?」
「はい…」

本当は、馬超の指輪だって自分には付ける権利はないのだ。
けれど、馬超が喜ぶから。
馬超を哀しませたくないから、は馬超から貰った指輪を付けていた。
しかし、孫策からも指輪を贈られてしまった。
如何すれば良いのだろう。
馬超の指輪をこれからも付け続けるのか。
馬超を選んだ訳でもないのに、そんな事が許されるのか。
表情の暗くなったに孫尚香は半ば無理矢理に紙を手渡すと、開かせた。
しかし。

「尚香ちゃん…」
「何?何て書いてあったの?」
「私、字、読めません…」
「…あ…ああ、そうだったわね」

拍子抜けした孫尚香が紙を受け取ると、読んで良い?とに一言言い置いてから、目を通し始めた。
途端、孫尚香の顔がにやけたように笑みに歪む。
何と書いてあるのだろう。
孫尚香が読み上げるのを待つを、しかし裏切るかのように、指輪は出したまま、孫尚香は紙を仕掛け小箱の中に仕舞い直して仕掛けを元に戻す。
あ、とが声を上げた時にはもう、仕掛け小箱は只の木箱に戻っていた。

がこれを自分で開けられた時に、読んであげる」

はい、と木箱と指輪を渡された。
は孫尚香と木箱を交互に見遣った後に、孫尚香の動きを真似て仕掛けを解こうとするも、全く上手くいかない。
孫尚香はにやにやと笑うばかりで、手掛かり一つくれはしない。

「じゃ、私は帰るわ。、頑張ってね」

すっ、と立ち上がると、孫尚香はひらひらと手を振りながらの部屋を出て行ってしまう。
見送ろうとするを、そんな時間があるならそれ開けなさい、と言って留めてしまった。

「………」

は寝台にぽすん、と腰掛けると、仕掛け小箱に再び向き合った。
じっと見詰めてみるも、しかし見ているだけでは無論開きはしない。
今度は実際に手に取って弄り回してみるも、暫く試してみたが、如何やっても開かなかった。
やがて時間も夕刻に差しかかって来た為に、は指輪と小箱を棚に戻して部屋を出る。
花を殖えた部屋に入ると、天井を見上げた。
そこには孫策の存在した証、ずれた円形の鉄格子がある。

――っ!!」
「あ、はいっ!」

膝を抱えて空を見ていたら、何時の間にか馬超が帰って来たらしい。
慌て部屋を出て玄関口に向かうと、馬超の後ろに趙雲の姿もあった。

「お帰りなさい、孟起、子龍さん」

がにこりと笑うと、馬超は破顔し、趙雲は穏やかに笑った。



何時ものように酔い潰れた馬超を、部屋まで運ぶ。
思い起こせば、趙雲が居る時にしか馬超は酔い潰れないから、馬超は安心して呑んでいるのかも知れない。
実際、しか居ない時には、馬超は自室で呑んでいた。

「元気そうで、良かった」

馬超を運んだ後に二人で呑む、これも恒例となったものだ。
ちょび、と酒を口に運ぶの顔を見て、趙雲は優しい顔で笑った。

「馬超殿と話はしたのか?」
「はい」
「それで、何と」
「ええとですね、…あら?」
「如何した?」

昨日の記憶を掘り返していた所、趙雲の質問に答えられる記憶がなく、問われたが首を傾げる。
その様子に、趙雲もまた首を傾げた。

「孟起は何も言わなくて…ただ、城下に出る、とだけ言って、一緒に街に行きました」
「…ああ」

成程、と。
未だ首を傾げるを余所に、趙雲が一人頷いた。
は馬超に孫策と城下に出た事を話したのだろう。
そして恐らく、馬超は嫉妬した。
あれだけ厳重にをこの邸に閉じ込めてきたのだ。
それが、いともあっさりと連れ出されてしまった。
きっと馬超はその話を聞いても憤るばかりで、如何やって孫策がを連れ出したかまで、思い至っていないのだろう。
あの花のある部屋から出入りが出来るなど想像も付かないだろうし、かと言って護衛兵が黙って通したなどと言う短絡な思考の持ち主でもないだろう。
その内、如何やって孫策がを連れ出したのか、馬超が疑問に思う日が来るかも知れない。
その時が如何するか。
それは自分が介入する事ではないな、と、趙雲は心内で苦く笑った。

「楽しかったか?」
「はい、楽しかったです!」
「それは良かった」

にこり、と頬笑むに、趙雲もまた頬笑む。
は花と同じなのだ。
見ている者の心を和ませる。

「ああ、そうだ。先日珍しい花を見付けたから、今度に持って来よう」
「え、良いんですか?」
「…、ああ」

趙雲は笑って応えたが、心の中で、おや、と思った。
控え目な様子は何時も通りだが、少し積極的になっている気がする。
常のだったらば、最初に断っていた筈だ。
これも孫策に触れた影響だろうか、と思うと、苦笑いを浮かべるしかない。

「今日はこの辺で帰るとしよう」
「あ、はい」

立ち上がる趙雲に次いで立ち上がり、は趙雲を見送る。
何時ものように趙雲の姿が完全に見えなくなるまで見送ると、は戸を閉め、馬超の部屋に水差しを持って行った。
良く寝ている馬超に笑みを零しながら部屋を出ると、自室に戻り木箱を手にし、花のある部屋へと移る。
花に囲まれ、月明かりだけを頼りに木箱を弄る。

「わ」

運が向いてきたのか、とんとん拍子で木片が孫尚香が弄っていた時のような形に姿を変えて行く。
しかし、未だ開かない。
後一手、恐らく後一手。
もう少しで開く。
けれど、そのもう少しが、如何動かせば良いのか判らない。
集中していると、目が疲れてきた。
月明かりだけではやはり、辛いようだ。

「伯符…もう少し、ですよ」

ころん、と花の中央に転がると、月が覗く円形の鉄格子を眺める。
少しずれた鉄格子から、蒼白い月の光がを照らした。
暫く雲の流れる様子を眺めていたら、うとうととしてきて、は目を閉じる。
部屋に戻らなければ。
そう思ったが、眠気に勝てず、少しだけ寝てしまおう、とは意識を手放した。



目が覚めた十数秒後に、馬超は心臓をどくりと跳ねさせた。
時刻は日が変わった頃、何時ものように嫌な夢を見て目覚めた馬超はの部屋を訪う。
けれど、居ない。
は居なかった。
何故、如何言う事だ。
僅かに開けた戸を勢い良く開けると、馬超はの部屋に入る。
けれど、の姿はこの部屋の何所にもない。
一体何所に消えたのか。
焦りばかりが先を行く。
しかし、焦燥ってばかりいても仕方がない。
馬超は自分で自分を落ち着けると、が居るであろう場所を思い浮かべる。
そうだ、未だ邸から消えたと言う訳ではないのだ。
食器や酒器を片付けているかも知れない。
あの花の部屋に居るかも知れない。
そう可能性を弾き出しながら自らを落ち着けると、馬超は先ず花の部屋へと向かった。

――居た

馬超が部屋の戸を開くと、月光を受け、花の輪の中に小さく転がるようにして、は居た。
耳を澄ませばすぅすぅと寝息が聞こえてきて、馬超は先程までの焦りが嘘のように引いて、思わず笑みが零れる。

、そんな所で寝ている、と、」

言葉が途切れた馬超の視線の先には、見慣れない物があった。
の手から零れ落ちたらしい、奇妙な形をした木の箱。

「?」

仕掛け小箱だろうか。
馬超は転がっている木箱を手に取ると、木片が出たり引っ込んだりしているそれを手の中で転がした。

「!」

何気なく底面をとんとん、と叩いたら、箱が真っ二つに分かれた。
中には小さく折り畳まれた紙が入っている。

「…済まん」

勝手に見るのは悪いと思った。
けれど、が懸命になって開けようとした物の中身が気になったから。
否、知らない事が怖かったから。
馬超は折り畳まれた紙を、ゆっくりと開いた。

への想いは募る一方だからよ
 御前がこれを開ける頃には、大分時間が経ってんじゃねぇかと思うんだ
 だから、今だから言っても良いよな
 「愛してる」』

馬超の頭に、瞬間的に頭に血が昇った。
これはあの男、孫策からの手紙に違いない。
腹立たしい。
何故かは判らない。
この手紙を握り潰して、燃やして、ない物にしてやりたかった。
けれど、それは許されない。
この手紙を見た事自体、許されない筈だ。
そう馬超は心を落ち着けると、震える手で手紙を折り畳み、箱に入れ、仕掛けを元に戻した。
この時馬超の手は震えていて、が解いた仕掛けの数手分余計元に戻してしまったのだが、馬超は気付かなかった。
馬超は仕掛け小箱をの手の横に転がすと、無言でその部屋を出る。
荒波のように掻き混ぜられる心そのままに歩いてしまいたい所だったが、を起こす訳には行かない。
馬超は足音と気配両方を殺しながら自室へ戻ると、筆と新しい竹簡を取り出し、墨をすり出す。
集中して墨をすってみても、ささくれ立った心が落ち着く気配はなかった。





夜半に目が覚めたは、手から転がり落ちた木箱を手にすると、違和感を覚えた。
眠りに落ちる前と、形が変わっている気がする。
けれど、手から転がり落ちた衝撃で変わってしまったのかも知れない。
そう判断付けると自室に戻ってもう一度ちゃんと寝台の上で寝直したが、陽が昇ったばかりの暁の頃、邸の中が妙に騒々しくて早くに目が覚めてしまった。
一体如何したのだろう。
服を着替えると、は小さくこんこん、と馬超の部屋の戸を叩く。
未だ寝ているのだろうか、とが自室に戻ろうとした瞬間に、馬超が部屋から出て来た。
出て来た馬超は何故か、武装していた。

、荷を纏めろ」
「…え?」

荷?
理由が判らないは、茫然と馬超を見詰める。
荷を纏める、と言う事は、この家を出るのだろうか。
それか、馬超は今になって孫策と会っていたを許せなくなったのだろうか。
それでに荷を纏め、出て行け、と言っているのだろうか。
けれど馬超の部屋を覗き込むと、小さく纏められた荷らしき物が見えた。
それに、武装している馬超。
これは、家を出るのはだけでなく、馬超も、と言う事だろうか。
訳が判らない。

「買えるような物は途中で買ってやるから置いていけ。必要な物だけを纏めろ」
「え、ま、待ってください孟起、何所へ、何所へ行くんですか?」
「呉に行く」
「………え?」

呉に行く。
呉。
呉、とは、孫尚香が来た国。
そして、孫策が来た国。
今、孫策が居る国。
何故、何故。
否、それよりも。

「孟起、お仕事は!」
「蜀将は辞める。邸の人間に、その旨を書いた書簡を渡すよう伝えたから大丈夫だ」

だから、早く荷を纏めろ。
急かされ、は部屋に押し込められた。
しかし、突然荷を纏めろと言われても、何が必要で何が必要じゃないのか判らない。
大体、の持ち物自体少ないのだ。
殆どは、馬超が買い与えてくれた物ばかり。

様、袋を持って参りましたが、他に何か必要な物は…?」
「あ、ありがとうございます。他は…あ」

部屋に入ってきた家僕に布袋を渡されると、は他に何が必要かを考える。
しかし、物は思い付かなかった。
その代わりに。

「花を…花の世話をお願いしても、良いですか?」
「…私は花の知識はとんと疎く…」
「いえ、良いんです、お水をあげるだけで良いんで…お願いできませんか?」

自分の持ち物などはこの布袋に詰め込むだけで済むが、花はそうもいかない。
が申し訳ないと思いつつも懇願すると、家僕は首を縦に振った。

「私がこの邸に居る間は、約束します」
「ありがとうございます!」

礼を言うに家僕は何故か哀しそうな顔で、いえ、と緩く頭を振ると、礼を取って退出して行った。
家僕のその顔の意味を、は未だ知らない。
そうしては、渡された布袋に孫策から貰った指輪と小箱、そして入るだけの服や布を詰めると、部屋を出る。
部屋の外には馬超が待っていた。

「行くぞ」

早朝とも呼べる陽も低い時間に、は武装した馬超の馬に乗せられて、邸を出た。
城門を出る所で門兵が怪訝そうな顔をしていたが、相手が馬超であると判っているから何も言えない。
そうしてと馬超は、蜀を出た。
向かう先は呉。
孫策の居る国。
何故馬超が呉に向かおうとしているのか、は知らない。





凡そ一月後、建業城門前。
馬超とは馬上の人のまま、二人で門前に立っていた。
先程から門兵に孫策に取り次げ、と言っているのだが、馬超が己の名を名乗らない為に中々取り次ごうとしない。
それもそうだろう。
名も名宣らぬような輩に、主君の貴重な時間を割かせる訳にはいかない。
それは馬超も判っている。
けれど、馬超だ、と名宣ったほうが余程、孫策に会わせてくれる可能性は低くなるような気がした。
さて、如何したものか、と馬超が門兵達と睨み合っていると、ふと名案が思い浮かんだらしい。
苛々した顔をしながらも嬉しそうな顔をすると言う、無茶苦茶な表情を浮かべながら、馬超は大きく息を吸って口を開いた。

「ならば、孫策殿にこう伝えろ。城門前に、が居る、とな!」

そうだ、最初からこう云えば良かったのだ。
こうすれば、孫策自ら飛んで来る事だろう。
馬超は自分の策に自分でにやりと笑っている。
引き合いに出されたは、只如何すれば良いか判らず、馬上で疲れた顔をしていた。
門兵達は、馬超とを見て、怪訝に顔を見合わせている。

「如何したのだ?」

睨み合いを続けるを除く三人に、声を掛ける者があった。

「孫権様!周泰様!…実は、その、と申すこの者達が、孫策様に取り次ぎ願いたい、と言っておりまして…」
!?、とは、兄上が仰られていたか!?」

そう言われても、門兵達にはどのか判らない。
困惑する門兵達では駄目だ、と察したのか、孫権は馬超に馬を寄せると、馬超の前で腰を抱かれるようにして馬に乗っているを蒼い瞳でじっと見詰めた。
さり気なく、孫権の横に周泰が馬を寄せる。

「真っ直ぐな黒髪に珠のような黒の瞳。兄上の仰られていた通りだな。、花は好きか?」
「え、あ、はい。好きです」
「花を殖えているか?」
「はい、殖えてました…が」
「良し!」

何が良しなのかは判らなかったが、孫権は一人納得した様子で門兵に何かを言うと、達を呼び寄せた。
が後ろの馬超を振り向くが、馬超も訳が判っていないようで、首を捻るばかり。
しかし如何やら孫権が城に入れるようにしてくれたようで、そこは有難く孫権の馬に付いて行く事にする。

「ところで、其方は?」
「…の護衛だ」

問われた馬超が、苦笑しながらそう口にする。
孫権は、そうか、と笑った。
ただ、周泰だけが怪訝な顔をしていた。



何もする事がない。
否、やるべき事は何時でも沢山ある。
ただ、何もする気が起きない。
暇で手持ち無沙汰で、珍しく自分から執務に取り組んでみても、全く集中できなかった。
故に、孫策は自室で茫、とする事しか出来る事はないのだ、と勝手に決めつけ、今日もまた卓の上に足を上げ、何とも行儀の悪い格好で、物思いに耽っている。

「…はぁ」

一つ溜息を吐くと足を組替え、窓の外を見遣る。
晴れ晴れとした晴天。
もう初秋を迎えているが、空の蒼さは此方のほうが深く明るい。
孫策が建業に帰って来てから未だ十数日。
しかし、と別れてからはもう一月余りが経っている。
…否、一月しか、と人々は笑うだろうか。
だけれども、こんなにも…辛く、切ない。

「…あん?」

はぁ、ともう一つ溜息を吐いた所、戸が叩かれた。
誰が来たのだろう。
また執務が如何のと言われるのだろうか。
面倒臭いな、と孫策は返事を留めた。

「兄上、いらっしゃいますか?」

部屋の外から投げ掛けられたのは、孫権の声。
やはりまた、執務が如何のとでも言いに来たのだろう。

「…おう」

このまま居留守を使おうかとも思ったのだが、孫権が部屋の中を見ればばれる事、孫策は溜息と共に、返事を吐き出す。

「…?権?」

しかし、何時まで経っても孫権は入って来ない。
返事は返したのだが…と、孫策が首を捻っていると、そう言えば先程の孫権の声は何所か楽しそうではなかったか、と思い至る。
それに、部屋の外にある気配が賑やかしい気がする。
孫権と…周泰、だろうか。
しかし、周泰を加えた所で賑やかしくはならない気がするが。
孫策は眉根を寄せつつ足を卓から下ろすと、戸口まで歩み寄った。

「何なんだ、け」

「………」

「………へ?は、ちょ、…何で、」

孫策が部屋の戸を開けると、笑いを堪えきれない孫権と、その後ろに控える周泰と。
更にその横に居る、見た事の無い男。
そして、孫権に肩を掴まれている…
孫策の思考がぴたりと止まり、また、身体も凍り付いたように硬直した。



暫くその身を凍らせていた孫策も、見慣れない男を見て、若しや馬超では、と停止していた思考を回し出した。
となると、何をしに来たのかは、何となくではあるが、察せる。

「権、悪ぃ、茶でも頼んで来てくれねぇか?」
「はい」
「あ、私が」

浮かべていた笑みを絶やす事無くそのまま踵を返す孫権に、が付いて行ってしまった。
勿論、周泰も一緒に行ってしまう。
孫策は期せず、馬超と思しき男と二人、相対する事となった。

「………」
「………」

沈黙が広がる。

「まぁ…座れよ」

取り敢えず、椅子を勧めてみる。
馬超らしき男が座る。
孫策が座る。
また、沈黙。
孫策は困ったように頭を掻いた。

「御前が、馬超…だろ?」
「ああ」

やはり。
馬超と思しき男は、馬超で確定した。
こうして見てみると、流石西涼の貴公子・錦馬超と謳われただけあり、その佇まいは秀麗。
周瑜にも劣らないのでは、と、何時も書簡を運び込んでくる幼馴染の事を思い出す。

「…あ、そうだ、俺、御前に謝っとかなきゃなんねぇ事あんだよな」

悪ぃ、と。
勝手に連れ出して悪かった、と孫策が謝った。

「いや…」

薄い馬超の反応に、は若しや何も言っていないのだろうか、とも思ったが、しかし馬超の眉間に僅かに皺が寄ったのを見、それはないか、と思い直す。

「………」
「……あの、よ」

馬超自らを連れて来たくらいだから、何か文句の一つでも言うものかと孫策は待っていたが、馬超が口を開く気配はない。
ならば、と孫策は馬超に訊いたかった事を口にする事にした。
幸いな事に、も居なかったから。

「何で、を閉じ込めるような真似したんだ?」
「っ、閉じ込めてなど、いない!」

突然の大声に、びくりとはしなかったが驚いた。
驚いたが、ちゃんと声出るんじゃねぇか、と思わず笑みを浮かべてもしまった。

「何が可笑しい!」
「別に可笑しくなんかねぇよ。それより、あれの何所が閉じ込めてねぇって言えるのか、言ってみろよ」

笑みを閉じ込めたら、口調も自然きついものになってしまう。
まぁ良いか、と思って孫策は馬超の様子を見ていると、馬超は怒りに顔を紅くしていた。

の部屋に錠など付けていなかったし、花も自由に殖えられる部屋を作った。不自由はさせていなかった筈だ」
「御前ん家、中庭あんだろ?聞いたぜ?何で中庭で花殖えさせてやんねぇんだよ。あんな狭い部屋だけ与えて置いて、何が不自由はさせてない、だ」
「貴様に何が判る!」
「何も判んねぇよ!閉じ込めて満足してるような奴が考えてる事なんてな!」
「何だと!?」
「あぁ!?」

気付けば言い合いになっていた。
孫策と馬超は椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、互いの胸倉を掴んでいる。
馬超の様子を見ていた筈の孫策も、売り言葉に買い言葉、すっかり頭に血が昇っていた。

「あ、あの…」

ぎりぎりと胸倉を掴み合いながら互いを睨付けている二人に、怖々と声を掛ける者があった。
三人分の茶を盆に載せただ。
は困惑した様子で、二人の様子を窺っている。
如何やら戸を叩いて中に声も掛けたようなのだが、二人が二人、頭に血が昇っていたのでの声に気付く者が居なかった。
こんな所を見せてもは怯えるだけだろう、と孫策が馬超の胸倉から手を放すと、馬超もばっ、と手を放す。
孫策と馬超が座るのを見て安心した表情を浮かべたが、二人の前に湯呑みを置いた。
自分の分も卓に置くと、は盆を置いて椅子に座る。

「…ここまで結構掛かったろ?馬超、御前、良くそんなに休み取れたな」

俺は抜け出してきたようなもんだったしな、と笑う。
正直、今の今まで睨み合っていた相手と話す気などしなかったが、これもの笑顔の為と思えば安い芝居だった。
予想通り、孫策が馬超に掛ける言葉に棘がなかった為に、は胸を撫で下ろしたようにしている。

「辞めた」
「…は?」

しかし、あっさりと吐かれた言葉に、孫策は呆気に取られた。
大声を出されても驚きはしないが、この冷静な、淡々とした言葉には驚かされた。
孫策の瞳は丸く見開かれ、何言ってんだ、と眉間に皺すら寄っている。

「俺はもう、蜀将を辞した。何ものにも囚われていない」

馬超は真直ぐに孫策を見据えた。
その視線を受け止める事は出来た。
出来た、が、孫策は何も言えない。
馬超ももう何も言う心算がないらしく、口を閉ざしている。
元より馬超と孫策の動向を窺っているが口を開く筈もなく。
暫く、沈黙が流れた。

「っと、茶が冷めちまったな、淹れ直、」
「あっ、私が」

然して温くもなっていない茶、孫策が空気を換える為に言った事は明らかで。
それに、が反応して立ち上がった。
逃げたかったのだろうか。
この空気に耐え切れなかったのだろうか。

「済まねぇな」

いえ、と言うとが三人分の湯呑みを持って立ち上がった。
それを盆に載せると、器用に戸を開いて器用に戸を閉めて去って行く。
再び男二人が残される事となった。



は盆を持ったまま所在無さ気にうろうろしていた。
出て来たのは良いものの、勝手に給仕場などに入って良いのだろうか。

「如何した?」

盆を手にうろうろしていると、今度は一人の孫権がに声を掛けて来た。
は孫権の蒼い瞳に少しの間見入っていたが、苦笑しながら孫権に再度声を掛けられると、慌て返事を返す。

「お茶を淹れ直したいんですが…」
「ああ、ならば此方だ。中の者には言っておくから、勝手に使うが良いぞ」
「あ、ありがとうございます」

孫権は何も言わなかった。
茶が温くなる程の時間は経っていないのに、何故、とも問わなかった。
恐らく、馬超と孫策との遣り取りが耳に入っていたのだろう。
茶を淹れたを孫策の部屋に案内したのは、孫権であったから。

「私は御前が気に入った」
「…え?」

給仕場までの案内の途中、唐突に孫権がそんな事を言い出した
余りにも突然だった為に、は驚いて立ち止まってしまう。
すると孫権は、そんなを見て笑いを零しながら、済まぬ、と言った。

「帰ってから此方、兄上は口を開けば、と御前の事ばかりを口にしてな。本当に気が抜けているようで、執務をさぼっていても皆何も言えぬのだ」
「…そう、なんですか」

病人のようにも見えるからな、と付け加え、孫権は更に頬笑む。

「私は兄上の味方だからな。が兄上を選んでくれる事を、私は望む。折角来てくれた事だしな」
「え、あ、でも、私は孟起に付いて来ただ、」

付いて来ただけ。
そう言おうとしたの唇を、孫権が指で制する。

「飽くまで私が望んでいるだけだ。選ぶのは、、御前だ。…さぁ、着いたぞ。ではな」
「あ…」

言いたい事を言いたいだけ言ってしまうと、孫権は中に一声掛けて、去って行ってしまった。
が困惑気に孫権の背を見詰めるも、振り返る気配は微塵もない。

「………」

如何すれば良いのかなど、この一月馬に揺られながら考えてみても、判らなかった。
は三つの湯呑を見詰め首を振ると、給仕場の中に入って行く。
新しい茶を淹れて貰いながら、はぼんやりと中空を見詰めていた。



残された二人は、部屋の外の音に全神経を集中させていた。
掴もうとしているのは、の足音。
の足音が完全に消えた後、漸く二人は息を吐く。

「あー…悪ぃ、俺、回りくどいの苦手なんだわ」
「………」
「気ぃ悪くしたら済まねぇ、率直に聞く」

頭を掻く孫策が、椅子の背凭れに寄り掛かった後に、ぐん、と前に出てくる。

「何で、此処に来た」

率直と言えば、これ以上率直な質問はない。
馬超はしかし返答に窮しているようで、考え倦ねた末、口を開いた。

「判らん」
「判らない、はねぇだろ。…って言いたいところだが」

本当に判んねぇ、って顔してんな、と孫策が続ける。
その言葉通り、馬超は本当に自分が何故呉に来たのか、自信を持って相手に渡せる答えを持っていないように見えた。

から全てを聞いた」
「…そうか、言ったんだな」
「ああ」

何より、正直に…何も話せていないから。
あの時そう、は言っていた。
だからきっと、あの後馬超に全てを話したのだろうと思っていた。

「…責めないでくれよ、って言っても遅ぇけど…」
「…責めては、いない」
「そうか、ありがとな」
「孫策殿に礼を言われる筋合いはない」
「そう、だな」

はは、と孫策が笑うと、馬超も漸く笑みを浮かべた。
直ぐに消えてしまいそうな笑みではあったが。

「…済まぬ」
「…いや」
「………」
「…で?」

続ける言葉を見付けられなくなった孫策が、馬超が呉に来た理由の続きを促す。
馬超は判らない、とだけ言ったが、それだけではない筈だ。

「…やはり、訳が判らなくなった、と言うのが最たる理由だろうか」

ぽつり、と呟くように、馬超は繰り返す。
しかし続く言葉には、馬超の真情が綴られていた。
馬超曰く、を連れて街を回った時に、自分がを閉じ込めている事、自分のしている事に疑問を感じ出した。
馬超はこれからもと共に在る心算だ。
だけれども、の心は?
は、心の中の事を言わない。
周りの人間の心の事ばかりを先に気にしてしまって、自分の事は何一つ言わない。
もし、心が孫策に傾いていても、笑顔で馬超の傍に在るだろう。
傍にが居て欲しい。
けれど、心も傍にあって欲しい。
の心から孫策を消すには如何すれば良いか。
判らない、から、呉まで来た。
居ても立ってもいられなくなった、だから、蜀将の地位を捨ててまで、飛び出してきた。

「………」

偽りのない真情を吐露した後に、二人の間に沈黙が落ちた。

「孫策殿は」
「……俺、か」
「ああ」
「俺は、全てに任せる」

が俺を選ぶなら、何が何でも守り通す。
逆に、これまで通り馬超の傍に居ると言うのなら、何も言わない。

が御前を選ぶなら、もう会いに行かない事も、約束する」

馬超が呉に来た理由を汲んだのだろう、孫策ははっきりとそう言った。
何が何でも、籠の鳥にしてまでを得たい馬超。
に自由を、全てに於いての自由を…選択の自由を与えようと考える孫策。
根本的に違うのだ、と二人は互いに感じていた。
けれど、どちらも想いを枉げる心算はない。
間違いも正解もないのだ。
只、の存在だけが、全てだった。

「…お茶、淹れ直してきました」
「おう」

こんこん、と控え目に戸が叩かれる音の後に、ひょこり、とが顔を出してきた。
今度は掴み合いの喧嘩をしていなかった二人に安堵した表情を浮かべると、は盆を手に卓までやって来る。

「お茶請けにお菓子貰ったんですよ」

にこり、と笑いながら、が先程と同様二人に湯呑みを差し出す。
菓子を卓の中央に置くと、自分の湯呑みを置き、座った。

「食べませんか?」

馬超も孫策も手を出さないから、も手を出せずに居るのだろう。
きっと、この三人の中で一番この菓子を食べたいのはなのだ。
うずうずとしている様子が伝わってきて、馬超が孫策が、堪え切れない笑いを漏らした。

「えっ、えっ、何ですか?何がおかしいんですか?」
「いや、なーんも可笑しくねぇよ。ほら、。喰え」
「俺の分も喰って良いぞ」
「え、何で笑ってるんですか。皆で食べましょうよ」

自分からは手を出せないの性格を知っていて、馬超と孫策が焦らす。
待ち切れなかったようで、とうとう菓子を三等分し始めるに、二人は笑った。
それから他愛もない事で話が弾み、三人で談笑を始める。
何所かぎこちないものではあったけれど、この時間は貴重な時間なのだ、と二人は悟っていた。
この呉に居る間に、と別れる者、共にする者がそれぞれ選ばれる。
自身、その事を判っているか如何かは判らなかったが、二人はそう思っていた。
だから、この時間は、貴重な時間だった。



笑い響く部屋の戸が、控え目に叩かれた。

「おーう、何だ?」
「兄上、権です」
「おう、入れ」

兄が機嫌良いのが嬉しいらしく、孫権もその蒼の瞳を嬉しそうに輝かせながら入ってきた。
暫く沈みっ放しの孫策を見ていたから、余計嬉しかったのかも知れない。
涙を浮かべる程笑っていたを見て、孫権は頬笑む。
しかし、は孫権の意図する所が判らずに、涙を拭きながらきょとん、としていた。

「馬超殿との今夜泊まる部屋を用意しようと思いまして」
「あ、そうだったな、忘れてたぜ。賓客用の部屋あんだろ、あそこ二つ、」
「俺とは一部屋で構わんが」

孫策を遮って放たれた馬超の一言に、孫策が孫権がが、固まった。

「押し掛けて来ているのは此方だ。二部屋も用意させるなど、申し訳ない。…
「あ、はい。一部屋で大丈夫、です。はい」

固まっているの持つ主体性の無さと控え目な性格を利用して、馬超はに頷かせる。
にやり、と笑っている馬超には気付いていない。
孫策は舌打ちしてやりたい所だったが諦め、代わりに孫権に目配せする。
孫権は了解の意を頬笑みに乗せると、口を開いた。

「突然押し掛けられたから部屋も用意出来ないなどと言われては孫呉の名が廃りましょう。部屋の二つや三つ、直ぐに用意します。ですので、どうぞ一人一部屋で寛ぎくださいますよう」
「しかし慣れぬ場所にが不安がるかも知れん」
「勿論、の部屋は馬超殿の隣室にします故。ご心配なく」

では、と最後に輝かしい笑みを浮かべると、孫権はさっさと出て行ってしまった。
馬超は引き攣った笑みを浮かべていて、孫策は良し、と笑っている。
だけが、困ったようにおろおろとしていた。





翌朝、が目を覚ますと、見慣れぬ天井が視界一杯に広がっていた。
あれ、と思いつつ伸びをして窓の外を見ると、これもまた見慣れぬ風景の中で、もう太陽が中天に差し掛かりそうになっている。

「お早う」
「あ、おはようござ、…」
「それにしても良く寝ていたな。やはり一月の旅は、にはきつかったか」
「し、りゅう…さん?」
「ああ、子龍だが」

声を掛けられたほうに反射的に振り返ると、そこには趙雲が居た。
夢か、と思ってぺちりと頬を叩いてみたものの、ちょっと痛い。
次いで幻か、と思い頭を緩く振ってみるが、やはり趙雲の姿は消えなかった。

「驚いたか?」
「はい、とっても」
「そうだろうな」

小さく笑いを漏らすと、趙雲は座っていた椅子から立ち上がり、寝台の縁に腰掛ける。
は何度か目を擦ってみるが、やはり幻影ではないらしい。

、此処は呉、建業の城で、私が趙子龍である事に違いは無い」
「…ですよね?」
「ああ」

馬超と共に昨日この城に辿り着いて、は確かに一人で寝た。
趙雲の姿は欠片も見なかった。
だと言うのに、目が覚めたら趙雲が居て、自分の頭を撫でている。
この状況を可笑しいと思わずに、何を可笑しいと思えば良いのだ。

「私は丞相と殿に命じられて、二人を、正確には馬超殿を追い掛けて来たのだ」
「諸葛亮様と劉備様に?」
「ああ。…馬超殿から何か聞かなかったか?」

馬超から聞いた事。
趙雲が追い掛けて来た理由。
二つを組み合わせれば、想像は容易で。

「孟起、蜀将辞める、って…」
「ああ、その事だ。…殿が大層お怒りになっていてな」

馬超からの書簡が劉備に届いた頃には、既に馬超の邸は蛻の殻であった。
引き留める役を仰せつかっていた趙雲も、引き留めるべき人間が居なければ如何しようもない。
馬超の消息を知ろうにも、書簡には只蜀将を辞すると言った内容しか書かれていないし、行き先の類を匂わす文章は何所にも書かれていなかった。
しかし劉備は絶対に連れ戻して来い、と馬超の意思を頑として受け入れず、そうして趙雲は馬超を捜す役目を負わされてしまう事となった。

「馬超殿は、邸を出る際に家僕達にも引き払うよう言っていたようでな。情報を仕入れようにも仕入れられなかったのだ」
「あ…」
「…ああ、だから、達の消息を掴めたのも、の御蔭だった」

あの時。
が家僕に頼んだ、花を世話してくれ、との願い。
それを聞き入れてくれた家僕は、哀しそうな顔をして頷いていた。
あの時既に、馬超から家を引き払う旨を聞いていたのだろう。
けれど、私がこの邸に居る間は、と決して嘘は吐かずに、を悲しませない答えを選んでくれた。
それだけでなく。

「家僕の一人が、馬超殿の邸に通っていてな。その家僕から、二人が呉に行った事を聞いたのだ」

家僕は、との約束が無効になっても、通ってくれていた。
目に涙を浮かべ、口を引き結ぶの頭を、趙雲は優しく撫でる。

「それと、。花は元気だったぞ」
「っ…あ、りが…」
、私に礼を言っても仕方がない」

困ったように頬笑む趙雲の掌が温かくて、はぽろぽろと涙を零す。
止めようとしても止まらず、それが困惑となって余計にの涙を生んだ。

「殿はお怒りになって、丞相は困ったように溜息を吐いて。馬超殿の辞任の件は保留だ、と。そう仰られていましたよ、馬超殿」

突然声を大きくした趙雲に驚いて顔を上げると、趙雲は部屋の入り口を見詰めていた。
が趙雲の視線を追い掛ける。
そこには、腕を組んだまま立っている馬超の姿が在った。

「…俺は」

ぽつり、と馬超は呟くが、その後は言葉にならない。
何事かを口の中で転がすと、踵を返して部屋を出て行ってしまった。

、涙が止まったら着替えて、顔を洗いに行こう。その後に、中庭で花を見よう?」
「は、い…っ」
「ゆっくりで良い。無理に止めなくて良いから」

趙雲の言葉に、がこくこくと頷く。
中々止まらないの涙を見ながら、趙雲はずっと頬笑んでいた。



趙雲がこの城に辿り着いたのは、つい先程だったらしい。
そして二人がこの城に滞在していると聞き、酷く安堵したとも言った。
行き違いになっている可能性もなくはなく、また、馬超が呉に向かったからと言って、此処建業に来ていない可能性だってあったから。
特に、趙雲は一人での旅であったから、船も使って馬も飛ばした。
故に、馬超の消息を追いながらの旅は出来無かったから、と。
だから、二人を捉まえる事が出来たのは運が良かった、と趙雲は言う。

「ご迷惑お掛けしました…」
「いや、が謝る事じゃない。馬超殿が突然言い出したのだろう?」

中庭の花を見ながら、が申し訳なさそうに頭を下げる。
しかし、実際は趙雲の言う通り、馬超が突然言い出しは無理矢理引き摺られて来たようなものだった。
とは言え頷くのも馬超に悪いと思ったのか、は困ったように笑うばかり。

も大変だな」
「え、はい?」
「決められないなら、私にするか?」
「あ…」

何の事か判ったらしく、いよいよの表情は困惑に取って代わった。
趙雲の言葉でも気付いたらしい。
近い内に、馬超か孫策かを選ばなければならない事に。
勿論、どちらか一方でなくてはならない、と言う事はないのだろう。
提案通り、趙雲を選んだって問題はない筈だ。
けれど、問題はそう容易いものではなくて。

「はは、また困らせたな。済まない」

色彩鮮やかな花を見詰めたまま固まったを見て、趙雲が苦く笑った。
暖色の花が風に揺れる様を、はじっと見詰める。
花は風で縦に頭を振っても、答えを教えてくれる事はなかった。



昼間は趙雲と過ごし、夕食は、馬超、孫策、趙雲、と蜀に居た頃ならば在り得ないと思えた組み合わせで食べ。
そうして夜が来て、さぁ寝よう、とした所で、部屋に誰かが入ってきた。
薄暗い明かりの中で浮かび上がったのは、見慣れた馬超の姿で。
は寝台から身体を起こすと、戸口に佇む馬超の傍まで駆けた。

「どうしたんですか?」
「犀…花…っ」
「え、な、何、どうしたんですか孟起っ!?」

馬超は突然に抱き付いてきたかと思えば、これもまた唐突に涙を流し始めた。
余りにも突然で、は困惑したまま一先ず馬超を寝台まで促す。

「頼む、何所にも…行かないでくれ…!」
「大丈夫ですよ、私はここにいますから、」
「違うっ!」

寝台の縁に腰掛けさせたの言葉を、馬超は強く否定する。
悪い夢を見るには早過ぎる時間だと思うのだが、と困惑するを更に困惑させる馬超は、の腕を掴んだ。
そしてその腕、左手の薬指に翠の石が嵌められているのを見て、更に泣いた。
は益々困惑する。

、涼州に移り住まないか?」
「りょ、りょうしゅう…ですか?えっと、それはどこに、」
「俺が挙兵した所だ。娯楽は少ないかも知れんが、珍しい物は良く入ってくるぞ。だから、、俺と一緒に涼州に移らぬか?」
「えっと、あの、孟起、落ち着いてくだ、」
「俺は落ち着いている」

相も変わらず馬超は涙を流しながら、しかしはきはきとした受け答えをしてみせる。
落ち着いている、と本人は言っているが、どの角度から見てみても、馬超が平静であるとは思い難かった。

「俺の傍に居てくれ…」
「…孟起」
「何所にも行かないで、ずっとずっと傍に居てくれ」
「………」

は、はい、とは言えなかった。
言えばきっと、馬超は安心するだろう。
けれど、の心が定まらない内に頷いたとて、それは一時の安堵に過ぎない。
それは馬超の為にもの為にも、誰の為にもならない。
だからは、弱音を吐き続ける馬超の背をずっと撫で続けた。
余りにも情けない言葉の連なりに、余程のほうが泣きそうになる。

「孟起、私は…」

泣き疲れて眠るなんて、一体何所の子供なんだろう。
は馬超の転がる寝台の縁に腰掛けて、外を眺めていた。
馬超の邸のように、高く聳え立つ塀など見えない。
窓にも鉄格子が付いていなくて、外の木々や花々が見えた。
色鮮やかな花が、暗くても良く見える。

「………」

如何すれば良いのかなど、判らない。
誰かが答えを出してくれる訳でもない。
は蒼白く輝く月を見ながら、薄っすらと涙を浮かべた。





達が呉に来て、凡そ一週間近くが経っていた。
そんなに時間が経っていたのか、と孫策はと二人、山の上で頭上の月を見上げながら嘆息する。
それ程の時が経っていながら、孫策とが二人きりになれたのは今日、今が初めてだった。

「綺麗だろ?」
「はい」
「これ、見せたかった」
「…はい」

孫策が横に座るに振り返ると、は穏やかな頬笑みを湛えていた。
その笑みを見て孫策は口を開こうとして、しかし止める。
今言わなくて何時言うんだ、と言う気持ちはあった。
けれど、言えない。
に想いを急かすような真似は、孫策には出来なかった。

「俺、もっと御前と色んな景色が見てぇ」
「…はい」

だけれど、塞き止めた筈の想いがどんどん溢れてくるから。
孫策は少しだけ、吐き出してみる。

「色んな所行って、色んなもん喰ってみて。ずっと…ずっと…」

これからも一緒に。
そこまでは言えなかった。
それ以上は言ってはならない、と孫策の中で制止が掛かった。

「………」
「………」

は何も言わない。
孫策が何も言わないから、は何も言わない。
の瞳は孫策の言葉を待っていた。
けれど、孫策から続く言葉が発される事はなかった。

「…言ってくれないんですね」
「………」

ぽつり、と星が輝きを零すように、から言葉が零れ出す。
孫策は真顔で月を睨みながら、の言葉を聞いていた。

「俺に付いて来い、って…最後まで、言ってくれませんでした」
「…俺には、如何しても強いる事が出来ねぇ」
「………」

判ってます、と。
沈黙の後に、が呟いた。

「伯符が私を求めてくれている事はとてもよく判ってます。でも、…言葉にしてくれた孟起を、私は…選びます」
「…そうか」

二人、夜空を見上げた。
本当は、分かっていたのかも知れない。
も、孫策も。
が馬超を選ぶ事を分かって、今日二人、此処に来たのかも知れない。
馬超がとても弱い事、孫策もも、充分に知っていたから。
だから、は馬超を選んで。
だから、孫策は馬超を選ばせて。
その確認の為に二人、此処に来たのかも知れない。

「じゃ、ちょっと待ってろ」

孫策は立ち上がると、の頭を撫でながら言った。
真剣な口調ではないのに、表情は真剣そのもの。
まるで、の姿を網膜に焼き付けんとしているようだった。

「御前の『皇子様』、連れて来てやっから」
「王子様…?」

ぽんぽん、との頭を撫でると、孫策は遠く山中の森の中へ入って行ってしまった。
暫く姿が見えない、と思ったら、やがて森から人影が出て来る。
しかし、その人影は孫策のものではなく、もっと見慣れたもので。

!」
「孟起」

馬超が満面に笑みを浮かべて駆けて来た。
そのままの勢いで抱き付いてくる馬超。
その馬超の肩越しに、は森の奥を窺った。
けれど、孫策の姿は影も見えない。

「俺と一緒に居てくれるんだな!」
「はい」
「蜀と涼州、はどちらが良い!?」
「私は」

このまま放さないとでも言わん勢いで締め付けてくる馬超の御蔭で、は息をする事もままならない。
だからだろうか。
馬超の胸の中に押し込められながら、涙が浮かんでくるのは。

「何所に行っても、孟起と一緒に居ますから」





兎に角一度、殿の元に顔を出してください。
そう趙雲に言い包められた馬超は結局、と共に蜀へ戻る事となった。

「俺はもう、御前には会いに行かねぇからな」

馬超に腰を抱かれて馬に乗っているに、孫策が笑顔で言った。
馬超との約束でもあったが、何より、自分自身へのけじめの為に。
その事はにも伝わったようで、もまた笑顔で、はい、と頷いた。

「馬超、約束、頼んだぜ」
「ああ、無論だ」

孫策が意味あり気な視線を馬超に寄越すと、馬超は大様に頷いた。
それを見て納得したのか、孫策は一歩後ろに下がる。

「私はどちらにせよ違う道で帰る事になりますから。先に帰っていてください」

趙雲も一歩下がると、孫策と同じ、と馬超を見送る側に立つ。
同じ場所に帰る者同士の筈なのに、と思うと何だか滑稽だった。

「じゃあな、!」
「さよなら、…伯符」

馬を進める馬超の前からが振り返って手を振ったが、それも一度きり。
孫策と趙雲は馬超の背に隠れるの姿をずっと見詰めていたが、やがて見えなくなった。

「ん、あれ?そう言や何で御前、此処残ってんだ?」
「今度御時間ある時にでも手合わせを、と。以前お約束したでしょう」
「お?あー、言ってた、言ってたな!丁度今、無性に暴れたかったんだよ!手加減出来ねぇけど、それでも良いか!?」

腰からトンファーを取り出して、今此処で手合わせせん、とでも言わん勢いの孫策に、趙雲は苦笑する。
けれど、携えていた槍を構えると、孫策を挑発するように、くい、と穂先を動かした。

「奇遇な事に、私も無性に暴れたかった所なのです。何時でもどうぞ」
「良し、じゃ行くぜぇ!こっちだ!!」

孫策がトンファーを構えたまま走り出す。
孫策が本気で走るから、趙雲も本気で走った。
こうして何も考えずに身体を動かすのも良い事だな。
久しく感じていなかった爽快感に、趙雲は唇に弧を描いた。





凡そ一ヶ月の後に、馬超はを、孫策との約束の場所に連れて来た。
その場所はが孫策と約束をした場所であり、また、馬超とが出会った場所。
孫策は三つ、馬超と約束をした。
その一つが、自分の代わりにをこの場所に夜、連れて来る事。
それを馬超は今、果たした。

「…そう、あの時は一面の黒の中に、月と雲と星だけがあって。でも、今日は雲がない…月と星だけ。綺麗です…とても、とても」

星空に向かって手を伸ばしたり跳ねたりしている様子は、が普段は全く見せない子供の部分のようであった。
馬超は馬の足元に座り込みながら、酷く楽しそうなを見詰めている。

、ちょっと良いか」
「はい」

の笑みを壊す事になりそうで馬超は言い淀んだが、しかしこれも孫策との約束。
孫策との約束の内、二つは蜀に帰る前に果たせ、と言われていた。
二つ目の約束は。

「孫策殿から貰った木箱…持っているか」
「あ、はい。この袋の中に…これです」
「孫策殿からの伝言だ。…、この中身は」
「指輪が一つと、紙が一つです」

答えるに、馬超は少し驚いた顔をした。
あの夜、馬超が偶然開けたこの木箱の中には、指輪など入っていなくて。
確かに紙しか入っておらず、また、はこの木箱を開けた事が無いものだとばかり思っていた。

「紙の内容は」
「…分かりません」
「…そうか」

馬超が知る限り、あの紙の内容を知る者は、馬超と孫策だけと言う事になる。
にあの紙の内容を、伝えるべきだろうか。
馬超は考えたが、しかし自分が伝えても意味の無い事だ、と思った。
あれは、孫策からに伝えられなければ、何の効力も持たない。
だから、と馬超は自分を納得させるように頷く。

「孫策殿からの伝言は、『木箱も中身も全て捨てて俺を忘れてくれ』だ」
「………」

孫策は、この二つ目までの約束を、蜀に帰るまでに果たせ、と言った。
けれど無理だ、と馬超は思っていた。
そう簡単に捨てられるようなものではない。
が懸命になって開けようとしていたであろう痕跡を、馬超は見ている。

「…?」

この約束は、追々果たす事にしても良いだろう。
馬超がそう伝えようと口を開こうとしたら、が突然布袋の中身を引き摺り出し始めた。
中に入っているのは、の着替えや布、絹など。
はそれら全てを出し終えると、最後に布袋をそれらの上で引っ繰り返した。
中から転がり出てきたのは、銀に紅の石が付いた指輪。
奇しくも、馬超がに贈った物と、色違いの石の指輪だった。

「伯符が言ったんですよね?」
「…ああ」
「だったら…」

が渾身の力を篭めて、木箱を遠くに放り投げた。
余りの勢いの良さに、馬超は目を見開いてを見る。
は残る指輪に小さな声で、ありがとうございます、と呟くと、その指輪も投げてしまった。
草原の中に転がった木箱は兎も角、指輪はもう探そうと思っても見つける事は不可能だと思われた。

…」
「伯符の事は、すぐには忘れられないと思います。でも、物を捨てる事くらいなら、私にも出来ますから」

そう言って、は頬笑んだ。
満点の星空、月の下で、穏やかに頬笑んだ。

が此処までしたのだから、俺も全力で孫策殿との約束を果たさなければな」
「伝言の他に、約束もあるんですか?」
「ああ」

本当の所は、その伝言も約束であるのだが、馬超は頷くに留める。
にしてみれば、伝言も約束も変わりはないであろうから。

「俺は」

三つ目の約束、これだけは蜀に入る前に果たさなくても良いもの。
だけれど、一生果たせないものであった。
否、一生を掛けて果たすもの、であろうか。

「『を死ぬまで愛する』」

そう言ってを抱き寄せる馬超の声には、何故だろう、孫策の声音が混じっているような気がした。
は、馬超が、孫策が見せてくれた頭上の星空を見上げる。
孫策の事を直には忘れられないかも知れない。
若しかすると、一生忘れる事が出来無いかも知れない。
けれど、が孫策が選んだ馬超の横で、幸せに笑っていよう、と星空に誓った。
それをと孫策との約束にした。














『++WhiteClover++』の結菜さんからいただいたキリ番リクエストです。これが最後のキリ番受付と言うことで、私がもらってしまっていいのかという戸惑いもありますが…
欲しかったんだ!
と駄々をこねてみます(せんでいいですね)。
凹んだりした時は読み返させていただいております…この馬超のへたれ具合は、正に結菜さんが私の為にチューンナップして下さったとしか思えない!
あるいは私の電波を結菜さんが素敵にキャッチ!
繋がってる!(いいから)
最終的には馬超に落ち着きましたが、趙雲も孫策もきっと一生大事に想ってくれそうでいいですね。いい男ほど振られるというのもツボです(^^)。
後、途中に出てくる名もない老夫婦も実はツボだった。ああいう人達、いいですね。
私の為に大作を仕上げて下さって、本当に有難うございました!
でも、熱があるのに原稿やっちゃ駄目です。私と結菜さんのお約束です。ね!

■結菜様のステキサイトはこちら(休止中)→ 

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