「。ハロウィンとは、何だ?」
孫堅はテレビから目を離さぬまま、洗濯物を畳んでいたに訊ねる。
テレビには、華やかなパレードが映し出されており、女性アナウンサーの綺麗な声で祭りを楽しむ人々が紹介されていた。
「ハロウィンですか? ハロウィンって言うのは……」
の丁寧な説明に、孫堅は時折頷いて相槌を打つ。
ここの家主はであり、生活の面倒を見ているのもなのだが、孫堅に対してはつい敬語で接してしまう。
年のこともあったが、何より肌で感じる威圧感のようなものが、にタメ口を許さなかった。
名前を呼ぶ時も『サマ』付けにしてしまうくらいだ。
もっとも、やはりリアルで『様』と呼ぶのは恥ずかしく、ついつい『サマ』等と少々茶化した発音をしてしまっているのだが。
孫堅を連れ帰った当時、『いつもそうなのか』と問い掛けられたことがあったから、孫堅なりに気にしているのかもしれない。
ただ、本当にタメ口をきくよりも敬語の方がうんと楽だったので、そのまま敬語で通している。
「……という感じで、まぁ、子供のお祭りって感じですね、だいたい」
「大人は参じないのか」
そんなこともない。
けれど、ハロウィンの最たるイベントは、子供らが仮装して街を練り歩き、訪ねた先々で『Trick or Treat』と挨拶して菓子をもらうことだと思う。
パレードだけを行うものもないではないが、一番ハロウィンらしいと言えばこれだろう。
「……気分だけでも良ければ、仮装とかしてみます?」
洗濯物を見ながら、は思い付きを口にした。
は、孫堅に対し少々心苦しく思っていることがある。
現代とはまったく異なる世界から来た孫堅を、外に出さないよう心掛けていた。
杞憂かもしれないが、外に連れ出すことでトラブルに巻き込まれることを恐れたのである。
だから、孫堅の希望で叶えられるものは極力叶えようと決めていた。
「仮装」
孫堅は不思議そうにを見ていたが、テレビの画面を見て一応納得したようだ。
外にもほとんど出ない孫堅には、ハロウィンパレードの衣装が仮装なのか通常のものなのか、今一つ判断しかねるのだろう。
は内心申し訳なくなりながら、仮装に使えそうなアイテムを部屋の中から掻き集める。
「えーと」
遊園地で手に入れたネズミの耳付きのカチューシャを発見し、頭に付けてみる。
「こんな感じ、とか」
孫堅を振り返ると、どうやら興に乗ったらしい。洗濯物の中から黒いシャツを引っ張り出すと、に差し出す。
着ろと言うことか。
思った以上に本格的になって来たなと、苦笑が漏れる。
孫堅は気にした様子もなく、洗濯物を弄って黒いデニムパンツとストッキングを引っ張り出した。
ブラやショーツなどの下着は別にしておいたのだが、うっかり紛れたらしい。
ちょっと恥ずかしいなと思いつつ、羞恥を押し殺してなんでもない振りをした。
「違います、このネズミは赤いズボンを穿いてるんですよー」
生憎赤いショートパンツはなかったが、赤いスカートはあったのでそれを代用とする。
着替えの為に隣室に映り、戸を閉める間際孫堅をそっと盗み見たが、孫堅はぼんやりとテレビを見ている。
あんまり面白くなかったかな、と思ったが、ここでやめようと言うのもおかしな話だ。
意を決して着替えることにする。
――今、孫堅サマが入ってきたらどうしよう。
デニムを下ろしたところで思わず振り返るが、閉めたドアが開く気配もない。
自意識過剰だと恥ずかしくなった。
さっさと着替えて孫堅の元に戻ると、孫堅が振り返る。
いぶかしげな顔をして、の傍にやって来た。
何かおかしいだろうか(そもそも仮装なのだから傍から見ればおかしいだろうが)と自分の服装を見下ろすも、特に思い当たらない。
と、するりと尻を撫でられた。
驚いて孫堅を見るも、孫堅は酷く真面目な顔をしており、とても猥褻行為を働いているようには見えない。
しかし、孫堅の手は変わらずの尻を撫で回している。
混乱を極めようとした一瞬手前で、孫堅の手は離れた。
「尾が、ない」
「お、オ?」
孫堅が何を言っているか分からず、またも混乱し掛けたは、けれど今度はすぐさま立ち直った。
「……あー、尾。尻尾」
「渡しただろう?」
どうやら、黒いストッキングは尻尾にしろというつもりで寄越したらしい。
孫堅が例のネズミの形状を知る由もないから、がうっかりだ。
確かに、ネズミには尻尾が付き物だろう。
ハムスターならばともかく、普通、ネズミと言ったら長い尻尾かもしれない。
何とはなしに腰に手を回すが、孫堅に撫でられた感覚が蘇って面映ゆかった。
「それに」
すっと孫堅の指が滑る。
シャツのボタンがあっという間に三つ外され、冷たい空気を感じて鳥肌立った。
よそ見していた隙を突かれたとは言え、凄まじい早業である。
「ネズミの腹は、白い」
――え、そうだったっけ。
呆然としている間に、残りのボタンもすべて外されていた。
下には、ブラしかしていない。
「」
「へ」
我に返る前に孫堅に呼ばれてしまう。
目を丸くしたまま顔を上げると、吐息の掛かる距離で見詰め合った。
「Trick or Treat?」
どこで覚えたのだか、完璧に近い(には本当に完璧かどうか判断が付かないが)発音で囁く。
そのことにもまた驚いて、返事が出来ないで居ると、孫堅の目がずいと近付いてきた。
「とっ、とりーと、とりーと!」
必死に叫びながら仰け反るも、いつの間にか頭の後ろに手が回されていて、反らした倍の長さを押し戻される。
ただでさえ至近と言っていい距離に在った顔が、思い切りぶつかった。
ぐに、と柔らかいものが口に当たる。
次いで、もっと柔らかいものがの歯茎をちろりと舐めた。
――うひゃ。
得体の知れない感触に驚いて、反射で口が開くと、柔らかなものはするりとの口腔に忍び込む。
舌の先端から奥へと撫で擦り、かと思えば舌の裏側に回り込んで細かに揺り動く。
己の口の中を好き勝手に動き回っているのが孫堅の舌だと気付くも、頭が固定されていて動くに動けない。
逃げられないまま孫堅に蹂躙され、は下っ腹の方からむず痒さを感じて足を擦り合わせる。
ようやく孫堅が離れ、深く重なっていた唇から透明な糸が長く引いた。
濃厚な口付けに、は眩暈を起こす。
「……Trick or Treat?」
またも囁かれる言葉に、は首を振った。
唇は痺れて、役に立たなそうだったのだ。
「では」
の目をわざと覗き込み、孫堅は意味ありげに笑う。
「悪戯だな」
開いた前身から孫堅の指が滑り込み、ブラをたくし上げる。
勢い良く引っ張り上げられ、中に治まっていた柔肉が不満そうに揺れた。
隠そうと手を回せば、孫堅の指は隙の出来た下半身に伸び、無防備なスカートの裾からの秘肉へとまっすぐ辿り着く。
秘裂の始点から押し入るように指を捩じ込められ、は思わず艶めいた声を漏らす。
押さえても時既に遅く、孫堅は快い音楽を耳にしたように目を細めていた。
は顔が熱くなるのを感じる。
孫堅の指はストッキングとショーツに阻まれ、侵入には至ってないが、が感じ始めた証拠に直に触れている筈だ。
暖かく潤んだショーツは、もう隠しようがない程に濡れそぼっている。
なぞるように動く指がその潤いを更に誘い出していた。
孫堅は、不意に指を止めるとを抱えて移動する。
下ろされたのは、絨毯の上だった。
そのまま寝かされ、足を広げられる。
は抵抗する気も消え失せたまま、手のひらで顔を覆って孫堅の為すがままになっていた。
開いた足の間に、再度孫堅の指が伸びる。
今度は撫で擦る為ではない。
ぴっ、と甲高い音がして、の太股の奥が冷たく冷えていく。
音は立て続けに起こり、孫堅がストッキングを破いていることをに知らせていた。
ショーツが酷く濡れているところを中心に、丸く滑稽な穴が空く。
クロッチに指が掛かり、は他人の指が直に触れる感覚に震えた。
ひちゃり、と濡れた音がして、の体は大きく跳ね上がる。
襞を掻き分け、孫堅の舌はそこに秘められていた肉芽を探し当てていた。
揺するように、時には抉るように、弱く弱く強くの絶妙な律動で肉芽を責め立てる。
孫堅の舌が触れる度、はかすれた悲鳴を上げて悶えた。
許しを請うても、孫堅が聞き入れる様子はない。
跳ねる足が邪魔に思われたか、孫堅はの足首を纏めて戒めると、高々と上げてしまった。
閉じた足のせいで口を閉じる秘肉に、それでも孫堅の舌が突き立てられ掻き分けていく。
密度が上がり、抉られる感覚を強くして、はついに啜り泣く。
がくがくと震える足から手を離すと、はくったりと力を抜いた。
だが、見え隠れする秘肉は緩い痙攣を繰り返している。
物欲しげに口をすぼめているようにも見えた。
「」
孫堅が囁く。
「Trick or Treat?」
潤んだ眼を薄く開けて孫堅を見遣るは、小さく『Treat』と答えた。
孫堅はそれに応え、に触れるだけの口付けを落とす。
「……」
唇を離し、孫堅は目で笑いながら問う。
「Trick or Treat?」
は悔しげに眉を顰めながら、矢庭に孫堅にしがみ付いた。
「孫堅サマ……孫堅サマが、欲しい、です」
四肢を絡めるを抱き寄せ、孫堅は満足げに頷いた。
一度を床に落とし、自らの下着を下ろす。
現れた肉具は、醜悪な程たくましく熱っていた。
押し当てられただけで、その熱に焼かれるようだ。
「……は、うっ……!」
めり込んでくる孫堅の肉に、は甘美な悲鳴を上げた。
破瓜の痛みは過ぎる悦楽が最小に留めてくれた。
気怠い体を持て余し、横たわっているの横で、孫堅はまるで何事もなかったかのような顔をしてテレビを見ている。
しかし、孫堅のシャツのボタンは外されたまま、に至っては全裸のままとあって、事後の空気は打ち消し難い。
思い出したように孫堅が口を開く。
「俺が暇そうに見えるなら、今度からこうしてくれ」
――気を回してくれるのは有難いが、お前は男の一番辛いところが分かって居らん。
そんな阿呆なことを、平然と言ってのける。
ちょっと肩を揉んでくれと言わんばかりの気軽さだ。
「お断りします」
即答するに、孫堅は笑うのみだ。
それにしても、とんだハロウィンだった。
がぼんやり考えていると、孫堅がくるりと振り向く。
「子供の祭りだと言うから、大人の祭りに仕立ててみたが」
まるきり他人事のように言い捨てるもので、の眉間に皺が浮く。
孫堅は、やはり笑うだけだった。
ややもして、テレビを見ていた孫堅がまたもを振り返る。
「、Trick or Treat?」
「…………………………とりーと」
尖らせたの唇に、孫堅のそれが触れた。
終
The orderer :赤駒様