ある日、いつものように川に魚を取る為の仕掛けを見に行くと、魚は入ってなかったが人間が落ちていた。
 は、もったいないと思ってつい持って帰ることにした。

 夜になり、が火を起こすと、持って帰ってきた人間がぶるっと震えて、盛大にくしゃみをした。
 すごいくしゃみだ、と感心していると、恨みがましい目でこちらを振り返っているのに気がついた。
「……貴様、私のような高貴な人間に、何故『火に当たって下さいませ』と言えんのだ!」
 高貴なわりにはずいぶんしょぼくれて見えるのだが、は文句も言わずに言うとおりに言う。
 多少棒読みなのが気に入らないようだったが、いそいそと火に両手を翳して、ふぅっと安堵の溜息を吐いた。
「お前は、誰だ」
 そうして出たのがこの言葉だった。
 が気にもせずに名を名乗ると、拾ってきた人間は『本初』と名乗った。
「私のような高貴な血筋の者を世話できる栄誉、光栄に思うが良い」
 ぬわーっはっは。
 笑い声が面白いので、しばらくここに置いておくことにした。

 本初は、日がな一日ぼーっと縁側に腰掛けて暮らした。
 も、働かない本初に何を言うわけでもない。
 一人の分が二人分になる。
 現代ならばさして手間にもならないが、ここは古の中国だ。労苦は並大抵ではない。
 だが、は何も言わない。小さな家の外にはやはり小さな畑があり、本初が見たこともない野菜が植えられていた。最も、本初にとって野菜は切り刻まれ調理または細工されたものでしかなく、どれなら見たことがあるかと問われても甚だ怪しいものなのだった。
 本初は、自分のことをには何も話さなかった。ただ、高貴な血筋の者である、ということと、事情があって領地から離れていなければならない、ということだけを話していた。
 本初……袁紹は、官渡の戦いにおいて、旧友・曹操と争い、敗北した。寸前で影武者をたて、どうにか逃げ延びたのだが、供連れは何時の間にか一騎減り二騎減り、気がつけば一人になっていた。馬も足に怪我をし、無理に走らせたのが仇となって血泡を吹いて死んだ。袁紹は歩いて逃げた。眠れない日々が続いた。逃げても逃げても、曹操が追ってくるような気がしたのだ。
 歩いて歩いて、足を滑らせて坂をまっ逆さまに転げ落ちた。
 気がついた時にはの家で、隅の方に転がされていたのだった。
 は、袁紹に何も尋ねない。それこそ飯を食うかの水を飲むかの、そんなことまで聞いてこない。
 気が利かない、と袁紹はを詰ったが、は気にすることもなく、食べたいなら椀を取って来い、水が欲しいなら井戸に行けと軽く袁紹をあしらった。
 の家には、以外誰もいない。
 自身も、川や山に出向くこともあったが、市に行ったり近所の者を尋ねたりすることもない。勿論誰も尋ねてこない。
 不思議なことではあった。
 だが、それだからこそ袁紹は、ようやくぼーっとしていられるようになったのだ。
 目の前でが鍬を振るっている。
 私は名族の誇りに賭け、再起しなければならぬ。
 ここにいる限りは安心だが、世の趨勢はまったく見えてこない。まず、ここを出なければならない。領地に戻りさえすれば、何か手立てが残されているはずだ。
 が手を止めて、袁紹を振り返る。
 小首を傾げて寄越すのが、下賎の者にしてはなかなか愛いと思った。

 名を呼ぶと、なぁに、と返ってくる。口の聞き方は何とか直さねばなるまい。
「私と、私の領地へ行かんか」
 いーやーだー、と呑気な声が返ってきて、が再び鍬を振るい始める。
 鍬を振り下ろすたび、胸の辺りがふるっと揺れて、袁紹は生唾を飲み込んだ。
 そう言えば、戦の後の敗走、ここしばらく女を抱いていなかった。だからだろうか、こんな下賎な女を愛いと感じたのは。
 袁紹は、顔をぶるっと振るった。どうかしているぞ私は、と一人ぶつぶつ言いながら、顔を洗おうと井戸に向かった。
 がその後ろ姿を見て、くすりと笑っていたのも気がつかなかった。

 夜、食事を済ませ、は井戸に茶碗を洗いに行った。
 灯りも持たずによく行けると思ったが、今宵は満月で月も煌々と照っている。これなら足元も危なくはあるまい。袁紹は、何の気なしにを追って井戸へ向かった。
 戸を開けて、おや、と思う。
 すぐ脇にある平たい石の上に、洗ったばかりの茶碗が桶に仕舞われて置いてあった。
 では、は何処にいるのか。
 井戸の方から水音が聞こえ、袁紹はぷらぷらとそちらに向けて歩き出した。
 のぉ。
 袁紹は上げかけた声を両の手で口を塞ぐことで抑えた。
 月明かりの下、が一糸纏わぬ体を晒し、井戸水で身を清めていたのだ。
 女の美しい曲線、なだらかな線が急激に盛り上がり、袁紹を誘うが如くに水が煌く。昼のように明るく、だが青く冴え冴えとした光は、の裸体を美しく彩り、その陰毛の一本一本さえはっきりと見ることが出来た。
 途端に股間に滾るものを感じる。
 体中の力がすべて股間に集まってしまったようで、袁紹は思わずよろけて一歩を踏み出してしまった。
 ざり、と高い音がして、が袁紹の存在に気がつく。
「……本初さん?」
 気がついて尚隠そうともしない。呆然と立ち竦み、袁紹を見つめている。
 ええい、馬鹿な、何故隠さんのだ!
 下賎の女はこれだから、と唾棄するが、ふと、この女はひょっとして高貴な血筋の私の種を欲し
がっているのではないかと閃いた。
 それならば、惜しむことなく与えてやるのも名門の血筋の情けというもの。
 袁紹も、何も本気でそんなことを考えたわけではない。ただ、下賎な者の振る舞いに堕ちる自分を認めたくなかっただけだ。
 ぎくしゃくと歩み出し、に近付く。
 は、袁紹が近付いてきてもまったく動じていない。何をするんだろうというような顔はしていたが、嫌がっているようには思えなかった。
 嫌なら、嫌と言うだろう、まして私を甘んじて受け入れるなどということは、
 だが。
 は袁紹の手を拒むことはなかった。
 不思議そうに袁紹の手が己の肌を這うのを見つめ、袁紹の指が先端の朱を押し潰すに至って、ようやく小さな吐息を漏らしただけだった。
 お前が悪いのだ、嫌がらないお前が、
 言い訳と後ろめたさでいっぱいになった袁紹とは逆に、はただ小首を傾げて袁紹を見つめていた。
「本初さん、私、何か気持ちいい」
 どうして、と尋ねられ、袁紹には言葉もない。
 男と女の契りについて、何も知らんのかと袁紹は焦った。
 黙って熱り勃つ肉棒を取り出すと、の目が真ん丸く見開かれた。
「本初さん、それなぁに」
 面倒になって男の印だ、と言うと、はおとこ、と呟くなり袁紹のそれをぎゅっと握った。
「痛い!」
 袁紹が飛び上がると、はびっくりして、慌てて跪き袁紹の肉棒をふーふーと吹き始めた。
「これ、腫れてるの?」
 がきょとんとして袁紹に尋ねる。
 袁紹は、どう答えたものかと悩む。と、が突然舌で舐め始めた。
「のわっ」
 引けかけた腰を追って、の舌が伸ばされる。ひちゃひちゃと音がするのに従い、亀頭の先から先走りの汁が零れ始めた。はにっこり笑って、今度は口に含んで吸い上げる。
「わ、馬鹿者、よ、よ……」
 よさんかと言おうと思うのだが、久方振りの快楽に言葉が出てこない。そうこうしている内に、限界を迎えた肉棒が弾け、の顔に精液を迸らせた。
 は一瞬嫌な顔をしたが、袁紹のものが力を失くして項垂れているのを見て、嬉しそうに笑った。
「良かったね、膿が出たから、きっとすぐ良くなるよ」
 袁紹は愕然としての精液塗れの顔を見つめる。
 は、男を知らないどころか、男という存在そのものを知らなかったのだ。

 袁紹は、ここに来てようやくの身の上を尋ねた。下賎の者の身の上など知ったことではなかったのだが、あまりに異常なに、知っておくべきだと考えを改めたのである。
 は、物心ついた時には老婆と暮らしていた。
 他には誰もいない。老婆が死に、袁紹が来るまでは一人で暮らしてきた。
 老婆から教わった木の実や食べられる野草、魚などの採集の仕方をこなし、老婆が作っていた畑を耕すことで飢えもせずに何とかやってきた。
 着物は、行李の中に大きいのも小さいのも入っていた。中には血と思しき褐色の跡がべったりとついた着物もあり、袁紹はそれを見て思わず魂消た。一緒に錆びた刀剣もあった。
 何となく察しがついた。
 恐らく、老婆は盗賊の仲間か何かだったのだろう。どういうことがあったのか定かではないが、全員が死に絶え、最後に残った老婆が、生き残った盗賊の娘だか攫ってきた娘だかのをここに残して死んだ。
 少し離れたところに、たくさんの土饅頭があるのを見て、袁紹はそう結論付けた。
 は、そんなことにはまったく興味を示さず、とにかく袁紹のものを見たがった。
「手当てしないと、また悪くなるよ」
 しばらく袁紹と過ごしているうちに、は袁紹にすっかり懐いていたのだ。
 手当てを、としつこいに、袁紹は怪我ではないと何度も言い募るのだが、はまったく理解
しなかった。
 夜になり、はまた井戸に行くと言って出て行った。
 長いこと帰って来ず、袁紹は戸口の方を気にしながら、しかし出て行くことはしなかった。昨日の今日で、後ろめたかったのだ。
 やがて、戸口ががたがたと音を立てて開き、が戻ってきた。
 袁紹は平静を装いながら、厳しく振り返り、ぶはっと吹き出した。
 は、裸だった。手に着物を握り締め、とことこと袁紹の元に歩いてくる。
「な、な」
 袁紹が言葉もなくうろたえていると、は袁紹の前にちょこんと座った。
「本初さん、どうして来ないの?」
 ずっと袁紹を待っていたから、寒かったという。
「わ、私がいつ行くと……」
 うろたえて怒鳴ると、は首を傾げた。
「本初さんが私に触った時、とっても気持ち良かったの。だから、今日もしてもらおうと思ったの」
 井戸に行こうよ、と袁紹の手を取るので、袁紹は慌てて振り払った。
 は訳が分からずきょとんとしている。
「……本初さん、顔が赤いよ。病気? もう寝る?」
 は裸のままぼろ布を敷きにかかる。
 袁紹の目の前で、淡い茂みが行ったり来たりするのを、袁紹はあわわ、などと不明瞭な声を出しながら惑っていた。
「袁紹、貴様が抱かぬなら、儂がその娘の相手をしてやろう」
 突然、戸口の所から声がした。耳に馴染みの声に、袁紹は背筋が凍るような気がした。
「曹操、貴様……!」
 戸口からすうっと姿を現したのは、袁紹の最たる敵、曹操その人だった。
「何故、ここが……いや、何故私が生きていると」
 袁紹の恫喝に、曹操は怯むことすらない。
「袁紹、長の付き合いだというのに、お前はまったく分かっておらぬな。お前の顔、この曹孟徳が見間違うとでも思ったか。すぐに分かったわ、あの首が偽者だとな。だが、お前の策に乗った振りをし、敢えて隠密に探させておったのよ……何故だか分かるか?」
 曹操は、ずかずかとの家に上がりこむと、きょとんとしているをぼろ布の上に押し倒す。
「……鄙には稀な美形よな。気持ちよく、なりたいか?」
「曹操!」
 飛び掛ろうとする袁紹に、曹操は一喝する。
「動くな! 動けば、外にいる儂の配下が貴様の目を射抜くぞ。……儂は、旧知の仲たるお前に敬意を表し、完膚なきまで叩き潰してやろうと決めたのよ。貴様の息子は北に逃げたぞ。明日にも、儂自らが奴らを追い詰めよう」
 その前に、と曹操は舌舐めずりをし、組み敷いたの喉に甘く歯を立てた。
 はまだことの成り行きが理解できておらず、突然現れた曹操と袁紹の顔を見比べていた。
「……あなた、誰?」
 あどけない問い掛けに、曹操は優しく微笑んだ。
「儂は、曹孟徳だ。お前に、男と言う物を教えてやろう」
 はきょとんとしたまま、為されるがままになっている。首筋に舌を這わせ、鎖骨を強く吸い上げると、紅い跡になった。が痛い、と呻いて曹操を押し退けようとするのだが、曹操は他愛無く腕を絡め取って床に押し付けた。
「おい、袁紹。ぼうっとしてないで手伝わんか」
 あまりの言い草に、袁紹の口がぱくぱくと開く。曹操は、にやりと笑いかけた。
「共に花嫁泥棒をやった仲ではないか。次はお前にやらせてやる、さあさっさと抑えんか」
 袁紹の唇が微かに震え、ついでのろのろと二人に近付き、の手を掴む。手の平を重ね合わせるようにして繋ぐと、戸惑っていたの顔が、微笑に変わった。
 袁紹の顔が歪む。
 だが、は安心したのか、甘い声を漏らし始めた。
「ここが、悦いのか」
 乳房をこねくりまわされて、乳首を摘み上げられる。
「んん、痛……い……!」
 弱弱しく声を漏らすが、目は潤んでいる。曹操が耳元に唇を寄せた。その間も手はの皮膚を這い回っている。
「痛いか、だが、気持ち悦くはないか……?」
 ん? と顎で指し示され、はしばらく考えた後、こくりと頷いた。
 曹操が笑み、今度は舌と歯で乳首を嬲る。空いた方も指で撫でさするのを忘れない。
 の腰がびくんと撥ねる。袁紹を見上げる目に不安が過ぎる。初めて知る快楽に戸惑っているのだろう。
 袁紹は苦渋を飲み込みながら、ただ一つ頷いて見せた。
 それだけで、の表情が安堵に和らぐ。
 脇から見ていた曹操が、の乳首に強く歯を立てた。
「ひ、あぁん!」
 仰け反るの手は、だがしっかりと袁紹に握り締められている。
「……本初さん、おしっこがでるとこが、何か変……」
 無邪気ゆえに淫靡な言葉に、曹操は笑い袁紹は眉を顰めた。
「ここか」
 曹操の指が伸び、の陰部を筋に沿って撫で回す。
 既に潤っていたそこは、曹操の指が動くたびに大きな水音を立てた。の肩がびくびくと震える。衝撃を感じるのか、歯を食いしばるの頬が上気し、潤んだ目と相まって艶やかだった。
「ここはな、これを嵌める為の穴よ」
 曹操が自ら猛りを露にし、に見せ付ける。
「腫れてるよ」
 びっくりしたが、思わず口走るのを曹操は愉快そうに笑った。
「おお、腫れておるな。これはな、お前のここに挿れないと治らぬのだ」
 きょとんとしたが袁紹を見上げる。本当? と尋ねているようだ。
 袁紹は答えられなかった。
「さ、挿れるぞ。儂を癒してくれ」
 先端を押し当て、ゆっくり侵入を開始する。が眉を顰めた。未通の痛みが、に襲い掛かっているのだろう。
 う、うと噛み締めた歯から声が漏れる。
 袁紹は、の手を離した。
 驚いたが袁紹を振り返る間もなく、袁紹はの体を背から抱きかかえ、が気持ち悦いと言った乳房へ優しく愛撫を始めた。
 は嬉しそうに袁紹を振り返ると、乳房を揉みしだく袁紹の手に自分の手を重ね、うっとりともたれかかった。
「あ、ん……んん……あ、あ……」
 曹操のもたらす衝撃は抑えようもないが、大きく開かされた足の間に曹操の猛りが沈んで行き、やがて根元まで収まった。
「……どうだ?」
 が眉を顰めて曹操を見上げる。
「……なんか、お尻の方がむずむずする……感じ……」
 そうか、と曹操が息を吐いた。
 腰に力を入れてみろ、と命じると、は眉を顰めたまま、ん、と歯を食いしばった。
 途端に曹操の腰が崩れかかり、苦い笑みを浮かべた。
「これはとんだ拾い物よ……未通の上でこの締まり具合……ふふ、袁紹よ、しっかり支えておれよ」
 言うなり曹操は力強くの腰を打ち付ける。
 堪えることを知らないは、袁紹の胸の中で泣き喚いた。
 ずるずると腰が落ちていくのを、曹操に叱咤された袁紹が慌てて支え引き摺り起こす。
「ふー、ふー……はぁ、ああん!」
 動きを止めると、が呼吸を整え曹操の肉棒に張り付いてくる。動けば脈動して曹操のものを小気味良く煽り立てる。
「あ、何か、何か、変……」
 袁紹の手にしっかと指を絡ませ、曹操の肉が蜜壺に出入りする様を見ながら、はうわ言のように口走った。
「……おしっこ、でちゃ……ああ、あっ……!」
 吹いた潮が曹操の下腹を汚し、濡らした。滴る感触に笑みを浮かべながら、曹操もの中に精を放った。

「お前がこのままこの地に留まるなら、見逃してやろう。だが、一歩でも外に出たらその首はないものと思え」
 曹操は手早く残滓を拭い取ると、侮蔑の笑みを浮かべて立ち去った。
 袁紹は、腕の中のを呆然と見下ろした。股間から漏れ出した白く濁った液に、破瓜の血が混じっているのがはっきりと見て取れた。
 も、袁紹の腕の中で、ぼんやりとそれを見ていた。
 ふと、が袁紹を仰ぎ見る。
「あの人、治った?」
 袁紹は何も言えない。また曹操に敗北を喫したのだ。領地に戻って再起を計ろうにも、偽装した死すら見破られ、居場所を突き止められてしまったのでは手も足も出ない。
 加えて、この馬鹿な下賎の女と共にあらねば生きていくことさえできない。
 袁紹の苦悩は深かった。
「本初さん、本初さんも治す?」
 ぎょっとして身を離そうとするのだが、の尻が袁紹の腰に押し付けられ、ぐりぐりとまさぐられる。
 固くなったエ物を刺激され、袁紹は思わず前屈みになった。
 は強引に袁紹の肉棒を引っ張り出すと、大まかな目星をつけて挿れようとする。だが、曹操の
放ったもので濡れて滑ってしまい、なかなか入らない。
「んー、あれぇ?」
 袁紹は、先端を掴まれ、挙句濡れそぼつ入口に刺激されて四肢を強張らせた。ここで屈してなるものか、と腰に力を入れるのだが、の中からとろとろと零れ落ちる残滓と蜜が、尚更袁紹を煽った。
「……あ、はいった」
 つぷん、と軽く先端が沈み、は一呼吸置いてからゆっくりと腰を沈める。
「ん、ん、ん……」
 徐々に袁紹のものが飲み込まれ、熱い襞に包まれる。
「ぬぅ、こ、これは……!」
 締め上げられ、袁紹は鼻から息を吹き出した。堪えられない。
 だが私も名門の端くれ、このような名器の一つや二つ、選ばれた血の純潔を持ってすれば……!
 袁紹が堪え、堪えきれると確信したその時、の中に全てが納まった。
「……本初さん、さっきより気持ちいいよ」
 堪えられない、というように呻くが、そんなことを言った。
「…………何。曹孟徳より、この袁本初のものの方が良いと、な?」
 がうん、と頷くと、袁紹を咥えこむ秘部を指差しながら囁いた。
「本初さんの腫れてるの、ここに挿れるとすっごく気持ちいい」
 袁紹の目がきらりと輝き、口元が優越感に満ちた笑みを浮かべる。
「ふふふ、やはりな! やはり、この名門袁家の血が、曹孟徳の穢れた血筋に劣るわけがない!」
 言うなりの腰を抱え、突き上げる。の口から悲鳴と嬌声が入り混じったものが迸り、合わせて袁紹のものを締め上げた。
 尻の柔肉が打ち付けられる音に濡れた音が重なり、外にまで響き渡った。

「おうおう、袁紹め、頑張りおるわ」
 曹操は呆れたように振り返り、馬に跨った。
「呆れるのはお前の方だ、孟徳。何故袁紹を殺さなかった」
 夏侯惇がいつもの調子で詰るのに、曹操は口の端を吊り上げて笑った。
「……奴は、既に二度死んでいる。官渡において敗れた日、配下の者に密告された今宵。もう気概も誇りも伝もなかろう。あるのは名門の血だけだ」
 だからこそ、それを絶たねばならぬのではないか。
 言い募る夏侯惇に、曹操は面倒だ、の一言で振り払う。
 あまりの言いように言葉を失う夏侯惇に、曹操はにやりと笑いかけた。
「初物の代金と、治療費と思えば安かろう。お前も治してもらえば良かったのだ。あの娘、なかなかの名医ぞ」
 何を馬鹿な、と苦々しく呟く夏侯惇に、曹操は笑いを抑えられない。
「さて、惇よ、儂は明日の出立に備えねばならぬのでな、先に帰って休ませて貰うぞ」
 言うなり鞭をくれて、曹操は馬を駆けさせた。
 何処までも勝手な従兄を、夏侯惇は口をへの字にさせながら追いかけた。


  終

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