「私をもらって下さい!」
 何が如何してそうなるのか、龐統には正直解りかねる。
 龐統は、己の顔体の醜さを自身ですら厭っていた。
 国を戦を司る才に掛けては生半な軍師風情に引けは取らぬと自負していたものの、この醜さでは才を活かせる主君に巡り会えることはなかろうと、隠遁生活に近い日々を過ごしていた。
 諸葛亮の引きがなければ、むざむざ山野に才を埋めて死んでいたかもしれない。
 このかけがえない幸運に、それ以上は望むべくもないと思っていた。
 ところがである。
 何処か別の世界から弾き飛ばされてきたと言うと出会い、龐統の生活は一変した。
 人と距離を置きがちで、それ故孤独だった龐統は、の明るい笑い声と気さくさに幾度救われたか知れない。
 誰かと向き合うのが楽しい、他愛もない世間話や与太話がこれ程愉快なのだと、改めて思い知らされた。
 続く幸運に、龐統は脅えてさえ居た。
 あまりにも幸せ過ぎる、これ以上は罰が当たるのではないかなどと、埒もない考えに囚われた。
 そんな折に、のこの発言である。
 龐統ならずとも目を点にして絶句しても、何らおかしくない。
 は、自分の発言が唐突だったとは思っていないようだ。
 と言うより、勢い込み過ぎてそんなことにも気が付けないでいるのだろう。
 いつも通りに夕食の後に茶を啜りながら、他愛もない話に花を咲かせていた。
 今日はバレンタインだという話になり、龐統が『ばれんたいんとは何ぞや』と水を向けた辺りから、の態度がおかしくなった。
 はきはきと明るく元気に喋る娘が、急に口篭りながら話すのを、龐統は変だと思えなかったのだ。
 女から男に告白するのは稀で、しかし『ばれんたいん』の日だけは、世間的に女から男に告白するのを奨励されるのだと言う。
 話の内容が色恋沙汰にまつわるものだから、さすがのも話し難いのだと勝手に納得していた。
 告白する時には『ちょこれいと』という菓子を渡すのが通例で、けれどここではとても手に入りそうにないと言った次の瞬間、『私をもらって下さい』と来た。
 どういうことかと考え込んで、すぐに答えは出たが、それでも納得できる類のものでは到底ない。
 自分ですら嫌なものを、人が好むとはとても思えなかったのだ。
 故に、龐統はが自分をからかっているのかと疑った。
 だが、身を乗り出すの表情からは、からかってやろうなどという不届きさは微塵も感じられない。
 龐統は困惑した。
「……お前さん、ねぇ」
「はい」
「……あっしを、からかってるのかい?」
 からかってなど居ないと確信しつつも、どうしても確認せずには居られなかった。
「…………」
 の見開いた眼が、みるみる内に曇る。
 傷つけた、これは本気だと分かっても、龐統の疑念は晴れてくれなかった。
「何で、あっしだね。お前さんだったら、もっと他に相手が居るだろうに」
「龐統様が好きなんです」
 ぱっきりと答える。
「龐統様が好きなんです、何でとか、そんなの私だって分かんないです。でも、私は、龐統様が好きなんです」
 の目から涙がぽたぽたと零れる。
 龐統の困惑は深まる一方で、その涙を拭ってやる余裕もない。
「好きったって、色々あるだろう……尊敬とか、師父に対してとか」
「そんなんじゃありません」
 は龐統を見詰めると、矢庭に立ち上がり身に纏っていた服を脱ぎ捨てた。
 あっという間に生まれたままの姿に戻ると、は龐統に縋りついた。
「好きです、龐統様。龐統様にエッチなことして欲しいって、ずっと考えてました……だから、お願いです」
「え、えっち?」
 最早言葉を訂正する余裕もないのか、は問い返す龐統を無視してしがみついて来る。
 ただの女とも思えぬ凄い力で、龐統は床に引き倒された。
「ま、待ちなよ、ちょっと落ち着きなって」
「嫌です、龐統様、私……!」
 の乳房に挟まれ、窒息しかけて目を白黒とさせる。
 このままでは、色んな意味でまずかった。

「……お前さんの気持ちは分かったよ。本当に、あっしでいいんだね?」
 龐統の言葉に、は目を輝かせた。
「はい……龐統様、はい……!」
 そんなに苦笑しながら、龐統は服を脱ぎ捨てた。
 の目の前に、龐統の肉槍が晒される。
「舐めて、大きくしてもらえるかい?」
 初めての経験に、はうろたえて龐統を振り仰ぐ。
 顔を覆う布は外してくれていなかったが、唯一覗く眼は優しく微笑んでいた。
 こく、と頷くと、恐る恐る舌を伸ばす。
 舌先で触れ、一度引っ込めはしたものの、今度はそのまま口に含んだ。
「……ん、固い……」
 これが自分の中に入るのかと想像しただけで、は蕩けるような心持ちがした。
 あれ程恋い慕った龐統と、遂に結ばれる日が来た。
 想像していなかったと言えば嘘になるが、まさか叶うとも思ってなかった。
 嬉しくて、涙が滲むのを堪えられない。
 龐統はに横たわるように告げると、不器用な仕草での体を撫で始めた。
 おずおずとした手の動きに間違いなく龐統が触れているのだと実感されて、体よりも心が強く感じてしまう。龐統が触れるだけで、蜜壺が潤っていくのを感じた。
「……龐統様、ごめんなさい。私、もう、我慢できません……」
 羞恥を堪えて強請ると、龐統はの足の間に回り込んだ。
「あ」
 くっと押し当てられる感触に、の体は緊張して強張る。
 押し込められる感触は、固く、細身であるせいか痛みは極わずかだった。
「あ、あ……ほ、龐統様……!」
 きゅっと締め上げる膣壁の動きを感じ、は眉を寄せた。
 龐統のものを締め付けていると考えるだけで、体の芯がぞくぞくして止まらなかった。
「あっ……龐統様、私……き、気持ち、いい……初めて、なのに……あっ……!」
 痛みよりも快楽が深い。
 龐統が相手だからかと考え、は強く感銘を覚えた。
「……あぁ、龐統様……お願いです、もっと強くして……!」
 は喘ぎ、龐統に恥ずかしげもなく請うた。

「あ、ぁん、んんっ……も、もっと……龐統、様ぁ……」
「…………」
 目の前で繰り広げられるの痴態に、龐統はどうしたものかと冷や汗を掻いた。
 牀に連れて行ってやりたいが、非力かつ術に精神を集中している今、下手な動きは取れない。
 は、龐統が繰り出した幻惑の術中に嵌められているとも知らぬまま、一人身悶え甘い声を上げ続けている。
 ゆらゆらと揺れる腰が龐統に向けて大きく開かれ、沸き立つ甘い香りに龐統の汗は引くことを知らない。
 自らの指を突き入れているは、もう一方の手で乳房を揉みしだいている。歪にたわむ乳房が、龐統を魅了して止まなかった。
 とんだ濡れ場の展開に、龐統の肉は限界まで反り返っている。きりきりと音を立てているかのようで、龐統としても切なくきつい。
 こんなことなら、始めからきちんと相手をしてやれば良かった。
 が本気だと信じ切れなかったせいで、自縄自縛の災難に遭ってしまっている。
 何処で術を解くべきか、また術を解いた後にどうやっての怒りをかわしなだめたら良いか、考えるだに頭が痛い。
 鳳雛と謳われた龐統でさえ、この難問には頭を抱えざるを得なかった。

  終

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