「ねーぇー! おーねーがーいー!!」
 けたたましい声が奥から聞こえてきて、錦帆族の猛者達は『またか』と苦笑した。
 彼らの敬愛する『お頭』が奇妙な格好をした娘を連れ帰ったのは、春の気配が漂い水が温み始めた頃だった。今はもう肌を切る冷たい風が川面を撫で始めている。
 最初は拾った犬か猫の扱いだった娘は、いつの間にか『お頭』の寵愛を受け、一人前の『情婦』となっていた。
 どうしつけているかは想像に任せるしかないが、一晩と置かずいたしているのを考えれば、『お頭』の寵愛の深さはかなりのものだと想像がつく。
 元来、女如きに夢中になる人ではないのだ。
 彼を滾らせるのは戦が紡ぐギリギリとした緊迫感のみだったはずだ。
 とは言え腑抜けているというわけでもないし、無意味にキレることも減ったから、どちらかと言えば有難い。いや、かなり有難かった。
 時々こうしておかしな叫び声を聞かされる羽目になるけれど、文句などあろうはずがない。

「お願いー、ねー、お願いー!」
「イーヤーダーっつってんだろ、いい加減諦めろ」
 甘寧はの手の中にある物を取り上げようと手を伸ばす。がさっと背中に隠してしまったので、勢いついででその胸乳を揉んでやった。
「ちょ、やだっ!」
 甘寧の手を弾くが、取り上げようとした物は頑固に背中に庇ったままだ。
 面倒臭げに胡坐をかいた甘寧の前で、はむっと頬を膨らます。
「……お前ぇは女だろうが。何で男の俺がお前ぇに犯されなきゃなんねぇんだよ」
「お頭の『イイ顔』が見たいから」
 きゃっ、と頬を染めるに、甘寧は呆れて頬杖をついた。
 が何処から買い求めたのかは知らないが、いきなり『張型』を持ち出してきたのには相当驚いた。自分の物では満足できないのかと腹だたしくなったのだが、事実はもっと救いようがなかった。
 は、その張型をなんと甘寧に挿れさせろと言い出したのだ。
 生い立ち柄、男とそういうことになったこともないではない。が、必要がなければもう真っ平御免とも思っていた。港に帰れば女が待っているわけだし、女がいるなら男で処理したいとも思わない。
 まして、突っ込むならまだしも突っ込ませろというのはどういう了見なのか。
「だって、お頭の『イイ顔』見たいんだもん」
「見りゃいいじゃねぇかよ、俺がイく時目ぇ開けてりゃいいだけだろ」
 甘寧が至極当然な提案を持ちかけると、はダメ、と大きく頭を振った。
「お頭がイく時なんて、私ワケがわかんなくなっちゃってるもん。ずっと目、瞑っちゃってるし。だから、ダメ」
「……口でしてる時は。あの時はお前ぇも目ぇ開けてっだろ」
「股間に張り付いてて、どうやってお頭の顔見ればいいのよ」
 そう言われればそうだ。
「手でしてたって、お頭すぐに口でしろって言って、頭、ぐいってするでしょ」
「口のが気持ちいーんだよ」
 じゃあ、やっぱり、挿れるしかない。
 会話が元の木阿弥になって、甘寧は仏頂面を隠そうともしない。
「俺のイく時の顔なんか見て、お前ぇに何の得があるってんだよ」
「人生の潤いになります」
 即答して返してくるので、呆れる他ない。
「ホラ、お頭が戦で居ない時とか、その顔オカズにして待ってるから。ね! ね!」
 どんぶり飯三杯イケます、等とわけのわからないことを言い出すに及び、甘寧の呆れは最高潮に達した。
「……じゃあ、戦があったらお前ぇも連れてってやる。それでいいだろうが」
「え」
 それは、と固まる。
「それは……何だよ」
「そ、それはだって、戦の昂揚で盛り上がるだけ盛り上がったお頭が、敵の返り血全身に浴びたまま私の服を無理矢理剥ぎ取って押し倒して三回犯してってことなんでしょ!? 私、血だけはダメなんだよー!」
 の想像力は突拍子もない。
 返り血云々はともかく、なんで『三回』なのか。
 一人で未だに喚き散らしているを前に、甘寧は絶対ぇ犯らせねぇ、元々犯らせるつもりはねぇけど、絶対ぇに犯らせねぇぞと腹を決めた。
 そもそも、男が女に犯されるなど男の沽券に関わる。大概のことは聞いてやっていたが(自身あまり物を欲しがる女ではなかったが)今回のこの件だけは聞いてやるわけにはいかない。
 さて、ではどうして黙らせるかと考えを巡らせる。
「……よし、そんなら犯らせてやってもいいぜ」
 甘寧が態度を軟化させると、は口を噤んだ。
「え、ホント?」
「ああ、ホントのホントだ。ただし、先にお前ぇのケツに突っ込んだら、な」
 また口を噤む。甘寧は面白そうに口の端を歪めた。
「……お頭、だって私、前立腺ないよ」
「何だ、そりゃ。お前ぇ、ケツに突っ込まれたことねぇだろ? じゃ、ホントに気持ちいいのかどうかなんてわかんねぇだろうが」
 試させろと四つん這いにじりじりと前に進むと、もまた手足を使ってじりじりと後退する。
「あ、いや、でもねっ、男の尻には前立腺をね、刺激するところがあって、そこを上手く刺激してやると射精に似た快感が走ってねっ」
「はぁーん、女の場合はどうなんだろうなあー」
「いや、だってお頭、汚いからっ! お尻なんだよ、お尻の、穴!」
「お前ぇは俺のどこに突っ込むつもりだったんだよ」
 焦るあまりに混乱しているのか、の言うことはどんどんワケがわからなくなっている。
 片手に握った張型で滑ったらしい。突然体勢を崩し背中から倒れたのをいいことに、甘寧はに圧し掛かった。
 転がる張型をリーチの差を生かして取り上げると、ぺろりと舐める。
「ひぁっ」
 自分が舐められたかのように頓狂な声を上げるに、甘寧は張型を舐めながら顔を近付ける。
 顔を真っ赤にして見上げるの目は潤んでおり、何もしていないというのにもじもじと膝を擦り上げていた。
「何だよ」
「う、だって、お頭エロい……」
 エロという言葉の意味はわからないが、張型を舐めているのがには刺激になるらしい。
 ちろちろと亀頭に当たる部分を小刻みに舐め、おもむろに口に含む。
 の目が熱く潤む。
 何だか阿呆臭くなって張型を口から出すと、擦り付けられた唾液が張型の表面を濡らして艶やかに照り返した。
 の股間に指を這わせると、溢れるほどにぐしょぐしょになっているのが知れた。
 舐めてやる必要もなかったか、と思いつつ張型を擦り付けてやると、の目が固く閉ざされ、代わりに唇からひっきりなしに声が漏れ出した。
 秘裂に納められた朱玉を擦ると、腰が跳ね上がりより高い声が漏れた。
 膣の中に沈めると、角度を変えて擦り上げる。は唇を噛み締めるが、声は留められることもなく漏れいずる。抑えられ掠れた声は、尚更甘寧の嗜虐心を煽った。
「んな小せぇのじゃ、満足できねぇよな?」
 薄っすらと開いた目が甘寧を映す。
 喘ぐ唇を噛み、微かに頷くのを見てたまらなくなった。
「よし、じゃあ、これはこっちだな」
「え、ちょ……」
 張型が十分濡れたのを確認して、の尻に押し付ける。がわずかに理性を取り戻し、抗おうとしたがもう遅い。
 弓形に跳ね上がる体を制し、少しずつ埋め込んでいく。
 涙に濡れた睫が細かに震える。
 端を残して完全に埋め込む頃には、は声も出せなくなっていた。
 甘寧は強張った足を宥めるように摩ると、の足の間に潜り込んだ。昂ぶりを取り出すと、既に天を仰ぐほどに成長していた。
 常のようにの中に埋め込もうと押し当てる。
「……う、キツ……」
 強張った体は甘寧の昂ぶりを拒む。慣れたはずの入り口は、初めての頃のように甘寧を受け入れようとはしてくれなかった。
 面倒ではあったが、新鮮でもあった。柔軟にしかし強く締め付けるようになったの中もいいが、たまには初心に帰るのも悪くはない。
 初めての時と同じように、腰を少しずつ押し込めては引き、引いては押し込めるのを繰り返した。
 緩む気配はなかったが、穿った分だけ進みやすくなるように思えた。
 亀頭を沈めると、後は急がず、ゆっくりと押し進めた。
「あ、あぁ、あ―――っ!」
 が涙を零し、痛みを覚えるのか必死に頭を振る。
「……おら、体捻っと、よけいに辛ぇぞ」
 肩を押さえ、正常位を取る。と、尻に埋め込んだ張型が当たり、角が刺さって痛みを感じた。
 甘寧は舌打ちし、仕方なく一度己を引き抜くと、埋め込んだ張型を抜き取った。
 緊張していたの体が弛緩し、床にぐったりと身を委ねた。
 緩んじまったかな、と鼻白みつつ再度侵入を試みる。
「……んっ?」
 滾った熱はそのまま、甘寧の物に絡みつくような膣壁に、甘寧の腰が砕けた。
 は常のまま目を固く閉じて甘寧を受け入れているが、明らかにいつもより反応がいい。動かずにいても、ひっきりなしに声が漏れてくる。
 後孔を抉ったことで、の中が過敏に反応するように変じたのかもしれない。
 甘寧は嬉しげに唇を舐めると、思う様腰を突き入れた。

「あっ、あぁん、ダメ、だめぇっ!」
 の声が響いてくる。
 酒場に居た錦帆族の半分ほどは、既に姿を消していた。大方娼館にでもしけこんでいるのだろう。
「……今日は、いつもより声が大きかねぇか」
「そうなぁ、お頭、何か新しい遊びでも試してんのかもしれねぇな」
 残っているのは、女の艶声などではびくともしない猛者か、娼館に行く金もない新兵ばかりだ。
 猛者の一人が新兵の卓の一つに皮袋を投げ込んだ。
「お前ぇらも、粗末なもんおっ勃ててねぇで遊んできな」
 わっと新兵が沸き立ち、口々に礼を述べて立ち去っていった。
「ずいぶん気前がいいじゃねぇか」
「なぁに、嬢ちゃんのイイ声をつまみにするにゃ、野郎どもの青臭い匂いは余分なんでな」
 違ぇねぇ、とどっと笑いが起こる。
「……あ、イッちゃ、イッ……」
 声が途切れ、静まり返る。自腹を切った男は黙って酒を注いだ。
「あっ! だ、だめぇ、も、無理……無理だってばっ……」
 二度目が始まったらしい、錦帆族の男は杯を抱えて立ち上がり、残った男達を睥睨した。
 その顔が突然にやりと笑み崩れる。
「さて、今日は何回だ?」
「俺は三回だ」
「俺ぁ、五回に賭けるね。今日の嬢ちゃんの声は、相当キてるぜ」
「だったら俺は二回に賭けるぜ。いくらお頭と言え、嬢ちゃんの締まりの良さには勝てねぇだろうよ」
「試したのかよ」
「試さなくったってわからぁ、何遍あの声聞いたと思ってんだこのクズが」
 戦以外には無関心な甘寧を滾らせるが来てから、錦帆族の男達には密かな楽しみが増えた。
 文句のあろうはずもない。


  終

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