「どうしても、無理ですか」
 潤んだ目で見上げるに対し、呂布はあくまでつれなかった。
 ふん、と鼻息一つを吹き掛けるのみで、に目もくれず踵を返して立ち去っていく。
 寄り添うように呂布に従う赤兎馬の尻が、貴族か大金持ちの娘然として見える。取り残されるは差し詰め貧乏所帯の古女房と言ったところか。
 生活苦に嫌気が差した男(呂布)が、若く美しく地位も財力も兼ね備えた女に走るのを見せ付けられているという場面が展開された。
「誰が古女房か!」
 ヒモどころか鉄条網くらい言ってやらねば釣り合わぬ、だいたい赤兎の尻がいかぬ、ああもこう、ぷりっとされては呂布に発情されてもおかしくない。
 一人ぶつぶつ呟きながら赤兎の尻をくいっくいっとなぞるの姿は、一種異様なものだった。
「……日増しに近寄り難くなられますな……」
「そのような惨いことを仰らないで下さい、殿もお疲れなのでしょうから」
 他人事のような顔をしている張遼と貂蝉に、の血走った眼が向けられる。
 微笑む非常識と馬駆ける非常識と吠え立てる非常識の三人組に、は何故か巻き込まれて旅をしている。
 旅路を共にするのは構わないとして、しかしやはり同行者は厳選するべきだろうと日々学習させていただいていた。
 あれとこれとそれに囲まれた旅は、唯一の常識人たるを甚く悩ませ、以前のを知る者であれば、の身に何事が起きたかと案じる程度に荒ませている。
「あんた方も、いいから何かいい案考えて下さいよ! こっちの食料は疾うに危機的状況迎えてるんですからっ!」
「まぁ、殿の食料が?」
――自分の分だけなら黙って買い足すわっ!!
 叫びたいところをぐっと我慢する。
 喚いて通じる相手なら苦労しない。そこの辺りの察知苦悩諦観の一通りは既に通過してきた。
「……全員分の、ですよ。貂蝉殿の分も、張遼殿の分も、呂布殿の分もありません」
「でしたら、殿の分を分けていただいて……」
――ねぇよっ!!
 『全員』の内訳に、は入れてもらえていないらしい。
 怒りの衝動を堪えて、黙って首を振る。
 ちょっと涙が飛び散った気もするが、たぶん貂蝉の目には映っていないだろう。
 映っていたとしても、せいぜい汗だと思われているに違いない。
 寝床で滂沱の涙を流して居た折、泣き濡れたの顔を見た貂蝉は、『汗っ掻きでいらっしゃいますか』と優しく手巾を差し出してくれたものだ。
 生憎は目から汗を流すような青春とは縁遠いもので、そんな貂蝉の誤解を解く程の元気はなく、まして喜んでみせる理由もはにかむ理由もなかったから、そのまま不貞寝決め込んだ。
「しかし、食料がないとなると少々厄介ですな」
 一見まともな意見だが、食料の残量がそろそろ危ないと言っていたのはもう十日近く前の話だ。武の鍛錬とやらに熱中していて聞いてなかったに違いない。
「如何致す、殿」
 そして、困ったことに特に意見がないのだ、張遼は。
 いい場合も悪い場合もあるが、考えるのは他の者、と決めて掛かっている節がある。
 後方支援に当たる補給線の維持など、己の考えるべきことではないと思っているのだろう。思っているかどうかも、そも怪しい。
「この村の方達に分けていただくしかないでしょう」
 うんざりした態で返答すると、貂蝉の顔が曇る。
「……ですが、罪もない民を苦しめるような振る舞いは心苦しいですわ」
 一見(中略)、買い取らせてもらおうとか交渉しようとかのところをすっ飛ばして、いきなり略奪は嫌だなどと言い出すのはどうなんだろう。
「如何いたしましょう、殿」
 そしてやはり意見がないのだ、貂蝉は。
 いい(中略)、そんなことを考えるのは自分の役割ではないと(後略)。
 正しい漢室の在り方、任務遂行の覚悟など、並大抵の女にはない論理思考を持ち合わせていることは間違いないが、その分どうも一般常識の類は損なってしまっているようだった。
「……うん、ですからね、何度も何度も何っ度も言ってるんですけど」
 まぁ、そんなに何度も、と貂蝉がすっとぼけた合いの手を入れてくるが、天然なんだから、私もいい加減オトナになろうぜ! と思って我慢する。
「……ともかく何度も言ってるんですが、この村、今夜は年に一度の祭らしいんですよ」
「祭」
 それは良い、と破顔する張遼にも、確か三回ぐらいは言って聞かせた筈だった。
 本当にどうでもいい部類の話に分類されているらしい。
 それは、張遼が飯も便所も必要でない人種であれば一向に構わないのだが、そんなことは決してないのだから、そろそろ何とか理解して下さいと拝み伏したくなる。
「……ともかく、この村の祭がちょっと変わってて。村に居合わせた人全員、仮装して夜を過ごすんだそうです。何でも、年に一度のこの夜に、悪霊が犠牲の人間を探しにやって来るらしいんですね。で、それに見つからないよう、仮装して誤魔化すんだそうで」
 犠牲が見つかれば悪霊は帰るが、犠牲を出した村は狩り場と見なされ、その後悪霊に支配されることになるらしい。流行病や災害が続き、村が滅びるという傍迷惑な言い伝えがあるとかで、内容はともかく皆真剣そのものだ。
「つまり、仮装しない人間は村人にとって、厄介者以外の何者でもない訳ですよ。そんなことになってごらんなさい、食料調達どころじゃなくなるから」
 分かりましたか、と念を押すに、張遼貂蝉共にこっくり頷いた。
「……ではつまり、いい案を出せとはどんな仮装にするべきか考えろということですかな」
 違います。
 は大きく、それこそよろける程に大きく首を振った。
「では、各自の支度を如何に整えるか、その御相談なのでしょう?」
 違います。
 は大きく首を振り過ぎて、危うく引っ繰り返るところだった。
 張遼と貂蝉は互いに顔を見合わせて、同時にを振り返る。
 その顔に、『では何を?』と疑問が書き記されて居るようだ。
「……あの図体でかいのに、どうにかして仮装させる手立てを考えろっつってんですよっ!!」
 の叫びには、魂の渇きを感じさせる痛々しさがあった。

 食糧に関しては、既にの方で交渉に及んでいる。
 その際出された回答は、村人は元より、祭の日にこの場所に来合わせた者は全員仮装をしなければならない・商いに関する話は、特に欲得が絡み易い為に悪霊を誘引しやすいので、すべては祭が終わってからの話とする、ということで交渉一切を止められていた。
 幸い今年の収穫はかなり豊かで、達に分け与える程度どうにでもなるといった様子だったから、条件さえこなせば何とかなりそうだ。
 ただ、あの呂布にこんな理屈が通用する訳もなく、実際に直接説得に当たったは、鼻息一つで軽くあしらわれている。
 この西方の地に在れば中原独特の装束が仮装と言えなくもないのだが、村長曰く常でない装束を纏わねばならないという掟があって、その手は端から禁じられた。如何にも着込んできた風な鎧を、常用の品ではないと誤魔化す術はない。
 幸い、張遼と貂蝉の二人は仮装を快諾してくれたが、最大の難関はやはり呂布である。
 図体ばかりでかくて中身はとびきり我儘な子供然としたあの男を、何とか口説き落として言うことを聞かせなくてはならない。
 落とさねば、それこそ文字通りにおまんまの食い上げというものだ。
 次の村までどれくらいの距離があるのか、考えただけでも頭が痛い。狩りで手に入れられる食料だけでは心許ないし、捕らえた獲物で保存食を作ろうにも、呂布の忍耐のなさを省みれば計画自体が破綻していた。
 が眉間に皺を刻んでいると、唯一無二たる呂布への対抗策が軽やかに駆け戻ってくる。
「どうでした!?」
「駄目でしたわ」
 あっさりにっこり、麗しい笑みを浮かべて断言する貂蝉に、はがっかりして肩を落とす。
「……ちゃんと、言ってくれたんですか。貂蝉殿が是非にと言われて女神の装束を借り受けたこととか、それを見たかったら仮装するしかないとか、仮装っつったってホントに、仮面被るとかでいいんだってことも、ちゃんときちんと余さず言ってもらえたんでしょうか」
「ええ、ちゃんと余さず申し上げました。村長の息子さんが鼻息を荒くして、是非にと勧めて下さったこともきちんとお伝えしましたわ」
――それ言っちゃ駄目じゃん。
 が頭を抱えるも、貂蝉はにこにこと微笑んでいるのみだ。
「奉先様は、祭の間は山中に潜まれているそうです。それで良かろう、と仰っておいででした」
 良くないから貂蝉に頼んでいたのだが、どうしても通じないらしい。
 一度でもこの村に足を踏み入れた以上、呂布もしっかり頭数に含まれてしまっている。あの図体にあの格好、赤兎という金看板のおまけ付きということもあって、そんな男最初から居ませんでした、で誤魔化せる存在ではない。
――これは駄目だ。
 も遂に投げ出した。食料は、道中何とかするしかない。
 村人達が呂布の存在を思い出す前に逃げ出そう。だが、今すぐ逃げては悪目立ち過ぎる。事が迷信呪いの類からくる話だったから、村人達は躍起になって追い掛けて来るだろう。
 自身の身の安全が絡む祭の決まり事は、嫌です駄目ですごめんなさいでは済ませようもない話なのだ。祭の妨害をしたとして村人達は達を恨むに違いないし、それを理由に呂布に暴れられても困る。
 知らなかったとはいえ、村を訪れてしまったのは昨日のことだ。温かい食事と一夜の宿を与えてくれた恩ある相手を傷付ける(こちらが傷付けられるのは考慮の埒外だ)ことは、どうにもの本意ではなかった。
 一番穏便に事を済ます為には、祭の最中を狙って夜逃げする外には考えられなかったのだった。

 祭が始まり、村の空気は一変する。
 辺鄙ではあっても穏やかで人の心和ませる風景は、夜の闇と揺れる炎の作る人影とで、黒く歪に染め上げられた。
 興奮した人々の顔もやはり歪で、仮装程度の話でなく、本当に村人達が悪霊に生まれ変わったとしか思えなくなる。
 これで呂布が居ない、仮装を拒んでいると知られれば、恐らく高揚した気持ちのまま軽はずみに襲い掛かってくるに違いない。
 仮装しない者即ち村に災いをもたらす者、言い換えれば憎き敵、抹殺すべき存在だ。
 呂布、張遼の武を併せても、惨劇になりかねない勢いがあった。
 怯え戸惑う村人相手ならば、逆に問題はなかったかもしれない。
 祭の熱気に逆上せ上がった人々に、強者を嗅ぎ分けそれに服従するだけの分別が残されているか、大層心許ない。下手に怪我をさせれば血の匂いに更に溺れないとも限らず、むしろその予感が当たる可能性が高い。
 どうしたものかと案じても、軍略など分かりようもないずぶの素人が思い付く由もなかった。
 は困り果て、出来る限り張遼と貂蝉の傍に居るしか出来なかった。一人では即座に八つ裂きにされるのがオチだ。呂布の相手は慣れられても、さすがに死の恐怖までは克服しようがない。
 時が経つに連れ祭は白熱して盛り上がって行き、火を囲んで踊り狂う人々の様は、狂人のそれとほとんど違いがなくなった。
 得体の知れない威圧感にじりじりと後退するの動きが、逆に人目を引き付ける結果を招く。
「旅の方、どうなされた」
 昨日達をもてなしてくれた村長が、汗みずくの顔を手の甲で拭いながら歩み寄ってくる。
 傍目には普通に見えても、酷く紅潮した頬や強い光を宿す眼の鋭さが、祭が始まる前の穏やかな表情とは比べるべくもない。
「え、えぇと」
 の背中を冷汗が伝う。
「……そう言えば、もうお一人、あの大きな方は」
 バレた。
 さっと青褪めるの耳に、つんざくような悲鳴が届く。
「な、何だあれは!」
「山の中に、光が!」
 村人達が口々に叫び、一斉にある方向を指差す。
 山の中程に浮かぶ小さな明かりは、揺らめいているところを見ると、恐らく炎のそれだろう。
 炎は、みるみる内に近付いてくる。
 木々の生い茂る中を駆け抜ける速度は尋常ではない、否、人知の及ぶものでない。
「崖の上に」
 掠れた声が漏れた途端、人々は一瞬にして静まり返った。
 月を背後に従えた黒い大きな影は、更に大きな丸い頭を持っていた。
 手にした刃は月光を弾き、冷たく鋭い光を零す。
 虚ろに開いた眼窩は薄暗く、村人達を睥睨している。
 はその影をぽかんとして見詰めるしかなかった。
「悪霊だ!!」
 誰とも付かない叫び声に、皆が金切り声を上げる。
「……皆の者、踊れ! 叫べ! ここには人の子は居らぬと分から知めよ! 薪をくべろ! 天まで焦がせ! 悪霊の子らよ、歓喜の声を上げるのだ!」
 即座に村長が村人達を怒鳴り付け、村人達は我に返ったように再び踊りの輪を作った。
 必死の形相で踊る様は、痛々しい程だった。
 数はわずかながら、踊りに加わらず端の方でぼんやりしていた若者達も、今や必死になって踊りに加わっている。
「我々も」
 村長が達を手招き、さっさと輪の中に戻って行く。
 未だぼんやりしているの耳に、張遼がひそと打ち明けた。
「あれは、呂布殿です」
――いやそれは分かってるよ。あれ、どう見ても赤兎じゃん。呂布とお揃いの、変なカボチャのお面なんか被ってるけどさ。
 吐き出したいのをぐっと堪える。
 今言っても詮ない話だ。
 踊りの輪の中に加わって、は投げ遣りに踊った。
 自棄だった。
 気が付いた時には、崖の上に居た『悪霊』は影も形もなくなっていた。

「いや、お陰様でどうも」
 上機嫌な村長から、持てる限りの食料を進呈された。
 呂布は相変わらず憮然として、張遼と貂蝉は慇懃に、は半ば放心しつつ受け取る。
 村長がこっそり話してくれたところによると、昔から続く祭のせいか、最近若い者を中心にどうも気が緩んでしまって、祭に参加しようとしない者が増えてきていたのだそうだ。悪霊なんか、こんな祭で防げる筈がないと嘯く始末で、生半な反論も説教も受け入れてもらえず、頭が痛かったのだという。
 有り得ぬ速度で移動する火の玉、悪霊もとい呂布の仮装があまりにも禍々しくて、祭が終わった後では祭に対する軽口悪口はぴたっと消えてなくなった。
 あの火の玉の速度は、一日千里を走る赤兎の脚と呂布の騎馬の腕に依るものだった。
 月が出ていたとは言え雲の多い夜のこと、薄明かりの視界の悪さに加え、呂布と赤兎の体躯の巨大さと威圧感が、村人達に悪霊の影を錯覚させたようだ。
 さすがに顔面を晒していてはあえなく露見の恐れもあった為、張遼力作のカボチャの面を貂蝉が届けて万全を期した。
 田舎暮らしの長い良心的な村人達は、大事な作物をまさかそのような奇態なことに使われるとは思いも寄らぬから、あっさり引っ掛かってくれたらしかった。
「分かれよ」
 ぼそっとが悪態を吐き、怪訝そうになる村長を貂蝉が軽くあしらった。
「ところで、あれなる悪霊には、何か名前が付いているのですかな」
 中原に原型となる悪霊でも居るのかと勘繰る村長には申し訳ないが、あれは張遼独自の感性で作り上げた逸品で、元となるものは何もない。
 確たる名前があればもっと真実味が出そうなのだが、と残念がる村長に、はぼんやりと浮かんだ名前を口にした。
「ジャックでいいんじゃないですか」
「ジャック? それではあんまり平凡過ぎやしませんか」
 悪霊なんて不確実なものに明確な形を付けるより、悪霊に魅入られてこの世を彷徨うしかない元人間のなれの果て、とした方が、より一層真実味があるのではないか。それならば、ありきたりな名前の方が真実味を増すし、より各々の身の上に重ね合わせやすかろう。それに、名前のないものに名前を付ける行為は本当にその存在を生み出すと伝えられて居て、不吉だと聞いている。
 思い付きも交えた極めて自分本位な意見ではあったが、の主張に村長は納得してくれたようで、ならばそうすると頷いてくれた。
 は内心、ほっとした。
 ここではない何処かへ行きたいと願っていたかつての自分が、妄想の中で思い描いていた『自分を連れ出してくれる存在』を称して『神』と呼んでいたこと、そう呼び名を定めて間もなく出会ったのが『鬼神』呂布であり、この不本意な旅に参じる元凶となったのだなど、当人達を前にして言えたものではない。
 村を出てしばらく行くと、それまで黙りこくっていた呂布が突然口を開いた。
「それで、約定の件はどうした」
 約定?
 が足を止めると、貂蝉がぱん、と手のひらを打ち合わせた。
「そうそう、そうでしたわね。では、後程休憩の時にでも」
 何の話か読み取れない。
 きょとんとしているの耳元に、張遼がひそと打ち明けた。
「貂蝉殿の一計で、殿に踊り子の衣装を着せる代わり、呂布殿にもカボチャを被っていただく旨、ご了承いただいたのです」
「……聞いてないんですが」
「言うのを忘れておりました」
 うふ、と照れ笑いを浮かべる貂蝉に、イヤ絶対わざと教えてくれなかったんだろうと確信する。
 もとい、内緒話に地獄耳立てんな。
 それにしても、呂布が自分のそんな格好を見たがるなんて、もしかして、ひょっとしてとは高鳴る胸を押さえた。
「これ以上お前に似つかわしい、道化た格好もなかろう」
 ふふん、と皮肉気に笑う呂布に、の淡い期待は粉々に打ち砕かれた。
――コンチクショウ。
 呂布は、自分にふざけた格好をさせるというならば、にはその上をいく道化た格好をさせるということで無理やり腹の虫を治めたらしい。
 貂蝉の説得にも応じないなんて、端からおかしいとは思っていたが、そんな裏取引を交わしていたとは思わなかった。
「騙しましたね!」
 吠えるも、貂蝉は涼しい顔をしている。
「騙すだなんて、そのような……私がいつ、殿を騙したと仰るのです」
「駄目だった、祭の間、呂布殿は山中に潜んでるって言ってたじゃないですかっ!」
 思い違いなどであろう筈がない。
 けれど、貂蝉が動じる様子はまったくなかった。
「私の仮装如きでは奉先様を祭にお誘いすることが出来なかった、と申し上げたまでですわ。それに、奉先様が祭に参加されず、少しの間崖の上から祭の様子をご覧になっていただけだったのは、殿もご覧になっていたでしょう?」
 嘘は一つも吐いて居りません、と典雅な笑みを添えて証する貂蝉に、は苦虫を噛み潰したような顔で答える。
 確かに嘘ではないかもしれない。
 しかし、あまりに理不尽に尽きる。
 泣く。
 にやにや笑っている呂布、ころころと笑う貂蝉、黙してむっつりと無表情を貫く張遼に背を向け、は先頭に立って馬を進めた。
 着いて来なけりゃいいのにと心の底から願う連中は、律儀にの後を着いて来る。
 耐え難きを耐え忍び難きを忍び、は今日も呂布様ご一行と旅を続けるのだった。

 後世、この時の話が元となり、『ジャック・ランタン』の伝説が生まれたとか生まれないとか。
 蛇足の話である。

  終

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