風呂から上がり、パジャマを着こんで戸を開ける。
すぐ台所に繋がって、開けっ放しの引き戸を挟んで八畳一間に繋がる。
重いだろうに、CDラジカセを肩に担ぎ上げて耳に押し当てている背中をが突付くと、飛び上がって驚く。
「お風呂、空きましたよ」
「あ、ああ」
まだ心臓が落ち着かないのか、胸元に手を当てている。CDラジカセを下ろすと、小さな音が微かに漏れる。低い男の歌声が耳に届き、思わず苦笑する。
特撮ものの第一人者として名高いいさお兄貴のベストCDは、の一番のお気に入りだったが、今ではもっぱら彼が聞いている。
狭いアパートだから、ヘッドフォンをつけて聞いてくれと言ったのだが、耳と頭が痛くなるからと言って、結局スピーカーの部分に耳を押し当てて聞くようになったのだ。
お馬鹿だなぁと思うと同時に、『私がついてなくちゃ』と思わせる不思議な人だった。
彼の名は、馬超という。字は孟起。は字で彼を呼んでいる。彼が名を名乗った時に、どう呼ぼうか考えていると、馬超の方から『孟起と呼んで欲しい』と請われた。だから、もそうすることにした。
馬超と言えば、三国志で名高い蜀の五虎将軍の一人。も詳しいと言うほどではなかったが、小説を読んでいたお陰で名前ぐらいは知っている。
もっとも、アパートの庭先で彼が『現れた』のを見た時は、酷く驚いたものだったが。
夕焼けの光が槍の穂先をきらきらと輝かせて、は思わず『錦馬超!』と口走った。
その声に驚いた馬超の手を引き、慌てて自分の部屋に引っ張り込んだ。何と言って説明したかはもう覚えていない。慌てていたし、混乱もしていたし、とにかく今言えるのは、馬超はの説明に何とか納得したらしく、の差し出した服を着て、の差し出す食事を摂る。
時々、体が鈍ると言う馬超に付き合って公園や土手を走ったりするが、彼の体力にはほとほと呆れさせられていた。自転車に乗っているが息が上がっていると言うのに、馬超は汗もほとんどかいていないのだ。
が家を空けている間も、馬超は一人で何がしか体を動かしているようだ。
何時か帰る日のためだろう、とは思う。何となく淋しい気もしたが、馬超はこの時代の人間ではないのだから、帰りたいと思うのも当然だ。
無事に帰ることができる日が来るといい、と思いつつ、は取り合えず布団を敷いた。八畳あるとは言え、家具の置き場所を差し引くと、どうしても布団はぴったりとくっつけざるを得ない。
最初は違和感があったが、かと言って何も知らない馬超を一人にするわけにもいかず、お互い無言の了承と言うことでなし崩しにこの配置になっている。
突然、がたた、と音がして、馬超が上半身を脱いだままで駆け込んできた。
「殿!」
「は、はい?」
上掛けをまくった半腰状態という情けない格好のまま、は馬超を振り返った。
「今日は、起きてて欲しい……すぐ上がるから」
馬超が風呂に入っている間、は布団に潜って先に寝てしまうことが多い。冷え性なので、風呂で温まったまま布団に入る。布団に入るとすぐ眠くなって、そのまま朝になるのが常だった。
「は、はぁ……」
生半可なの返事に満足したのか、馬超はそのまま風呂場に戻っていった。
呆然としていただったが、馬超の裸を間近で見たことに、今更ながら衝撃を受け、がっくりと突っ伏した。
男の裸など、家や学校で見慣れているはずなのだが、シチュエーションが違うせいか、心臓がばくばくしてきた。
異性を意識し始めたら、この同棲は続けていけない。
ふるふると頭を振って、小さな卓袱台を引っ張り出した。何か、相談事があるのかもしれない。お茶でも入れようと思ったのだが、相談事ならお酒の方が口が滑らかになっていいかもしれない。
冷蔵庫を開けて覗き込むと、ビールと焼酎缶が二三本入っていた。
がたた、とまた音がする。馬超が上がったのだろう。カラスの行水もいいところだが、が眠ってしまう前にと慌てて出てきたのだろう。普段はもっとゆっくり入っているようだから、これは馬超のに対する気遣いだ。
別にいいのにね、と思ったが、口元はついほころんでしまう。
ビールと焼酎、一本ずつ手に取り、部屋に戻った。
ちゃんと拭いていないのか、首筋の辺りから水滴が流れ落ちていく。
「そんなに慌てて出てこなくても……」
が何気なくぽろりと口にした言葉に、馬超は少し恥ずかしそうに頬を染めた。
照れ隠しのようにどすんと座り込み、案の定口篭る馬超に、やはり何か相談事があるのかとは首を傾げた。
「お酒、飲みます?」
どちらがいいか訊くと、馬超は迷って焼酎を指差した。プルトップを開けると、ぱしゅんと心地よい音がする。グラスに移し変え、馬超に手渡す。
炭酸はいまだ慣れないらしく、恐る恐る口にする馬超を見て、は何となく微笑ましくなった。
先ほど感じた恐怖感が和らいでいく。良かった、大丈夫そう……何が大丈夫なのかは自分でもよく分からなかったが、は安堵した。
つまみもなしで、ただちびちびと甘い酒を煽る。
グラスが空になり、馬超が卓袱台にグラスを置く。が酒を継ぎ足そうとすると、馬超がきっ、ときつい視線を向けてきた。
「え、口に合いませんでした?」
思いがけない視線のきつさにうろたえ、缶を置くと、その手をガスッと掴まれる。
何だ何だとうろたえていると、馬超がずいずいと顔を近付けてくる。
「殿は、俺を何だと思っているのだ」
何だ、何だって、何でしょう。
「え、と、孟起さん……は……」
突然のことに、の頭の中は真っ白になった。そう言われるとどう答えていいか非常に困る。
「男として、見ていただいているのだろうか」
はい?
疑問が顔に表れたのか、馬超の顔が赤く染まり、ついで歪む。
「やはり……おかしいと思った、寝台もこのように隣り合わせで、ひょっとしたらと思ったが」
項垂れてぶつぶつと呟いたかと思うと、の背中に馬超の手が回る。
腕の中に閉じこめられて、顔の距離は一段と近くなる。
可愛い可愛いと思っていた男が、急に見知らぬ人のように怖くなる。
「あ、あわ、だ、だめっ! 駄目駄目駄目!」
焦って腕を振り、馬超の手の中から逃れようとするが、当然ながら体力腕力とも馬超には敵わない。
が勝手に『了承済み』にしていたことは、実は馬超には何一つ伝わっていなかったことが先ほど理解できた。日本の家屋事情など、馬超に察しろと言うのが無理難題だったのかもしれない。
まして、『男と女の間でも友情が成立する』等と言うのは、男女が平等だと定められた近代の話であって、二千年近く昔の人間にわずか数ヶ月で理解しろと言うのが酷だった。
そこら辺は理解したが、だからと言って許容できるものでもない。
「……何が、駄目なのか」
馬超の押し殺した声が、危機感を煽る。
「いや、あの、だから、だからね」
何と言ってもは、
「まだ、あの、そういうこと、したことないしね」
処女だった。
何となく男と(もちろん女とも)付き合うこともなく、この年まできた。男友達がいないわけでもないし、男性恐怖症と言うわけでもなかったので、本当に『何となく』と言うしかなかった。
それまでずいずいと体を押し進めていた馬超の動きがぴたりと止まり、あわや押し倒される寸前だったは、ほっと一息をついた。
馬超はすくっと立ち上がり、電灯の紐を二回引き、灯りを消した。
は声を失くして固まった。
馬超の体が黒い塊に見える。塊は、を押しつぶすように降ってきた。
馬超の背は高い。こうして覆い被さられて、改めては実感した。
ついでに言えば、重い。
鍛えて筋肉がついているからだろう、膝をついているようだが、それでも固い胸板に押されて、胸の辺りが痛い。
更についでに言えば、馬超の荒い呼吸が耳の辺りに当たってくすぐったい。
せめて、これだけでも何とかならないかと身動ぎすると、腿の辺りに何か固いゴムのような感触のものがある。
よせばいいのに、つい足を動かして確認してしまう。と、馬超が小さく呻いて、ようやくもはっと思い当たった。
―ぎゃーっ!!―
は胸の内で吼えた。色気もくそもないが、色気のある状況になる前に行為が先立ったのだから、としては状況にも行為にも着いて行けてない。
パニックを起こした頭が、まったく違うことを考えてしまうという話は本当なんだな、とはそんなことを考え始めた。
引き戻したのは、馬超の舌だった。
「あ、やっ……」
耳の中に濡れた感触が押し入って、凹凸にそって舐め上げる。
嬲られる感覚より、鼓膜を直接震わすような音に感じて、背筋がぞくぞくと震えた。
「ちょっ、ちょっと……」
まずい、と体を捻って逃れようとするが、馬超は体の重さを利用して、他愛なくを押さえつけてしまう。
「んっ……んん、ふっ……」
知らぬ内に唇を噛み締め、馬超の肩に縋る。
背筋に走る悪寒は止まらず、足でシーツを引っ掻くようにもがくが、馬超の舌は止まらない。
「あ、ぅん、んー……っ……」
急に、の体から力が抜けた。
こてん、と手首がシーツの上で一瞬はねて、そのまま落ちた。全身が赤く染まり、細かに震えている。
馬超は身を起こし、のパジャマのボタンを外す。
胸の辺りに浮いた汗が冷え、の意識を取り戻す。
「や……ちょっ、もう……」
恥ずかしさも手伝って、またじたばたと暴れだすに焦れたか、馬超はパジャマのズボンに手を突っ込んだ。
間近にある馬超の顔がにやりと歪み、の動きを縫い止めた。
馬超の指がなぞるように上下し、小さな濡れた音を立てた。
とんとん、と軽くノックするように叩かれて、の体がびくびくと引き攣る。
「……お漏らしみたいだな」
あまりと言えばあまりな感想に、は涙を浮かべて唇を噛む。尻まで濡れた感触に、否定もできない。
馬超が下着ごとズボンに手をかける。
慌てて抑えようとするが、指を弾いて勢い良く下ろされてしまった。
父親以外に見せたことのない股間が晒される。
言いようのない情けなさと恥ずかしさに、涙が浮かんでくる。
直接指が触れてくる。ぬるぬると滑っていく指が、不意にくいっと曲がっての中に入り込もうとする。
「痛っ……」
痛いというほど痛みはない。自分でも触れたことのない場所に指が押し入ってきたショックで、つい口走ってしまった。
だが、の言葉に馬超の指が止まる。
暗闇に慣れたの目に、馬超の心配そうな顔が映る。
「……痛いか」
どう答えたものか、は逡巡して、結局素直に答える。
「……わかんない」
馬超の顔が下がってきて、は何となく目を閉じた。唇に柔らかい感触があって、キスされたと分かった。
ああ、昔の人でもキスするんだー、とはぼんやりと考えた。
腕を回すと、合図されたとでも思ったのか、馬超の舌が差し込まれ、緩やかにの口の中を探った。
どうしていいか分からなくて、は馬超の為すがままになった。
不思議と体が熱くなる。
馬超の唇が離れると、は大きく呼吸した。やや小振りの胸が揺れて、それを見た馬超の手が伸びる。下から持ち上げるようにゆっくりと揉みしだかれ、先端の朱を指で押し潰されると、思わず声が漏れた。
馬超の顔が嬉しそうに緩むのを見て、恥ずかしくなった。
「挿れていいか」
小声で囁かれる。
「ゆっくり、するから」
今更そんなこと言わなくてもいいのに、と、また恥ずかしくなる。
うん、と頷くと、馬超が膝立ちになって、着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。
先ほど見たばかりだが、やはり恥ずかしい。ふと、自分もほぼ裸にされていることに気がついた。慌てて前身をかきあわせると、視線がちょうど下に下がって、馬超の昂ぶりが晒される瞬間を目の当たりにした。
「………………」
馬超が脱いだものを脇に押しやり、視線をに戻すと、真っ赤になって固まっていた。
何事かと手を伸ばして髪に触れようとすると、びく、とはねた。
「無理」
「何が」
懺悔のように囁かれた言葉に、馬超は思わず即反応してしまう。
「入らない」
「何が」
訳が分からない。
の視線を追って、自分のモノに辿り着き、何が『入らない』のか理解した。
「む、無理、無理だよそんなのっ……入らない、絶対無理っ!」
這いずって逃げ出そうとするのを押さえつけ、馬超はに馬乗りになった。
経験がないからと言えばそれまでだが、大事なものを”そんなの”呼ばわりされては、馬超も内心面白くない。
「……うるさくすると、まずいのではなかったか」
「う」
かつての自身の言葉に、パニックを起こしていたの抵抗が止む。
ここぞとばかりに、馬超は己の猛りを、の蕾に押し当てた。
「ぁう、ん……」
熱い感触に、の背筋にぴりぴりと電流が走り、潤いが更に増す。筋に沿って上下する先端に、は小さく声を漏らし続けた。
「」
薄っすらと目を開けると、馬超が覗き込んでくる。
「限界だ」
ずるいなぁ、顔のいい男は。
ついさっきまで『殿』と呼んでたくせに、いきなり呼び捨てだ。
そんな風に切羽詰った顔をされたら、しょうがないなと言う気になってくる。こんなかっこいい男に望まれて、嫌と言える女は凄いと思う。
「……入るかな」
「入る」
「……ホントに?」
「入る」
何の根拠があってか分からないが、馬超の言葉は簡潔で飾り気もない。
「あっ……」
馬超の腰が揺れ、僅かに先端が押し入った。
「すまん……痛かったか」
馬超も無意識だったらしく、慌てた風に腰を引き、を覗き込む。
当のは、顔を真っ赤にして俯いている。
「……痛……くない……けど……」
「けれど?」
「…………」
気持ちよかったとは、さすがに言えない。初めてじゃないと疑われたらどうしよう、という不安がわいた。初めては痛い、というのがの常識だったし、馬超もそう思うから気遣ってくれるのだろう。
戸惑っているをしばらく見つめていた馬超が、そっとの頬を撫でる。
「痛かったら、言え」
再び、馬超の先端がの蕾に押し当てられる。
体を強張らせて待っていると、馬超の手が背中に回り、優しく撫でてくれた。
少しずつ馬超の昂ぶりが進入してくる。痛みよりも心地よさが先行して、は拍子抜けするようなほっとしたような複雑な心境だった。
なんだ、余裕だぁと力を抜いた瞬間、激痛がを襲った。
まるで、筋とか腱などで出来た肉を引き裂かれるようなぶちぶちと鈍く弾けるような痛みだった。
「いっ……痛、痛い……孟起!」
痛みを与えているだろう馬超に向かって訴えるが、馬超は無言のまま腰を進める。
「……痛い……痛いってば……」
の声は小さい。痛過ぎて、大声を出せないのだ。涙がぼろぼろと落ちていく。痛みに耐えがたくなって、唇を噛み締めたところでようやく馬超が動きを止めた。
血管がどくんどくんと脈打っている。それでも、馬超が動きを止めたお陰で、引き千切られるような痛みは止まった。
荒く呼吸することで、繋がったところから響く痛みを逃す。
「大丈夫か?」
そう思うなら抜いてくれないかと思うのだが、だんだんと痛みに慣れてきた。と言うより、痺れてきた感じだ。
痛いのは痛かったが、これで一応処女喪失の儀式は終わりだと思うと、気が楽になった。
「」
「……ん?」
「続けるぞ」
「……はい?」
馬超がぐいっと腰を押し進めてくる。途端、またぶつん、と何かが千切れるような感触と、痛みが戻ってきた。
「いった、痛いっ!」
足をじたばたさせたいが、動かしたら余計に痛くなりそうでそれも叶わない。膝で馬超の腰をぐぐっと押さえつけるが、馬超の動きを妨げることさえ出来ない。
「痛い、痛いってば、ねぇ」
「もう少しだから、我慢しろ」
自分が痛くないからって、その言い方は何だとが半泣きで訴えると、馬超は唸るように鼻を鳴らし、の耳元に囁いた。
「俺とて、我慢している。我慢しろ」
触れた馬超の裸の胸が、汗でびっしょり濡れているのに気付いて、もようやく押し黙った。
男も痛いのか、と思うと、不思議な気がした。じゃあ、我慢しよう、と思った。
そうして黙ると、馬超のモノが進入してくるのに合わせて濡れた音と馬超の荒い呼気が耳に響き、妙にいやらしく聞こえる。
ぞくぞくして、痛みが少し気にならなくなった。現金だとも思ったが、痛いよりは痛くないほうがいいに決まってる。
しばらくして馬超の動きが止まり、深く溜息をつく。
「……入っ……た?」
「入った」
何となく、先ほどより馬超が近づいている気がする。大股開かされた上に、覆い被さられているという恥ずかしい姿は見ないことにした。特に、繋がっているところは恐ろしくて見る気もしない。
困ったことに、止まれば止まったでずきんずきんと痛みが響く。
「」
「……ん……?」
「動いていいか」
ちょっと待て、痛いんじゃないか、それは。
動かない今も痛いので、一瞬判断に迷う。口の中が粘ついて、声が出遅れたのもいけなかったとは思う。
の返事を待たないまま、馬超が動き出した。
「いっ……!!」
荒いやすりで柔らかい内壁をこそがれるような痛みが走った。
「痛、痛い……!」
体ごとぶつかってくるので、内臓が押されて息することも苦しくなってしまう。
「ふっ、はぁ、はうぅ……孟、起……」
閉じた目に大小の光が眩く輝いて、気が遠くなる。
馬超の呼気はますます荒く、激しく弾み、の体をぎゅうっと抱き込める。
何処か遠くでAVみたいな喘ぎ声が聞こえる、とぼんやり思った瞬間、
「いくぞ」
かすれた馬超の声が聞こえた。熱く上擦った声は、ぞくぞくするほど鼓膜に心地よい。もっと聞きたくて、ただ頷いた。馬超の呻くような声と、腰の律動が熱を増す。
待てよ、とが我に返った瞬間、体の中に熱いものが注ぎ込まれるのを知覚した。
「ぬっ……抜いてよ、馬鹿ぁ!」
「何で」
いいから抜け、嫌だを繰り返している。夜中だということで、二人とも律儀に小声だ。
「うー、うー、オギノ式って、どう計算するんだっけ」
「何だ、それは」
を腕に収め、素っ気無いながらも何処か満足げな馬超に、の怒りに火がついた。
「もう、もう、こんなことするかフツー!」
「こんなこととは何だ。俺がを抱いたことか」
馬超の言葉が終わるか終わらないかのうちに、はぎゃぁと呻きながら馬超の口を押さえる。
まだ繋がっているというのに、いい加減諦めの悪い女だな、と馬超は呆れていた。
抱え直して体勢を変えると、が赤くなって馬超を仰ぎ見る。不安そうな眼差しが、馬超の嗜虐心をくすぐった。
煽られて、黙っていられるような我慢強さは俺にはないぞ、と馬超は胸のうちで笑った。
「……三月以上、女を抱いてなかったからな」
暗に第二回戦の開始を宣言されて、が喚こうとするのを素早く塞ぐ。
の中で、既に馬超の猛りは勢いを取り戻している。
言いたいことは山ほどあったが、馬超がの言葉に耳を傾けてくれるのには、まだ当分時間が掛かりそうだった。
終