ハロウィンの準備は全て万端整った。
子供達が訪れていい印として、その屋敷の門や室の前に南瓜のランタンを置くことになっている。
そのランタンには既に灯りを点してあった。
は、今や遅しと子供達の来訪を待ちかねている。
今回の祭は、が切り出した他愛のないおしゃべりから始まった。
それだけに、出来得る限りは協力したいと寝る間を惜しんで準備に明け暮れた。
衣装作りに参加したり、子供達が移動する際に安全を確保できるようにその経路に頭を悩ませたり、一つ一つ上げていけばきりがない程だ。
念入りに準備をしてきただけに、の今日に掛ける意気込みは並大抵ではない。
声を潜め、近付いてくるだろう足音に耳を澄ませる。
やがて、足音が一つ近付いてきた。
必ず複数で移動するようにと約束していた筈なのだが、どうもおかしい。
ややもして、合言葉もなく扉を開ける者があった。
趙雲だった。
「何だ、趙雲か」
あからさまにがっかりとした様子のに、趙雲の視線は冷たい。
「何だとは何だ、自分の情人を捕まえて」
と趙雲は付き合っている仲だ。
ただし、『情人』という言葉にはどうにも馴染めない。
顔に出るのへ、またも趙雲の冷たい視線が突き刺さった。
「情人を放っておいた挙げ句、久し振りに見せる顔がそれか」
言われてみれば確かにあんまりなので、は無言で頬を抓る。
趙雲は視線を和らげることなくを見詰めていたが、最終的に諦めたらしく、深々溜息吐いて椅子に腰を下ろした。
その表情は冴えない。
少なくとも、恋人の前で見せるような顔ではなかった。
の胸が痛みを訴える。
趙雲との馴れ初めは、がこの世界に落ちてきたのを助けてもらったことに始まる。
紆余曲折あって付き合うことになったのだが、ここに至るまでもまた苦難続きだった。
誤解、すれ違い、意地の張り合い、等々……今となっては良い思い出だが、二度と繰り返したいとは思わない。
の気持ちは、時を経て強固になっている。
今、趙雲を失うことなど到底考えられなかった。
意固地は元からの性格だったが、素直にならなければいけないと自身を叱り付ける。
おずおずと趙雲の傍らに立つと、そっと手を伸ばす。
肩に触れた手を取り、趙雲は自らの頬に寄せた。
趙雲の熱が、手のひらを通して伝わってくる。
心地よい。
頬に触れていた手は、唇に移動していた。
手のひらに柔らかく湿った吐息が触れる。
押し付けられ、這うように動く唇がの手のひらの形をなぞっていった。
の背筋にむずがゆいものが走る。
心臓が刻む鼓動は徐々に早くなり、そこから流れ出す血液が沸騰しているのが分かる。
「ちょ……趙雲……」
子供達がくるかも知れない。
しかし、のすげないあしらいに気落ちした趙雲を見てしまった直後では、むげな扱いなどしようもない。
が拒絶できないでいるのをいいことに、趙雲は更に好き勝手を始めた。
這わせていた唇を割り、今度は舌を這わせ始めたのだ。
「……っ!」
さすがに堪え切れず身を捩るが、趙雲はしっかりとの手を掴んで離そうとしない。
元より腕力の差がある上に、両手で抱え込まれては押し退けようもなかった。
舌での蹂躙に飽きたか、趙雲はの指をくわえる。
音を立てて吸い上げ、舐めしゃぶっていた。
伏し目の趙雲の睫が長くて濃いのを、は新鮮な驚きを以て見下ろす。
趙雲が自ら進んでしていることとはいえ、しゃぶられている自分の指がまるで本当の肉茎に変じたような気がする。
絡み付く唾液は愛液のようだ。
息苦しさからではあろうが、趙雲の頬がうっすら紅潮しているのが分かる。
自分が趙雲を犯しているような錯覚に、の体は高ぶっていく。
縋り付きたい。
このまま趙雲押し倒して、服を剥いで、唇と指先でその体を貪り尽くして、全てを飲み尽くし、そして滅茶苦茶にされたい。
妄執の醸す熱に犯され、の意識は白く染まっていく。
と。
ざわ、ざわ。
遠くから人の話し声と足音が近付いてくる。
はっとして手を引こうとするも、趙雲はやはり離してくれない。
外から声が掛けられる。
「とりっ、あ、とりー!」
舌っ足らずな可愛らしい声達が、合い言葉を一斉に叫ぶ。
答えなければと身構えるも、絶妙の間を計って趙雲の舌が敏感な指の股を舐める。
声が出せない。
出したところで、ろくでもない声になるに違いない。
「……返事、ないね」
「どうしたのかな?」
子供達のいぶかしがる声が、返事をもらえずがっかりしている声が、一斉にを責める。
居るのは居る、居るんだけどと趙雲を見遣るが、趙雲は素知らぬ顔での手を嬲り続けている。
返事するどころか、あられもない声を聞かれないよう必死に口を閉ざすので精一杯だった。
「あ、何だ」
突然、何事かに気付いたような声が上がる。
「……あ、ほんとだ。南瓜、灯り点いてないよ」
ホントだ、本当だね、何だ、なぁんだと口々に言いながら、子供達は去っていく。
徐々に遠くなる足音と気配にほっとしながらも、どうも腑に落ちない。
待ち受ける人に緊急の用が出来た場合(例えば生理現象など)に備えて、ランタンに灯りが点いていないのはお菓子を配れない印としてある。
しかし、は確実にランタンに灯を点した覚えがある。
南瓜の中に仕込まれた蝋燭の灯りが、強風に煽られた訳でもないのに早々消えるとも思えない。
であれば、南瓜の灯りが消える由もなく、よって子供達が去るいわれもないのである。
子供達が言った言葉が本当だとするならば、何者かがに気付かれぬよう、故意に蝋燭を消してしまったのだ。
は、最も怪しい被疑者に目を向ける。
「……とりっくおあとりーと、とは、いたずらか菓子か、という意味だったな」
素知らぬ振りでのうのうと質問してくる趙雲に、は呆れるより他ない。
どう考えても、の意識を逸らそうとしての悪あがきだろう。
「そうだけど、それが何なの」
睨め付ける眼の力だけは抜かないように、顔を強張らせる。
しかし、だ。
「私は、菓子ではなくを得たい。を得る為にはどう言ったらいい?」
実にしれっと言われたもので、虚を突かれて赤面してしまう。
顔の熱に浮かされ、返す言葉が見付からない。
趙雲は、ただの言葉を待っている。
「……もーっ!」
勢い良く飛び付いてきたを、趙雲は満面の笑みで抱き止めた。
「良いか?」
何と言う卑怯な男だ。
いいも悪いも、先程の遣り取りで既に火は付けられている。
「……すぐ、終わらせてよ」
一応首謀者の身の上で、祭りをすっぽかすことは許されない。と、思う。
「それは、次第だな」
手慣れた様子での服の裾をたくし上げ、下着を外して向かい合う。
膝に乗せられる前にちらりと見えた趙雲のものは、天を仰いでを待っていた。
見慣れてはいるものの、未だに慣れることはない。
羞恥に頬を染めながら趙雲の誘導に従って膝に上がる。
大きく開かされた足の間に、熱く凝った肉が触れた。
腰が引けるのを、趙雲が引き戻す。
「祭りが終わってしまうぞ」
最早、脅迫と変わらない。
舌打ちを堪えて息を詰め、趙雲のものを呑み込んだ。
「う、んっ……!」
濡れてはいるが慣らされては居らず、よって未だ緩み切っていなかった膣口は、なかなか趙雲を受け入れられない。
「早く」
急かしながらも情欲に火照っているらしい趙雲の目に、は飢えに似た感覚に苛まれる。
「趙雲、お願い……」
強請る声にも趙雲は澄まし顔だ。
自分とて辛いだろうに、と、は苛立ちを隠し切れない。
「お願いだから、手伝ってって」
「何を?」
あくまで空惚ける趙雲に、は身を捩る。
その反動で、趙雲の肉が抜け落ちた。
けれど、はその上に腰を落とし、細かに揺すり上げる。
濡れた肉に撫で回される感触に、趙雲は思わず唸った。
「……」
咎めるように背を叩くが、は固く目を閉じて趙雲を拒む。
「私、は、これでも、いいもん」
小さく善がる声が、趙雲の耳に吹き込まれる。
趙雲は、己の負けを認めざるを得なかった。
縋りつくの体を引き剥がし、再度その秘肉に己の肉を押し当てる。
片手で得物を支えながら、空いた片手での腰を落とさせると、の体は痙攣しながら趙雲の肉を呑み込んでいく。
挿れられるところまで挿れると、互いの体が馴染むのを待つようにを抱き寄せた。
痙攣は未だ続いている。
「……辛いか、」
首を横に振って答えるが、涙も共に飛び散って趙雲の頬を濡らす。
「辛いのではないか」
重ねて問うと、は趙雲の首にしがみ付いてきた。
収めた肉が擦れ、艶やかな声が上がる。
荒い息を抑え、はぼそぼそと呟く。
「……気持ち、良くて、おかしくなる……」
趙雲がくすりと笑い、その振動がを責める。
馴染んで我慢が出来なくなったのか、の腰は既に揺らめき始めていた。
出し抜けに趙雲が動く。
ガタガタと、椅子が壊れるのではないかと思う程激しく揺れる。
「あっ、やっ……!」
突き上げられて、堪え切れずに声を漏らす。
快楽以前に、落下の恐怖に駆られて趙雲にしがみ付けば、趙雲はそのままの体を抱いて立ち上がる。
凄絶な膂力に感心する暇もなく、は深くなる結合がもたらす悦に溺れそうになる。
「趙雲、すごい、すごい……!」
何を言いたいかも分からなくなって、甘い睦言が涎と共に零れる。
そんなを見て、趙雲は満面の笑みを浮かべた。
「」
ひそ、と囁き掛ける。
「閂は、掛けていない」
一気に現実に引き戻され、は正気に戻る。
しかし、正気に返ったを趙雲は再び責め上げた。
「バッ……!」
快楽に溺れているどころではない、先程は何とかなったが、もしも南瓜の灯りに気付かぬまま戸を開けられでもしたら、今度こそ最後だ。
分かっているだろうに、趙雲は攻めの手を休めず、どころか、更に熱心にをいたぶり弄り回す。
「今日は、一段と、キツい……人目があった方が、好きなのか?」
笑いながらとんでもないことを抜かす趙雲を、は詰ることも出来ぬまま翻弄されていた。
万聖節の前日に、どういうことだ。
これが済んだ暁には、五虎将軍に相応しい立ち居振る舞いというものを分からせるべく、きっちり正座させて説教してやるなどと、如何にも実現不能なことを考えるのだった。
終
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