老いてなお盛んというのは、まさしく黄忠の為にある言葉であろう。
 先日、副官に任じたばかりのともわりない仲になって、傍目には絶好調の黄忠であったが、実は密かに悩んでいることがあった。



「如何なさったのですか、漢升さま」
 二人きり、閨の中で睦みあっていたのだが、黄忠の手が突然止まった。
 不思議に思ったが、固く閉じていた目を開け様子を伺う。
 灯り一つない暗闇の中で、黄忠の相貌は確かではないが、暗く沈んでいることは分かる。
「漢升さま?」
 脱ぎ捨てた上着を拾い上げ、胸元を隠しながらは身を起こす。
 そんなを嫌ってか、黄忠は身を離す。の胸をずくんと貫く痛みが走った。
「漢升さま……」
 年が離れている為か、他愛無い言葉や仕草に不安になってしまう。黄忠が望み、が望まれ身を委ねた形になっていたが、ベタ惚れしているのはむしろの方だ。
 隣室に下がっていた黄忠が、灯りを手に戻ってきた。
 指先や顔などには皺が浮いていたが、体はむしろ若々しく、未だ張りを残している。
 黄忠の胸に抱かれる幸福を思って、は数瞬ぼんやりとしていたが、慌てて身繕いをする。
 寝台の上で畏まるに、黄忠は苦笑をする。卓に灯りを置いて、の前まで戻ってきた。
「のう、
「はい、黄将軍」
 呼び方ですら改めて、緊張した様子のの手を取り、安心させるようにとんとんと手を叩く。
「……儂も、もう年じゃ」
「そんな!」
 驚きの余り立ち上がろうとするを制し、黄忠は話を続けた。
「妻も子もない儂が、お主のような優秀な配下を得、閨の世話までしてもらっておる……儂は、幸せ者じゃぁ」
 そんな、と恥ずかしがるに微笑みかけた黄忠だったが、不意にその顔が曇る。
「だが、のう、儂ももう年じゃ……お主を満足させるのも一苦労になってしもた」
「そ……」
「だからと言って、儂は、他の男にお主を渡す気は毛頭ない……お主に惚れておるでな」
 の顔が真っ赤に染まる。項垂れた首筋まで真っ赤になっているのが見て取れた。小さく、はい、と呟く唇がぬらぬらと紅い。
「そこで、じゃ……これを、使いたいのじゃが……」
 黄忠が取り出したものを、はしばらくまじまじと見つめた。白っぽい、黄忠の手から少しはみ出すほどの棒状のものは、先端がやや大きく膨らんでいる。
「……嫌っ」
 が声を上げて後退った。
 男性器を模ったおもちゃだと、やっと気がついたのだ。恥ずかしさで顔が火のように
熱い。黄忠は、情けないような、申し訳ないような苦い笑みを浮かべた。
「……やはり、のう……すまなんだなぁ」
 あからさまに落胆した黄忠の声に、もはっとして我に返る。
「か、漢升さま」
「いや、いいんじゃ、すまなかったのう……今宵のことは忘れてくれ」
 は肩を落とした黄忠の背に縋る。
 何ということを言ってしまったのだろう。黄忠は、自分に気遣ってくれたのではないか。
 そう思うと、はいたたまれない。
「わ、私はそんな……」
 黄忠がそばに居て、抱きしめてくれればそれで良いのだ。
 だが、とは考える。これはの理屈で、黄忠にとってみれば違うのかもしれない。黄忠は黄忠なりに考え、恥を忍んで申し出てくれたのかもしれなかった。
「漢升さま」
「いいんじゃ、だが……今宵はもう、休むとするかのう」
 苦いものを飲み込んで、耐えている風な黄忠の横顔に、は我を忘れて飛びついた。
「漢升さま!」
 黄忠の体を押し倒し、自ら唇を合わせて吸い上げる。
「……漢升さま……だ……」
「だ?」
 首を傾げる黄忠が見上げた先で、潤んだ瞳が睫を震わせている。
「…………抱いてください…………」
 黄忠が驚いて言葉をなくすのに、はこの上もない恥ずかしさに苛まれた。

「漢升さま……」
 犬のように四つん這いになる恥ずかしさに、は落ち着きなく背後の黄忠を振り返る。
「何じゃ、お主がこの方が良いと言ったのじゃぞ……しっかし、いい眺めじゃのう」
 からかい混じりの黄忠に、の体がふるふると震える。涙を浮かべて羞恥に耐える様が安易に思い浮かぶ。
 誘われるように、黄忠の指がの秘部に触れた。
 すっかり濡れて、迎える準備の出来ていたそこは、苦もなく黄忠の指を飲み込んでいく。
「ぅ、ふぅ、あぁ……」
 慣れているはずのそこは、黄忠の指を切なげに締め上げる。宥めるように挿入を繰り返すと、の喘ぎ声が立て続けに零れた。
「いいようじゃな、……?」
 指を止めずにを覗き込むと、こくこくと強請るように頷く。
 いつもなら、ここで黄忠自身がを犯すのだが、黄忠は先ほど見せたおもちゃを取り出す。
「これを、挿れるぞい」
 目の当たりにしたの動きが一瞬止まるが、黄忠と目が合うと、恥じらいながらも頷いた。
 ぐい、と押し当てると、の尻がびくんと跳ね上がる。
「冷た……漢升さま、あ、あ……」
 じりじりと埋め込んでいくと、の声が徐々に大きくなる。
「あ、あ、ぁんんっ……冷、た、……きつ、い、ですっ……!」
 体を支える腕が折れ、肩で支えると、口と鼻が半ば塞がれて呼吸がし辛くなる。
 頭の中の酸素が薄くなり、理性すら痺れて我を失っていく。黒髪が白い敷布の上に散り、様々にうねった。
「気に入ったようじゃの、
 黄忠の指が髪を撫で掬っていくたびに、体に力が入っておもちゃを締め上げる。黄忠がおもちゃを揺り動かし、狭くなった内壁を引っ掻き回される感触には呻いた。
「うく、う、うぅ……い、や、いやぁ……」
 濡れた音がますます大きくなり、の体が痙攣するようにびくびくと跳ねた。
「ああ、あ、だめ、だめぇ!」
 顔を敷き布に埋め、啼き喚く。一際甲高い声を上げて、は達した。
 力が抜け、くて、と敷き布に崩れ落ちるを支え、黄忠は再びおもちゃを前後に揺する。
 感度良く反応するは、黄忠に縋るのが精一杯で、声を抑えることも出来なくなっていた。
「あ、も、漢升さ、ま、もう……あぁ……」
 黄忠の手管は老いの熟練を感じさせ、を巧みに追い詰める。
 おもちゃの動きに併せて乳房を揉みしだき、指の股で尖った先を挟み込むと、の眦から感極まった涙が零れ散った。
「漢、升さま、お願い……ですから!」
 悲鳴染みたの声にも関わらず、黄忠はの唇の端を吸い上げ、ねっとりと舌を這わせた。
 おもちゃから手を離し、両の手で乳房を揉むと、が可愛らしく反応してくる。
 舌先で先端の尖りを嬲り、力を込めて握ると、悲鳴が上がる。が、すぐに蕩けるような甘い喘ぎ声に変化したのは、またおもちゃを締め上げてしまい、中のいいところを擦った
からだろう。
は可愛らしいのぅ」
 好々爺の如き笑顔の下で、は汗に塗れた身を捩って悦に焼かれる。
「漢、升さま、お願い……」
 ひくひくと体を痙攣させながら、なおも黄忠に許しを強請るに、黄忠は知らぬ顔で愛撫を続ける。
 滑らかな皮膚を撫でていた手が、するりとの秘所に滑り込むと、充血した小さな珠を弾く。
「ひぁっ、あ!」
「良い声で啼く、のう
「いや、そこ、いやあぁ!」
 黄忠の指で挟まれ、扱くように揉まれては涙を散らせる。
「いやか、ずいぶん気持ちよさそうに見えるがのう」
 執拗に弄繰り回す黄忠の指に、は気が触れたかのようにがくがくと身を震わせる。
「儂はの、。子はおらぬが、お主のことは、まるで孫のように可愛く思うでな。儂を、『おじいちゃん』と呼んではくれぬかの」
 微かな理性を駆使して、は首を横に振る。黄忠が何をしたいのか分からない。ただ、そのような呼び方が許されるわけがないと、は頑なに拒んだ。
「良いじゃろぅ、。な、呼んでくれ、な、な」
 おもちゃでいっぱいになった縁を、黄忠の指がくにくにと弄繰り回す。
 いや、いやとうわ言のように繰り返すは、自分でも何に対して嫌と言っているのか分からなくなってきた。
、呼んでくれ。孫の為なら、儂ぁ、何でもくれてやろうと思うぞ」
 黄忠の指が尻穴に滑り落ちる。は、体を浮かすほど跳ね上がり、黄忠の指から逃れようと身をくねらす。逃げても引き戻される体、追い詰める指は敏感な秘部を弄繰り続ける。
「いや、いやぁ、もっ…………おじぃ、ちゃ……」
 耐え切れず、が『おじいちゃん』と口走った。黄忠の笑みが深くなる。
「何じゃ、。どうして欲しい? 爺が、何でもくれてやるぞ」
 胡坐をかいた上に跨いで座らされ、は黄忠に飛びついた。
「おじいちゃん、欲しい、おじいちゃんのが、欲しい!」
 自ら腰を揺さぶるは、黄忠の股間に僅かに出ているおもちゃを押し付ける。
「……これが欲しいか、
 黄忠が肉棒を取り出すと、既にはちきれんばかりに膨れ上がっていた。先端から透明な雫を零し、鎌首をもたげるそれにがむしゃぶりつく。
 技も何もない、獣が渇いた喉を潤すかのように、ぴちゃぴちゃと舌を鳴らして啜るに、黄忠は満足げに頷いた。
「だが、の中には、もう入っておるじゃろう」
「いや!」
 言うが早いか、は黄忠の目の前でおもちゃを引き抜きに掛かる。内壁が絡みつくのか、喘ぎ声が大きくなった。
「ん、あああ、あん……く、う……」
 じゅぷ、と濡れた音をたてておもちゃが引き抜かれ、栓が抜けたようにの足の間はびしょびしょに濡れていた。
 自ら引き抜いた衝撃で腰砕けに砕けただったが、黄忠が力の抜けた足を肩に担ぎ上げ、の体に覆い被さると、艶やかに笑んで黄忠に腕を伸ばした。
 口付けている間に黄忠の亀頭がの蕾に触れる。
「……っ、はあぁ……」
 背を反らすと、の乳房が黄忠の目の前に曝け出され、黄忠は飴玉をしゃぶるように舌を動かし舐め上げる。
「ぅん、は……早く……漢升さま……」
 焦らされたと取ったのか、が急かす言葉を口にする。
「違うじゃろう、
 入り口に押し当てているくせに、挿入せずに黄忠はを伺う。
「のぅ?」
「…………ぁ…………」
 黄忠の筋張った四肢の下で、艶やかに汗を弾く白い肌がくねる。
 のろのろと、剣を握るとは思えない細い指が下腹部に伸び、秘部を割り黄忠に向けて鮮やかな朱色の肉を晒す。
「お、おじいちゃん……ここに……下さい……」
は、礼儀正しい孫じゃなぁ」
 くつくつと笑う黄忠に、はかぁっと赤くなって俯く。その視線の先で、猛々しい黄忠の肉棒が今まさに己に侵入せんとしているのが見えた。
「あっ……」
 ぐちゅ、という生々しい音と共に、黄忠がの中を犯していく。
「ぁん、あ、熱いぃ……あっ、あ……」
 亀頭が潜り込むと同時にずるりと根元まで押し込む。の背が美しく弓形に反った。
 瞑った瞼、長い睫が細かに震え、呼吸も短く荒く吐かれる。熱は高まるばかりで、は身悶える。
 黄忠自身は身動ぎ一つしていないのに、黄忠のモノは生き物のようにの内で跳ね上がる。
 そのたびにの体も跳ね上がり、黄忠のモノを刺激した。
「あ、あ、や……おじいちゃん、おじいちゃん!」
 の足が黄忠の肩で撥ねる。ゆらゆらと腰が揺れ、求める快楽を生み出そうとするが、
到底足りずには震えた。
 眦から涙を零すに、年甲斐もなく苛めすぎたかと苦笑いをする。
「よし、よし、今、の欲しいものをくれてやろう……」
 突然激しく突きこまれ、の喉から細い悲鳴が上がる。
「はぁぁ、あ、あぁ、いい、いいよぉ、おじいちゃ……」
 淫らな声を上げ、乱れるを組み敷き、蹂躙する。
 縋るの爪が、黄忠の背中に細い傷をつけた。

 の中に全て注ぎ込みながら、黄忠は満足して深い溜息をついた。
 腕の中では気を失いかけたが、汗みずくになって悦に震えている。
 いつものなら、『頼むから中には出してくれるな』と頑なに拒むのだが、今宵はそれどころではなかったらしい。
 力を失った黄忠の肉棒に、いまだ離れがたしとばかりに吸い付いてくる内壁の感触を味わいながら、黄忠は最近の悩みがすっきりと消え失せたのを感じていた。
 真面目すぎるは、閨の中でも真面目かつお堅くて、若い頃から遊び慣れた黄忠には少々物足りない。
 それを言葉巧みに淫らに貶め、性交の深みにはめてやった充実感は、まったく、敵を策略にのせ、さんざ打ち負かしてやった時の快楽にも負けず劣らず、堪えられない。
 さて、次はどうしてを狂わせてやろうか。黄忠は密かに舌なめずりしていた。


  終

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