趙雲が屋敷に戻ると、は体調を崩して室に篭もっていると報告を受けた。
 食欲もなく食事を摂らないのだと聞いて、趙雲は家人を下がらせの室に向かった。

 の室は暗く、灯りの一つも点されてはいなかった。
 完全に近い闇の中、趙雲は蹴躓くこともなく進む。
 牀の上に上掛けを被る小山を見出し、趙雲は微笑した。

 返答はない。
 趙雲は気にするでもなく牀の縁に腰掛け、を見下ろす。
 眠ってはいないことは、気配で察することが出来た。
 布越しに、強烈にこちらを意識している気配に、趙雲はある種の優越感を覚える。
 出会ったその日から愛しいと感じ、守ってきた女だった。
 その女から意識されることは、かつて知る由もなかった快楽を趙雲に与えてくれる。
、出掛けなかったのか」
 今日という日は、の住んでいた国で行われていた祭の日に当たる。
 詳しくは覚えていないが、親しい者に菓子を贈ったり、感謝の言葉を簡易に記した手紙を贈る日であるらしい。
 も、この日の為にと昨日まで菓子作りに勤しんでいた筈だった。
 材料がないとかで、が作りたがっていた菓子は作れないらしいが、それでもその代わりにすると珍しい焼き菓子を作ることには成功していた。
 趙雲も味見に付き合った。
 変わった味だったが、軽い歯触りとほのかな甘みが美味だった。
「届けに行くのだと言っていただろうに」
 趙雲目掛けて上掛けが投げ付けられる。
「どんな顔して行って来いって言うのよっ!」
 泣き腫らした目が赤く、眉は吊り上がって鬼のような形相をしていた。
 趙雲は動じもしない。
「どんな……と言っても。常の通り、普通に行けばいいだろう?」
 あまりの変わりのなさに、の方が怯んだ。
 が怯む理由は何もない。
 にも関わらず、気圧されているのはの方だった。
「……行ける訳、ないでしょう」
 脅えた犬が唸り声を上げるように、低く、小さく殺気の篭もる声に、しかし趙雲は優しく微笑むだけだった。
「何故?」
 の目が見開かれる。
 目に見えぬ刃で切り裂かれたような、悲痛な表情だった。
 趙雲は、ただ、微笑む。
「私に犯されたからか?」
「子龍」
 の唇が震える。
 やめてくれと言っている。
 それ以上言わないで、お願いだからと無言の内に懇願している。
 その願いを、趙雲は容易く打ち砕く。
「好きでもない私に処女で抱かれて、よがり狂ったことを恥じているのか? 私は嬉しかったのだが。痛みもそれ程ではなかったようだし、快楽に濡れるお前の姿は私から見ても美しかった。身も世もなく私に縋ってくれて、自ら腰を」
「やめて!!」
 悲痛な叫びだった。
 ずたずたに切り裂かれた傷口に、指を突き込んで更に裂こうとするような趙雲に、は鮮血の代わりに涙を落とす。
 言葉に直した懇願を受け、今度こそ趙雲は口を閉ざした。
 けれど、怯んで、またはばつが悪くなって黙したのでないことは、その微笑が如実に示していた。
 の気持ちは他にあり、趙雲にはなかった。
 元の世界からこの地へ飛ばされ、趙雲に救われた恩義は確かにある。
 それでも、が恋に落ちたのは、別の相手だった。
 趙雲の優しさの意味に気付けぬまま、想い慕う相手のことを相談した愚鈍さはの罪であったかもしれない。
 だが、その罪をして贖う罰と言うには、あまりに惨い仕打ちと言わざるを得なかった。
 沈黙の中、のすすり泣く声だけが響く。
 趙雲は不意に、胸元から小さな小瓶を取り出した。
 闇に目が慣れたには見て取れたものか、その体がぎくりと強張る。
「今日は、甘いものを口にする日。そうだったな、
 歌うように、何処か愉しげにさえ聞こえる口振りで趙雲は微笑んでいる。
 の体が自然に逃げを打つ。
 気付かれぬよう、少しずつ後退るの体を、趙雲が見逃すことはなかった。
 掴み上げられ、悲鳴を上げるのも構わず、趙雲はの口元に封を開けた小瓶を突き込む。
 拒まれ零れた液体が、の顔の線を辿って胸元を汚した。
 趙雲の武を極めた剛力の前に、非力なが敵うべくもない。
 無理矢理こじ開けられた口元に、小瓶は逆さに煽られる。
 かなりの量の液体がの喉奥に流し込まれ、その強烈な甘味と勢いには牀の上で転がり咽た。
「どれ」
 苦しげに咳き込んでいるにも関わらず、趙雲はを捕らえて口付けた。
 もがき苦しむの歯が、趙雲の柔い唇の肉を切り裂いても気にも留めない。
 眦から涙が珠となって零れ落ちる頃、の体に変化が訪れた。
 体中から汗が滲み、吐息は熱く短く弾む。
 震える体をくねらせ、声なき悲鳴を上げてもがいていた。
「効いてきたようだな」
 無慈悲な声が、を追い詰める。
 涙目で睨め付ける目の前に、趙雲は猛々しい『凶器』を差し出した。
「欲しいか、
 は唇を噛み締め、敷布を掴んでじっと堪えている。
 趙雲は笑いながら、その口元に亀頭を押し付けた。
 びくりと震えると同時に、険しいの表情に淫蕩の影が過る。
「私以外に、お前にこれを与えて遣れる者は居ないぞ。どうする。自分で慰めるのであれば、それでも私は構わないが」
 指などで足りる訳がないと、趙雲は言外に滲ませた。
 自身も、それは重々承知している。
 男を知らぬ身であったにも関わらず、昨夜も同じ小瓶の中身を飲み下し、同じように体を焼いた。
 破瓜の痛みなど絵空事も同然で、すぐに与えられる熱の固さに狂わされた。
 あれ程凄まじい快楽を、は知らない。
 強烈に焼き付けられた感覚が、最早に逃れる術がない事実を突き付けていた。
 それでも、という思いがある。
 それでも、こんな遣り方には従えない、こんなことをする趙雲には負けたくないという矜持が、の抵抗を支えてくれていた。
 余裕のないには、それが却って趙雲を悦ばせているのだということに気が付けない。
 の目の前で、趙雲は己の得物を扱き始めた。
「あ……」
 熱り勃つ肉が更に獰猛な姿に変化するのを、は目と鼻の先で見せ付けられる。
 これが、こうしての中で暴れているのだと、想像が脳裏を横切っただけで目が眩んだ。

 先走りの露を指先に乗せ、の唇に押し当てる。
 嫌悪して顔を背けるに、趙雲は執拗だった。
「そら」
 唇の中に捻じ込むと、噛み締められた歯列に当たる。
 塗り付けるようになぞると、震えていた歯がわずかに動いた。
 ちろ、と舌が触れる。
 趙雲の笑みが深くなった。
 指を引き抜くと、すぐさまの体を押し倒す。
 の抵抗はなきに等しかった。
 押し広げた足の間に視線を注ぐだけで、の体はびくびくと跳ねた。
 茫洋とした目に、既に生気はない。
「お前を、私の虜にしよう。私なしには生きられないよう、私のことしか考えられぬようにしてやろう」
 返事はない。
 趙雲は気にするでもなくを見下ろす。
 気を失っていないことは、気配で察することが出来た。
 目を逸らしていても強烈にこちらを意識している気配に、趙雲はある種の優越感を覚える。
「挿れるぞ」
 亀頭を秘穴に押し当てると、の口元に陰惨な歓喜の笑みが浮かんだ。
「お前は、私のものだ」
 一気に奥まで突き込み、間髪居れずに腰を揺すると、は大きく、大きく頷いた。

  終

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