引かないでいただきたいんですけども、とやたらと念押しされ、その度に凌統が頷く。
何度か同じ遣り取りをした後、ようやくが切り出した。
「口で致したいんですけども」
何を言い出すやら。
凌統が下帯を緩めると、は失礼しますと言って凌統の牀に上がってきた。
「あんたは脱がないのか」
「口だもの」
敬語とタメ語が入り混じるの口調は、凌統との複雑な関係を物語っているようだ。
は、凌統の忠実な副官でもあり、その愛人でもあり恋人でもある。
副官と言う立場はその能力故に与えられた身分、愛人と言う立場は凌統軍に於ける凌統専属の情婦として、恋人と言う立場はそれでも二人が愛し合っているという事実から導き出されている呼称だった。
呉国の中でも譜代で知られた凌家と、寒村の出自たるの家では釣り合いも取れない。
それで、二人は面倒を生じかねない婚姻については、暗黙の了解の内に黙殺してしまっている。
互いに戦場に立つ身であるから、婚姻などしても翌日喪に服す羽目になるとも知れない。この大勢の下でのんびり喪になど服せるかという考えでも一致していた。
互いに気が合うこともあり、普段の付き合いはかなりざっくばらんで気兼ねない。
それでいながら、という女は配下という立場を重んじる傾向が強いようで、口調の統一感のなさといったらなかった。
気性は文字に出るの顔形に出るのいう話があるが、の場合は口に出るような気がする。
差し出された肉を両手でそっと押し頂くと、は唇をわずかに開き、吸い込むように肉を飲み込んだ。
ちゅる、という高い音を、凌統は確かに耳にした。
こそばゆい思いがして赤面する。
探るように舌が表面を舐めていく。
と思えば、突然鈴口に舌が突きこまれた。狭い穴のこと、舌が入り込む余地などある訳がない。
しかし、は舌を尖らせ飽くことなく丹念に攻める。
「……うっ……」
ぞくぞくとして腰が戦慄く。奥から熱がせり上がってくる感覚があり、不意にの口が離れた。
押さえ込まれていたのを、自由を取り返したと歓喜するようにそそり勃つ肉は、醜く青筋まで浮かび上がって苦笑を誘った。
唾液と先走りの汁で濡れたそれは、聞き分けなくびくびくと跳ね上がっている。
早く続きをしろと言わんばかりで、凌統は、我が分身ながらそのあまりの我慢のなさには呆れ返らざるを得ない。
もっとも、はそんな肉の駄々こねを愛おしげに見詰めるだけで、何らの不満はないらしい。
すぐに機嫌を取るように唇を寄せ、その先端を柔らかく食んだ。
根元から先端へ、また根元へと舌を這わせると、双玉の間からその奥へと舌を這わせる。
尻の穴まで舌を這わせることに、は何の抵抗も見せなかった。
本来誰にも触れさせない場所を舌で弄られ、凌統の声が小さく上がる。
「ここ、気持ち悦い、です?」
舐めながら、くぐもった声でが尋ねてくる。
「気持ち悦いっつか……そんなとこまで舐めてくれるってのが、気分いい」
あんたもだろ、と付け足すと、も素直に頷いて返す。
色気のないことこの上ないが、二人の性に関する考え方もまた、概ね同じようなものだった。ざっくばらんで、飾り気ない。気持ち悦ければそれで良かろうというような、大雑把さがあった。
「前にされた時、変な風に気持ち悦い感じがしたから……いつかして差し上げようって、思ってたんです」
の舌は、後孔に掛かりきりになった。
肉には指が絡められているが、凌統としては、どちらかと言うと口の中に納めていただいた方が有難い。
「うっ」
凌統が眉を顰めた。
の舌は再び尖り、今度は凌統の後孔を突付き始めた。
「……何、してんだっつの」
「ん……だって、私も……入れてみたい……」
言葉通り、柔らかに滑る舌が固く閉じられた菊門を執拗に突付いている。
呆れた。
「入る訳ないだろ」
「そ、かもしれませんけど……じゃあ、指、入れてもいい?」
「駄目」
即座に却下すると、は残念そうに顔を上げた。
「気持ち悦くなって欲しいのに」
凌統は身を起こすと、の首筋に顔を埋める。
秘裂へと指を伸ばすと、小さく唸って拒絶されてしまった。
「何で。気持ち悦くさせたいんだろ」
「させたいけど、でも、今日は口でしたいんです」
凌統の肩を押して元の姿勢に戻すと、は凌統の股間へと顔を埋める。
再び温く湿った感触に包まれ、じわじわとした不穏のような悦が湧き上がった。
「俺はいいけど」
両手と口で熱心に奉仕を続けるを見下ろし、凌統は疑問を口にした。
「あんた、それでいいのか」
これでは、気持ち悦くなれるのは凌統の方だけだろう。凌統の疑問は当然で、にとってはむしろ痛み入るばかりの気遣いだ。
「ひひんれふ」
「わかんないっつの」
は凌統の肉を一度吐き出し、舌を這わせながら繰り返す。
「いいんです、……口で、……したい、ん、から」
話す間も惜しいのか、の舌はひたすら熱心に凌統の肉を舐めしゃぶる。
変わった女だな、という印象がまた強まった。
女の方が交合の際に感じる快楽は強いのだと聞いたことがある。口での奉仕はあくまでその前提で、見返りなしにしたくなるものだとは思えない。
「挿れたくないのか?」
凌統の問いに、は舌を動かすのを止めた。
「挿れたくない訳じゃなくて、今日はホントに、公績様のどろどろが飲みたいだけ」
「……飲みたいもんか、あんなもの」
己の出したものを見たことはあるが、の言う通りにどろどろとして生臭い、到底飲みたいと思えるものではなかった。凌統としては汚物の類とまるで変わらない。
「美味しい訳じゃないけど……何て言うか、時々無性にそういうことあって。顔に出して欲しいとか、先っちょで体撫で回して欲しいとか。今日は、飲みたいって思ったの」
はぁん、と凌統はやる気なさげな声を出す。
「してやろうか」
「今度ね」
話している間も指で愛撫を続けていた肉を、は口に含み吸い上げる。
屈んだ姿勢の為に高く上がった尻が揺れているのが見えた。
「舐めてんのに、気持ち悦い訳?」
「悦いよ」
あっさりと肯定され、凌統は鼻白む。
「そんなもんかね」
「私はね」
熱心に吸い付く朱色の唇と鮮紅色の舌を見下ろす。
ふと思い付き、の肩を叩いた。
何事かと顔を上げるの手を引き、牀を降りた。床に膝立ちさせ、の頭の側面を手で押さえる。
ぐっと腰を突き出すと、は凌統のしようとしていることを敏く感じ取った。
「……いい?」
こく、と頷くと、はおとなしく凌統の肉の先端を咥える。
「いくぞ」
言うなり、の口中に腰を突き入れる。
膣に突き込むような遠慮ないえげつさに、の喉から細い悲鳴が漏れる。
それでもは凌統を突き飛ばさず、それどころか凌統の服に縋るようにして自らの体を固定した。
喉奥まで突かれ、苦しいだろうにと思った瞬間、凌統の肉が大きく引き攣れた。
「……ぅ、あ、イく、イ、あっ……っ……」
天を仰ぎ、眉根を強く引き寄せる。
凌統の尻が痙攣するように震え、押し出される粘液が耳障りな音を上げた。
飲みきれない粘液がの唇の端から溢れ、糸を引く。
が崩れ落ちるように腰を落とすと、力が抜け切った肉がどちゃっと間の抜けた音を立てた。
達してすぐ、凌統は荒い息を吐きつつもを観察し始めた。
目の焦点が合っていない。
頬の紅潮は呼吸がままならなかったせいもあろうが、体は細かに痙攣している。
舌がぬらりと唇を割り、飲み切れなかった精を名残惜しげに舐め取った。
届かないと見るや、震える指が零れた精を掬い取り、口の中へと運ぶ。
ぺちゃぺちゃと濡れた音が響いた。
「……達った?」
凌統の問い掛けに、は惑いもせずに頷いた。
証拠とばかりに裾を絡げ、秘部を晒す。
下着越しだというのに、緩い粘液が腿の付け根まで濡らしていた。
「何で達けちゃうのかねぇ、舐めて、突っ込まれただけで」
苦しさを快楽に変えて達する女が居るとは聞くが、がその手合いとも思えない。
は呼吸を無理矢理整え、唾を飲み込む。
「……分かんないけど、公績様に色んなことされたいし、したいって思ってて。それで、ホントにされて……ここが、すごく熱くなって気持ち悦くなっちゃって……達っちゃった」
濡れた秘裂を指で示すに、凌統の視線もそこに注がれる。
下着がしとどに濡れ、盛り上がった肉の形をぴったり添って浮き上がらせていた。
凌統は勢いよく立ち上がると、の手を引き牀に引き摺り上げる。
唐突な行為には目を瞬かせた。
「え、私、もう」
目的は果たされた。
もういいと凌統の手を押さえたの手を、更に凌統の手が押さえる。
「俺も、なんだよ」
ほら、と目を向けられ、も凌統の視線の先へと目を向ける。
晒したままの凌統の肉は、とっくに力を取り戻し剛健に反っていた。
「俺だってあんたに色んなことしたいし、されたいよ。……ついでに言っちまえば、ンなこと言われてこのまま終わりになんて出来ないっつの」
責任取れよ、と言われ、は困惑しつつも頷いた。
凌統のしたい、されたいことは、自分のされたい、したいこととどれくらい同じでどれくらい違っているのか、少し怖くて楽しみだった。
終