は異なる世界から来たと聞く。
 だが、その意味するところを理解している者は少ない。
 一見してどこがどうとも言えない、極普通の女だ。
 この世在らざる者、などと言うとてつもない存在には、到底思えない。
 そんなだが、今日はずいぶん珍しい格好をしている。
 いつもは黙礼ですれ違う張遼も、ついつい声を掛けてしまった。
「……あの、ハロウィンなもので……」
 歯切れの悪いの説明に、張遼は首を傾げる。
 どうにも言い難そうにしているの説明によれば、の世界にはハロウィンという祭りがあり、仮装して家々を巡り、菓子をもらうのだという。
 重ねて問えば、曹操にこの話をしてしまった為、仮装させられる羽目に陥ったとのことだった。
「はぁ、しかしまた、何故そのような」
 は獣の耳に獣の尻尾を付け、ご丁寧に丈の短い毛皮の服を纏っている。
 肩に掛けた袋からは、ここに至るまでに貰ってきたであろう菓子が顔を覗かせていた。
 仮装と言うが、それにしても風変わりだろう。
「いや、あの……元々は、この日に集まるっていう悪霊を怖い格好して驚かして、それでもって追い払おうってことから始まったらしいんですけど」
 張遼は、いぶかしげに瞬きする。
 も気付き、何かと伺いを立てる。
「……私は殿を怖いとは思わぬが。愛らしいとしか思えぬ」
「は」
 の顔が一気に赤く染まる。
 張遼は、しかし不思議そうに瞬きするだけだ。
「ふっ、服ですよね!? 着ているものの話ですよねっ!?」
 声をひっくり返して喚くに、張遼は素直に頷いた。
 あぁ、何だ、と、ほっとしつつもがっかりしている自分にうろたえる。
 そんなの心情を知ってか知らずか、張遼はふと思い付いたように頭を横に振った。
「……あぁ、否、私は、殿御自身も大層可愛らしいと思っている」
 の顔が、再び真っ赤に染まる。
 張遼は、何故そんなに顔が赤くしているのか分からないとばかりにを見つめている。
 心からそう思って言ったらしいが、普通はまず言わないことだろう。
 張郃あたりが言うならまだしも、張遼のような生粋の武人に言われてしまうと軽口で返すこともままならない。
――どうしよう。
 は熱くなった頬を押さえる。
――その気になってしまうかも、しれない。
 立ち尽くして不思議そうに首を傾げる張遼を盗み見ながら、は逸る鼓動に一人焦っていた。

 終

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