が甘寧に連れて行かれた後、孫堅は椅子に腰掛けると、行儀悪く卓の上に足を置いた。
 卓の上に積んであった書簡が二三、音を立てて落ちていったが、孫堅は全く気にしていなかった。
 が来る昼の間だけ、それは熱心に仕事をする。念の為、ばれないようにとわざわざが来る二刻前から書簡を広げ、筆を滑らしている。
 我ながら、熱心なことだと感心した。
 権がこの有様を見たのなら、驚いて言葉を失うかもしれない。孫堅は、孫策に似て書簡を扱う仕事は得意ではない。

 逆か。

 策が、自分に似ているのか。
 つまらないことに思いを馳せる。
 書簡を扱う仕事は、それこそ黄蓋の方がよほど得意だと言えた。書簡を枕に居眠りをして、叱られたこともある。孫堅は要領がいいので、孫策のようにこっぴどく叱られることはなかったが。
 となると、俺はどうもこっ酷く誰かに叱られてみたいのかもしれんな。
 誰かとは、恐らくだ。
 のむっとした顔、必死に怒りを堪える顔を思い出し、孫堅はくっくっと喉を震わせて笑った。
 何時か堪えきれずに、怒鳴り散らしてくれないだろうか。
 かつて、孫策に怒鳴り散らした時のように。
 迸るような、怒りの炎の影を想像し、悪くないと目を閉じた。

 けれど、もしそんなことになったら。
 を、抱いてしまうかもしれない。

 それも、悪くはない、と孫堅は思った。

 外では、まだ雨が降り続いている。


  終

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