したい、と思っていたのは確かだ。
 だから、あんな夢を見たのだと思う。



 は、寝る前まで確かに身に纏っていた夜着が、何時の間にか消え失せているのを知った。
 それどころか、辺りは薄靄に霞んで、雲間から漸うと差し込む光が仄かに照らすのみだった。
 白く煙った世界には、牀はおろか柱も壁も見えはしない。
 何処までも白い世界は、果てなどないかのように見えた。
 ああ、夢を見ている。
 はそう判断して身を起こした。
 手や背中に、ぬるりとした感触がある。
 よくよく見れば、白く濁る液体が大地、あるいは床を薄く覆っている。
 何だ、とは両の手を見つめた。
 何処かで見た、見慣れた液体のように思った。
 首を傾げ、恐る恐る鼻を近付けると、突然生臭い匂いが鼻をつき、あっと声を立てて仰け反った。
 精液だ。
 分かった途端、空気が濁った。
 吐き気を催すまではいかないが、気色悪さに立ち上がろうとして、滑った。
 腰から落ち、思わず悲鳴を上げたが痛みはなかった。
 夢だからだろうか。
 だが、精液の中に尻から落ちたおかげで、体のあちこちに白いぬめりが飛び散り、その重さからたらりと皮膚の表面を糸が引いたような網目が出来た。
 自分で見ても、いやらしい。
 薄く静脈の浮いた胸に、白い糸がたらたらと落ちていく。
「う、汚な……」
 とにかく、この滑りの中から出なくてはと、今度は用心して四つん這いになった。
 なかなか恥ずかしい体勢だが、構っていられない。
 歩き出そうとして、突然足首に戒めをかんじた。
 え、と振り返ると、そこに趙雲がいた。
 やはり裸で、笑っている。
 な、と息を飲み、とにかく手を外させようと、足首を掴んでいる趙雲の手に指を伸ばす。
 趙雲に先手を取られて、引き摺り寄せられた。
 精液のぬめりが、の体を容易く趙雲の元に運ぶ。
 体中に精液が塗りたくられるようで、は半泣きで悲鳴を上げた。
 片足だけを引かれた為、自然大きく開かされた足の間に趙雲が入り込む。
「後ろからがいいか?」
 何を阿呆なことを、と喚くにも関わらず、趙雲はくすくすと笑っての体を抱き上げた。
「ならば、こうだな」
 趙雲が座った上に、膝裏を抱え上げられて落とされる。
 えげつないギャグ漫画のように、趙雲の猛りはすとん、との中に納まった。
「あ、うっ……!」
 慣らされていないはずの挿り口は、何故か既に潤っていた。けれど、趙雲の昂ぶりは見た目よりも遥かに大きな質感をにもたらし、一気に貫かれることで悦よりも苦痛が勝った。
 体の中に、何か入っている。
 蠢く肉の感触に、は無意識に尻に力を入れ、傍若無人な動きを妨げようとする。
 耳元に、趙雲が熱く囁いた。
……そう締め付けられては、もたない……」
 ぞく、と背筋に何かが駆け上がり、はそれから逃げようと背を弓形に反らせる。
 膝が宙に浮き、趙雲の言葉とは裏腹に内部を強く締め付ける。
 崩した正座状に座り込むに、趙雲は弾かれた手をの乳房と開いた足の間に滑り込ませた。
「ここは巫山。今宵、私がお前を心行くまで貪る所。覚悟しろ、。今宵は、手加減などしてやらん」
 言うなり、指をするすると揺らめかす。
 全身に浴びた精液が、何時か使ったローションのぬるぬるとした感覚を再現する。滑る肌が鋭敏な触感を生み、鳥肌が立つほどの悦を感じた。
「な、何これ、や……」
 悲鳴混じりに抗うが、趙雲のものに串刺しにされている状態では思うように身動きが取れない。
 生きながら標本にされる虫のような気になって、悲鳴を上げようとしても既に息が上がってしまっている。
「汚い、と言っていたが、あまりそうは見えないな」
 気持ち良さそうだ、との揶揄する言葉に反感を抱き、怒鳴ろうとするがやはり声が出ない。
 掠れた吐息交じりの声は、悲鳴というよりは嬌声としか聞こえず、趙雲の笑みは深くなるばかりだ。
「……ここが悦いか、?」
 首筋の中ほどを強く吸われて、は声もなく仰け反った。
「ここは?」
 固くしこった先端を指で弾かれて、瞬間沸いた痛みと悦に涙した。
「ここの方が、悦いか?」
 するりと襞を掻き分けて滑り込む爪の硬さに、体が自然に身構えて力が入る。
 きつ過ぎる、と趙雲が笑い、の両膝を纏めて掬い上げるとゆさゆさと揺すぶった。
 体勢のきつさから、の中から肉棒が抜けかかる。
「やっ」
 挿り口をかき回される感覚にが悲鳴を上げた。
 潤い過ぎた花弁から、ずるり、と音を立てて趙雲の昂ぶりが抜け落ちる。
 趙雲は気にした様子もなく、背後からを抱き寄せて首筋に舌を這わせる。昂ぶりはそのまま、花弁の表皮を撫で上げるように擦り付けた。
「し、子龍……」
 がくがくと震える体が、懸命に趙雲に縋る。趙雲は、愛撫の手を止めての顔を覗き込んだ。
「もう、や……お願いだから……お願い……」
 の指が、何かを耐えるように股間を抑えている。細かに震える肌は、熱を帯びてしっとりとした汗に塗れていた。
 趙雲は薄く笑ったまま、を背中から倒した。
「そのまま、見ていろ」
 大きく開いたの足を肩に掛け、趙雲は片手で己の猛りを掴むと、の指を押し退けるようにして埋め込んでいく。
 羞恥からが目を背けようとするのを、叱咤して戻させる。
「いつも、目を逸らしているだろう。今日は駄目だ。私のものがの中に呑まれる様を、ちゃんと最後まで見るんだ」
 の目が潤んで、趙雲に許しを請う。
 趙雲は許さなかった。
 赤黒い、大きな蛇のようなものが、の秘肉を裂いて潜り込んでいく。
 ずる、ずる、と微かな音がの耳に響き、同時に秘部が熱くなる。
 他人の熱だ。趙雲の、熱だ。
 尻の奥から震えるような悦が迸り、趙雲のものを苛む。
 趙雲も、僅かに息を上げつつ、挿入を続けた。
 やがて、くち、と小さな音がして、趙雲の腹がの内腿に触れる。
 深い吐息から、趙雲のものをすべて呑み込んだのだと伺えた。腹の中に強張ったような感触があり、ぴくんぴくんと脈打っている。
 全神経が趙雲の動きや質感に向けられる。湿り気を帯びた熱い息や、さらりと音を立てて零れ落ちる黒髪さえも、の悦を容赦なく煽り立てるのだった。
 濡れた皮膚に何か張り詰めたものが当たる感触がある。熱い。
 ふと、あ、子龍の、と思い当たり、頬が熱くなった。
 滑らかな薄い皮膚の下に、充実した柔らかさを感じる。
「如何した?」
 口篭るだったが、趙雲がぐっと力を篭めて腰を押し付けてやると、嬌声を交えて呆気なく白状した。
「……っ、……あ、の……子龍の、あの……あの、た……が」
 首を傾げていた趙雲が、ああ、玉かとあっさりと口にした。
 趙雲の口からそんな言葉を聞くなんて、とは喚いた。
 が、当の趙雲は他に何と言えばいいんだと苦笑する。
「ここから、の中を穢す汚いものが出てくるのだろう?」
 に、と口の端を上げて笑う趙雲は、何時になく意地悪な顔をしている。
 趙雲が腰を揺するたび、にちゃにちゃと粘度の高い音が響く。
 張り詰めた双玉が秘部を擦る感触が殊の外悦くて、は喘ぎ悶えた。
 如何する、と趙雲が囁いた。
「汚されるのが嫌なら、抜いてやってもいい」
 ほら、如何する、と言いながら趙雲は腰を押し込む速度を上げていく。
「ど、するって、だっ……」
 止めてくれと言う段階じゃないだろう。
 擦り上げられるたびに泣き出したくなるような悦が湧き上がり、きゅっと締め上げる肉壁を、それこそ容赦なくこそげるように肉棒が抜き差しされる。
「如何する、私はそろそろ限界だ」
 趙雲の額から、塩辛い汗がぱたりと落ちた。
 限界だと言いつつ、趙雲の顔から微笑みは消えない。余裕があるとしか思えない。
 やめてと言えば、本当に止めてしまいそうだ。
 は、ふるふると首を振った。
「……それでは分からない」
 趙雲は、ふふ、と笑ってぐり、と腰を抉った。
「ひあぁっ!」
 の体がびくんと跳ねた。
 趙雲が突き込むたびにの中から滴る愛液が飛び散り、悲鳴じみた嬌声が空気を震わす。
「どうする、
 嬉しそうに笑う趙雲を、は涙で潤んだ目で睨みつけた。
 体を捻って趙雲の首にかじりつくと、馬鹿、と掠れた声で罵った。
 喉元に軽く歯を立て、唇を戦慄かせると、小さく呟く。
 趙雲の顔に艶やかな笑みが浮かんだ。
 唇を合わせて、舌を絡ませる。舌先から滲む唾液を啜られて、息が上がっていく。
「……お望みどおり、汚してやろう」
 上気した頬に口付けを落とすと、趙雲は大きく腰を突き込んだ。
「あっ、やぁっ、やぁっ!」
 激しく頭を振るは、正気を失ったかのように悶え、趙雲にしがみ付いてくる。
 宥めるように半身をかき抱きつつ、趙雲は腰を突きこむのを止めない。むしろ、徐々に激しくしていった。
「あぁっ、も、だ……だめぇっ……しりゅ……!」
、出る、もう……っ……!」
 趙雲の白皙に艶やかな朱が差し、乾いた唇をちろりと舐め上げる濡れ濡れとした舌がを煽った。
 がつがつと打ち付けられる腰が、跳ね上がるように痙攣した。
「あっ……」
 膨れ上がった昂ぶりが破裂するように戦慄き、の中を熱いものが迸っていく。
 体の奥底から、どくどくと液体が注ぎこまれる独特の音が響き、は体を強張らせて奔流を受け止めた。
「んん、中に、中、に子龍の、が……」
 恐らく、は何を口走っているか分からぬままに最後の悦に身を任せている。
 頬を染め、固く目を瞑って猥褻な睦言を繰り返すの姿がたまらなく愛おしい。
 そうさせているのが自分だと言うことに、趙雲もまた湧き上がるような征服の快楽を覚える。
……」
 趙雲の雄が、更なる征服を求めて猛々しく膨れ上がった。
 柔肉の中で形を変える肉塊に、が喘ぎ趙雲を見つめる。
 子供のように怯える濡れた目に、趙雲は優しく笑いかけ、耳朶を食んだ。
 舌を這わせながら、鼓膜に吹き込むように囁き掛ける。
「……、もう一度……」
 頬を染めるが、しばらくの後こくりと頷く。
 逡巡したように唇が小さく開いては閉じ、趙雲は小首を傾げながらを見つめた。
「……子龍が、欲しいよ」
 恥ずかしそうに呟くと、は伏目がちに趙雲から視線を逸らした。
 一瞬呆然として目を見開いた趙雲は、弾かれたようにをかき抱き、その唇を貪る。
 呼吸を奪われる激しさに、が苦痛の呻き声を漏らすが、趙雲はの顎を捕らえて何度も唇を合わせた。
…………」
 それしか知らぬと言わんばかりに、趙雲はの名を呼び続ける。
 深く穿ち、抉り、後孔さえも指で犯して、趙雲はひたすらを求めた。
「……っ、壊れ、ちゃうっ……」
 の悲鳴に、趙雲はを遮二無二抱きこんだ。
「壊れてしまえ」
 鮮やかな笑みを浮かべて囁くと、の体がびくんと跳ね上がる。漏れるよがり声は一層艶やかで、趙雲を奮わせた。
 共に限界と察した趙雲は、再びの中に昂ぶりを解き放った。



 目が覚めて、趙雲は身を起こした。
 夢の内容の割には、体は至って健やかで目覚めもいい。
 うん、と伸びをして、ふと下帯の中が濡れていないことに気がついた。
 夢の中でとは言え、あれだけ大量に放ったと言うのに形跡もない。
 この年で夢精もあるまいしな、と納得して牀から起き上がり、身支度をしていると、誰かが飛び込んできた。
 だった。
「子龍、ちょっとぉ――――――っっっ!!」
 うん、と見返すと、何故かは驚いたような顔をしている。
「……寝て、た?」
 ああ、と頷くと、はますます挙動不審になった。
 如何したのかと問うても要領を得ない。
 両の手を捻り上げ、吊り上げるようにして問い詰めると、やっと白状した。
「う、あの、夢見て……」
 夢、と趙雲が怪訝な顔をすると、は顔を真っ赤にした。
「あ、でも、子龍が知らないんだったら、私の勘違い……かな……」
 無言での下着の中に指を突っ込む。必死に抵抗してはいたようだが、如何せん両腕を戒められていてはそれも大したものではない。
 ぬらり、とした感触とともに、白濁した液が指に纏わりついていた。
「……巫山の、夢?」
 趙雲の呟きを聞き咎め、が再び喚き出す。
「な、や、やっぱり子龍だったんじゃない―――っ!!」
 人が寝ていると思って、なんてことすんのよ、馬鹿、変態、エロ親父!
 最後の言葉は分からなかったが、言葉の並びからして罵詈雑言の類だろう。
「黙らないと、今度は口を汚すぞ」
 趙雲が横目でを睨みつけると、はぴたりと口を閉ざした。
 その様が可笑しく、また愛しくなって、趙雲はの手を戒めたまま、柔らかな口付けを落とした。


  終

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