劉備が孫呉の姫君と結婚することが決まり、どうやら趙雲がその警護の任に就くことになるらしかった。
 しばらくは忙しくなりそうだ。
 に当てて、文を認める。
 こまめに送っている文に、返事が返ってくることはほとんどない。筆不精なのだと嘯いていたが、手紙をもらうのは嬉しい、などと言うので始末に負えない。
 馬鹿らしくなる。
 多忙ゆえ、しばらく顔を出せない。
 まず、それだけ書き記して、後、何を書こうかと迷う。
 止まっていた筆を、あまり考えずに動かした。

 あいたい。

 宙に浮かせた筆で、そのまま塗り潰した。
 何を書こう。
 考えても、何も思いつかなかった。

 あいたい。

 一言以外、何も記す気になれなかった。そして、そんなことを記す気もなかった。

 結局、一言の横に塗り潰した跡があると言う、奇妙な状態のままに送った。
「……あいたい」
 呟いた言葉を戒めるように、趙雲は指を噛んだ。


  終

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