馬超は一人、愛馬の面倒を見ていた。
 が呉へ出立してから、何くれとなく愛馬の世話をするのが馬超の日課と化していた。
 一人で居られる時間を求め、かつ打ち込めるものを欲してのことだと馬岱も察していたから、厩に居る時の馬超は本当に一人きりで居ることが多かった。
 そんな時の馬超は、見た目からして不機嫌極まりない仏頂面をしていたから、厩番は元より他の兵士も寄り付かなくなっている。
 だから、馬超が厩に在って、人の足音を聞くのは実に久し振りのことだった。
 何処の馬鹿だと目線だけを向け、その馬鹿が夢にまで見た恋しい馬鹿だと知って愕然とする。
?」
 幻を見たかの如く、その存在を疑うように問い掛ければ、はにっこりと微笑んだ。
「ただいま、孟起!」
 言うなり駆け寄ってくる。
 胸に飛び込んでくるかと思いきや、目の前まで駆け込んでおきながらその場に急静止する。
 この遠回し振りは、間違いなくだ。
 それと知るや、馬超は両手を広げての体を抱き寄せた。
 攫うばかりの勢いに、は呼吸を塞がれ、苦しげにもがく。
 けれどその表情はただ明るく、馬超の顔を愛しげに見詰めていた。
「……久し振りだね、孟……」
 の言葉は馬超の唇に遮られた。
 噛み付くように性急に求める口付けに、しかしは臆せず応えた。
 眩暈する程深く、強く交わされる口付けは、長く長く続けられる。
 ようやく外された唇がほっと小さな溜息を吐き出したのに釣られ、引き寄せられるように幾度も繰り返す。
 やがて馬超の腕に抱かれたの体から力が抜け落ち、しんなりともたれかかってきた。
 馬超は当然のようにの体を抱き上げ、何処か落ち着ける場所へ移動しようと踵を返す。
「待って」
 思い掛けない制止に、馬超は鼻白む。
 は笑いながら首を振ると、馬超の首筋に顔を埋めた。
「……会いたくて、ここまで走ってきたんだよ。孟起に、一番に会いたくて。だから」
 口を閉ざしたに、馬超は小首を傾げる。
 それは馬超にとっても同じ思いだ。
 ずっと会いたかった。そして会えた。
 だから、今すぐにでもを抱きたかった。
 は身を捩って馬超の腕から抜け出すと、改めて対峙するように立ち尽くした。
 その顔が、やたらと赤い。
 どうしたのかと問いかけようとした瞬間、馬超の目の前では思い掛けない行動を取った。
 裳の裾を、大きくたくし上げたのである。
 その下にあるべき下着はなく、剥き出しになった黒い繁みが馬超の目を釘付けにする。
 内腿に流れ滴るのは、欲情の印に違いない。
「……蜀に着く、ちょっと前からずっとこんなで……孟起でなきゃ、治まらないの……だから」
 馬超は、の体に飛び掛るようにしてしがみ付いた。
 頭の中に血が逆流して赤く染まり、呼吸を荒げていく。
 獣の如く腰が揺らめき、早くを食らい尽くしたいと雄の標が吼えていた。
「あっ」
 が小さく声を上げた。馬超の先端が、の秘裂を掠めたのだ。
 潤いから更に潤いが促され、の体もがくがくと震え始める。
「孟起……お願い、焦らされたら、私もう……」
 焦らしているつもりはない。むしろ、焦り過ぎて上手く挿入できなかった。
「……すまん、……後ろを向いて、尻を上げてくれ」
 馬超の頼みに、の体が一層強く震えた。
 そんな言葉だけでも過敏に反応する体に、が如何に馬超を欲しているかを知らしめられる。
 覚束ない足を御しながら馬超に背を向けると、は厩の馬柵にしがみ付くようにして尻を掲げる。
 白い円い尻の間に、赤く充血した濡れた肉が見えている。
 女を果実に例えると聞くが、成程こうして見てみれば、女の秘部こそ果実の例えに相応しいものはない。
 馬超の視線は突き刺さるようにつぶさにを観察し、見られていると知ったの肉を熱く切なく震わせる。
「……や、孟起、見ないで……」
 羞恥に肌を焼くの様に、馬超はこのままずっと見ていたいような誘惑に駆られる。
 だが、いきり勃つ雄は早く柔肉を貪りたいと、痛みすら伴って馬超を急き立てた。
 無言で秘肉に押し当てれば、飲み込もうとするかのように蠕動する。
 生唾を飲み込んで腰を進めれば、全身の神経を焼くような快楽が馬超を襲った。
「あっ、ひ……んん、んっ……!」
 切れ切れの悲鳴が心地良く耳に響き、馬超は半ば朦朧としながら遮二無二奥へと突き進む。
 鈍い音と共にすべてが納まると、そのままうねる膣壁の動きを堪能した。
 軽く達し、ただ身震いするだけだったの体がもぞもぞと動き出す。
「も……孟起、早く……ね……」
 希う弱々しい声に、蹂躙したい欲望が首をもたげる。
「よし」
 短く応じると、馬超は手加減なく腰を突き動かした。
 が悲鳴を上げる。
「孟起、キツ……! キツい、よ……!」
 口とは裏腹に強くきつく馬超にすがり付いてくる秘肉に、馬超は口の端を軽く引き上げて笑うのみだった。
 馬超の自信を肯定するように、やがての唇は悲鳴ではなく嬌声を紡ぎ出す。
 鼓膜からも濃密な悦を流し込まれるようで、馬超は久方振りの熱く鋭い愉悦に酔った。
 ずっと求めていたものが、足りなかった空虚が急速に満たされていく快さに反し、馬超の雄は猛り狂っていく。
「あぁ、や……凄い、孟起、凄い……」
 よがっているのかもがいているのか判断が付かぬ狂乱振りに、しかし馬超は、もまた己と同じく狂おしいほど満たされていると確信した。
 もう何処へもやらぬ、行かせぬ、このまま俺だけのものにする。趙雲の許へさえ、決して遣ったりするものか。
 射精する直前、の内から無理矢理肉棒を引きずり出し、の顔面に向けて解き放った。
「ふわっ……!」
 びしゃ、と叩き付ける様に吐き出された精液は、ねっとりと跡を引きながらの顔から胸元へ滴り落ちていく。
 紅い舌が覗き、幾許かの粘液を舐め取るものの、大量の精液はを人前には出られぬ程に汚し尽くした。
「……ここで、少し待っていろ。すぐに戻る。一緒に屋敷へ戻ろう」
 執務室へ顔だけ出し、を隠す上掛けなりを取ってこようと、馬超は未だ獰猛な勢いを残す男根を仕舞いこむ。
 命じられたは、馬超が身支度する様を茫洋として見上げていたが、ややもしてこくりと頷いた。
「……早く、ね」
 未だ、全然足りない。
 の切なげな要求に、馬超の雄は鋭く反応する。
「すぐ、戻る」
 でなければ俺の方が持ちそうにないと、馬超は苦笑いしながら身を翻した。



「………………」
 朝の光に儚く溶けて消えた夢を、馬超の肉は未練がましく欲していた。
 腰の辺りがねとつくのは、間違いなく夢精した証だろう。
 が帰ってくる訳がないのだ。
 分かっていて尚欲し、欲するあまりに夢を見た。
 それでも、新年初の夢は現実の先触れとも聞き及ぶ。
 これが先触れならば、汚した下着の処分程度、何と言うことはない。
 開き直って起き上がると、来るべき現実に備え、職務に励もうかと言う気になった。

 常よりも尚不機嫌そうでいて、突然初心そうに顔を赤らめる馬超に、馬岱はこっそり首を傾げるのだった。

  終

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