体の中心を駆け上がるような感覚があった。
息は荒く、一向に落ち着く気配がない。
強張っていた体の力が抜け落ち、へたり込むように腰を下ろすと、萎れた肉の感触が膣内を擦り上げる。
あ、と小さく声を上げて緩く背を逸らせると、触れ合う肌の熱が唐突に一切合切消えた。
突然のことに我に返ると、が見下ろす先に呂蒙の顔がある。
目を見開き、呆然とを見詰めていた。
「……っ!」
焦燥に駆られて腰を浮かす。
とすれば無理からぬ動きだ。
だが、呂蒙にとっては許し難い行為と映ったようだった。
見たこともない険しい顔に怯むと、勢いよく引き寄せられ、倒れ掛かったところで頬骨を鷲掴みにされる。
「、か」
問い掛けではない、とは感じた。
そこにある『物』の名前を、何の気なしに口にしただけだ。
ぞっとする。
何をされるか分からない。
こんな呂蒙を見るのが初めてなだけに、の恐怖は加速する。
怯えるを見て、呂蒙が笑う。
「夢か」
自嘲じみた笑みは、の知るものと同様だった。
安堵し掛けただったが、転瞬、見下ろしていた筈の呂蒙の顔を仰ぎ見ている。
間近に己の局部があり、その向こうに呂蒙を見ているという奇態な光景に、呆気に取られた。
「夢でも、否、夢ならば」
ぼそぼそと呟く呂蒙の声音は、ぎこちなさを帯びている。
見開かれた眼にぎらぎらとした光が浮かんで、まるで人が変わってしまったかのようだ。
二つ折りに畳まれたに、呂蒙が顔を寄せてくる。
固い革や布の感触が消え去り、馴染んだ熱い皮膚が膝裏に触れる。
唇が触れ、即座に舌がの口内を蹂躙した。
手順も手管もない、荒々しい仕草に翻弄され、体を二つに折られている苦痛でさえもどこか他人事と化す。
「う、んっ……ん、ん……」
意図せず声が漏れる。
呂蒙が動くと、秘裂から濡れた音が立ち、は顔を赤らめる。
聞こえていなければ、とわずかな望みを掛けるが、そこに滑り込んだ呂蒙の指は、望みが叶わなかったことをその動きで示していた。
掻き毟るような指の動きに眉を顰めるも、指は更に深く強くの中を抉る。
「痛、痛い……!」
涙が零れ、頬を伝うと、呂蒙の舌がそれを拭い去った。
指が引き抜かれ、今度は指の腹で肉芽を擦られる。
強弱を付けて弄られると、耐え難い愉悦が沸き上がった。
身をよじるも、呂蒙に抱え込まれていて動くに動けない。
抑え込まれた快楽は、の体の中で膨れ上がり、解放を求めて暴れ出す。
と、耳元に柔らかな吐息が吹き込まれた。
薄く目を開ければ、呂蒙の笑みがある。
「見ていろ」
密着していた体が離れ、冷たい空気が流れ込んでくる。
支えを失い崩れ落ちそうになるのを、呂蒙がその足首を掴んで止めた。
更に露にされる体勢に、の顔はますます赤くなり、勢い目を閉じる。
「」
叱り付けるような声に、恐る恐る目を開けると、呂蒙の強い視線と直にかち合った。
「見ていろ」
目を瞑ることを禁じられ、自分の恥ずかしい姿を直視させられる。
呂蒙はおもむろに腰を上げると、切っ先をの秘裂に当てた。
ゆっくり沈んでいく肉塊を呆然と見詰める。
これ以上なく触れ合っている筈なのに、何故か感覚が鈍い。
鼓動ばかりが大きく聞こえ、頭の中で跳ね返っていた。
先端が埋まり、血管が浮く肉幹が飲まれ、ついにその根元まで沈むと、不意にずしんと下腹に響く衝撃が来る。
「ひっ」
が悲鳴を上げると同時に、呂蒙は長く深い溜息を吐く。
珠のような汗が浮き、の胸乳や腹へ、ぼたぼたと落ちてきた。
腹の中に、巨大な異物がある。
だがその違和感は、それ自体が甘い媚薬のように、の肉体を侵食して変化させていく。
「…………」
呂蒙の声がかすれている。
切なく求めるその声に、は抗う理由を探せなかった。
「呂蒙殿……!」
求める声に応え、求める。
それですべてが通じた。
荒々しく突き入れられ、激しく掻き回される。
脳神経を焼き尽くす快楽に、全身が痙攣して止まらない。
苦痛そのものの感覚が、どうしてこれ程の悦をもたらすのか。
分からぬままに突かれ、自らも腰を揺すった。
涙が散り、閉じられなくなった口の端からは涎が垂れ、嬌声が漏れ続ける。
にも関わらず、だ。
「……」
呂蒙が呼ぶ。
「……悦いか……?」
これ程粗暴に振る舞いながら、問い掛ける言葉は酷く弱々しい。
その落差でさえ、を弄る。
啜り泣いて許しを請うても、呂蒙は許さない。否、気付いてくれない。
「、……その……どう、だ……? ……俺は……」
目の奥を覗き込む、その目が切ない。
卑怯だろう。
体が戦慄く。
「……悦い、です……っ……からっ……」
手を伸ばす。
届かないと分かっていても構わなかった。
これは、合図に過ぎない。
呂蒙の喉が大きく上下する。
身を乗り出してくるのを迎え、唇を合わせた。
「……っ……」
熱く噴き出すものが、身の内を迸る。
幾度も収縮を繰り返し、叩き付けるように吐き出され、塞がれた口から叫んだ名は、誰の耳に届くこともなく掻き消えた。
塞ぐだけだった唇が離れると、ねっとりと糸を引く。
息するのすら恐れるように、互いに細い息を吐いては吸った。
やがて二人の呼吸が落ち着き、静けさを取り戻すと、呂蒙は何故か慌てたように辺りを見回した。
人の気配を感じたのかと、もぎょっとして身を起こす。
二つに折られたまま、繋がったままの状況で動いたもので、あまり麗しくない痛みに腰を押さえた。
と、呂蒙が耳元に囁く。
「……その、俺は、お前を、……あ、愛して、いる……」
驚愕した。
驚愕ついでに、思わず勢いよく振り返り、呂蒙の頤辺りに思い切り激突した。
目から火花が散る。
どうにも格好が付かない。
己の駄目さ加減に打ちひしがれながら、痛みと呂蒙への申し訳なさで目が開けられなくなった。
視界が、暗闇に包まれた。
「………………」
目が覚めた。
頭に手をやれば、ずきずきとした痛みが迸る。
寝惚けて壁に頭をぶつけたのだろうが、記憶にない以上それを確かめる術はない。
恨みがましく壁を撫でている内、ふと振り返る。
陸遜が立っていた。
背筋を寒気が駆け上り、一瞬体が宙に浮いたような錯覚を覚えた。
「もう少し、慎んで頂きたいものです」
「……あ、はい……」
それ以外には返事のしようがない。
察するに、淫らな寝言を慎めということだろう。
無茶な注文だとは思うが、慎めないなどと言ったが最後、陸遜に何をされるか分からない。
我慢強い陸遜が、わざわざ襖を開けて己が存在を訴えているのである。
さぞや凄まじい『寝言』を聞かされたに違いないのだ。
何より、陸遜の憮然とした表情が雄弁に物語っている。
それはもう、色々と酷かったのですよ、と。
の返答を受け、襖はすぐに閉ざされたが、はしばらく固まっていた。
終