船は川を下る。思ったより揺れる事もないが、乗り慣れない初めの二三日は船酔いして大変だった。
 何せ、腰が痛い。踏ん張る事も出来ず、気分転換にうろつくことも出来ず、散々だ。
 馬超は自分の宣言を律儀に守り通し、毎晩通ってきた。必ず一回、多い時は三回はしたと思う(途中で訳が分からなくなったりしたもので、よく覚えていなかった)。
 今はだいぶ良くなって、甲板に出てこられるようになったが、船に乗り込む時は足元が覚つかず、見かねた姜維に抱きかかえられる羽目になった。思い出しても、恥ずかしくて頬が熱くなる。
 アメリカ人は回数の多いことを自慢し、中国人は持続力の長いことを自慢すると聞いたことがあるが、馬超に限って言えばアメリカ人派なのかもしれない……などと、犀花は呑気な分析していた。
 馬超が、何とかしてに種付けしようと目論んでいたことなど、当のが知る由もない。
 膣から精が漏れて困ることはなくなったが、腰の痛みはまだ続いていた。
 変な体勢取らせるから、と内心文句を垂れ流している。口に出しては到底言えない。
「まだ具合が良くないのか」
 いつの間に近付いてきたのか、の真後ろから声が聞こえて、はびくりと肩を震わせた。
「子龍。じゃなかった、趙将軍」
 青空の下、船の揺れにも拘らず姿勢正しく立つ趙雲は、見慣れていても眩いほど美麗だった。
「二人でいる時は、子龍で構わない」
 にっこりと笑うと、並びの良い白い歯がちらりと見えて、何故か鼓動が早まった。
 呉に行って来いと言われた時はどうなるかと思ったが、趙雲が劉備の護衛として同行すると聞いて、は心の底から安堵したものだ。
 突然船が揺れ、はよろけて趙雲の腕の中に飛び込むことになった。
 趙雲はごく自然に支えてくれたが、は己の不明を恥じて慌てて離れようと身を起こす。と、揺り返しが来て、今度はそっくり返りそうになり、再度趙雲に支えられる。
「あ、う、ごめん子龍」
 情けない。
 眉尻を下げるに、趙雲はやや同情したように首を傾げた。
「馬超も、もう少し手加減をすれば良いものを」
 完全に見抜かれている。情けなさに拍車がかかった。
 趙雲は、平気なのだろうか。
 結局、旅立ちまでの期間中は準備と馬超にかまけることになり、趙雲とはほとんど接触できずにいた。姜維の方が、まだしもに触れてきたと思う。
 趙雲自身が多忙を極めていたので、とすれ違いになるのはしょうがないのだが、それでも趙雲の心は相変わらず窺い知れない。
 ふと見上げた先に趙雲の顔があり、その双眸が熱く滾っているのにははっとさせられる。
 言葉もなく、攫われるように船室の奥に引きずり込まれ、手巾で口を塞がれた。
は、声が高いから」
 揶揄されて、抗議するよりまず顔が熱くなる。
 乱暴にされているはずなのに、ちっとも嫌だと感じないのは、相手が趙雲だからだろう。口の中に乾いた布を詰め込まれ、水気は全て吸い取られていく。乾いた感覚は、恐らくそのせいだけではない。
 どうしよう、とは慄いていた。
 趙雲の手が、の裾を荒々しく捲り上げ、すぐさま秘部を探り当てる。
 指が触れると、の肩が跳ね上がった。同時に趙雲が怪訝な顔をする。まだ何もしていないというのに、の秘部は完全に潤っていたのだ。
 触れているだけの趙雲の指を、の腿が締め付ける。
 趙雲がの目を覗き込むようにして、は顔を真っ赤にしてそれを避ける。
 して欲しい、と趙雲を欲しているのが分かった。自分が恥ずかしくて、目を合わせられない。

 熱い吐息交じりの声に呼び掛けられて、おずおずと顔を上げる。
 趙雲の涼やかな顔に、深い艶が浮いている。美しい顔だけに、淫靡だった。下腹に、ずくんと蠢くものを感じる。恥ずかしい滑りが、腿にまで溢れてくるのが分かった。
 当然、に触れている趙雲の指にも溢れた滑りが絡みつく。少し動かしただけで、卑猥な水音が立つに及んで、趙雲は自分の猛りを取り出し、の片足を抱え上げると入口に宛てがった。
 無言で侵入してくる趙雲に、は声を忍んで固く目を閉じる。趙雲の肩に縋りつき、ひたすら耐える。
 異物が体内に入り込む違和感と激痛は僅かな間のことで、すぐに内壁が入り込んだ異物を抱きこめる。締め上げられた趙雲が、掠れた声で小さく呻いた。
 しばらく互いに抱き合って、底のない悦を貪りあう。皮膚が粟立って、ぞくぞくとする。
、動くぞ」
 こく、と頷くと、趙雲が激しく腰を揺らめかす。心地よい、と言うにはきつ過ぎる快楽に、快楽と苦痛のぎりぎりの狭間を彷徨う。
 急がなければ、人に見つかってはいけないと焦るのが、余計に悦を煽る。
 趙雲も同様なのか、何時もより表情に余裕がない。
 片足だけだったのが、両足を抱えられ、自重により更に深く貫かれる。趙雲に気遣うことも出来ず、趙雲もまたを気遣う事が出来ずにひたすら昇り詰める。
 見えもしない果てを感覚で捉え、ふわりと体が浮いた瞬間、今まで知覚しなかった肉体に精が注ぎ込まれるのを感じ、は一気に堕とされた。
 白く染まった視界が一瞬で色彩を取り戻し、口を塞がれている為に鼻で息をせざるを得ず、うるさい鼓動と相まって、自分が途方もなく下品に思えた。
 すぐそばに趙雲の顔がある。
 美しく整った顔に朱が挿して、汗でしっとりと濡れた肌が光を点して神々しいほどだ。閉じていた双眸がゆっくり開き、の顔を瞳に映す。
 抱えていたの腰を降ろすと、趙雲はゆっくりと肉棒を引き抜く。少なからず抵抗を感じて、趙雲は口の端を引き上げて笑った。は、と言うより、の体は貪欲になった。心と裏腹な体の作りに、趙雲は馬超が夢中になるのも仕方ないと苦笑する。
 の口から手巾を抜き取ると、互いの愛液で濡れたの股間に押し当てる。その上から項垂れた肉棒を押し当て、拭い取る。
 布一枚を通して押し付けられるものに、達したばかりで敏感な秘部が再び潤い出す。
「し、子龍」
 趙雲が拭ってくれるのはいいが、後から溢れてくる愛液に気付かれないかとはびくついた。
 ふ、と軽い吐息で笑われて、とっくにばれているのだと気付き、は俯いた。
「可哀想だが、時間がない」
 また、隙を見て、と耳元で囁かれ、背筋に寒気に似た悦が走った。
「……子龍」
 目を閉じて、顔を上向けると、承知しているとばかりに口付けを施す。
 体の芯から温まる感覚に、は陶然とした。
「私は、キスだけでいいなぁ」
 口付けの柔らかな甘さが好きだ。体を契るのは、激し過ぎて辛くなることもある。あるべきものが知覚できなくなる恐怖もあり、いくら気持ち良くてもわざわざしなくてもいいと思う。キスだけなら、一瞬で済むのだし。
 ここのところが立て続けだったからそう思うのかもしれないが、趙雲は鼻で笑うと、手巾を押し退けて指を突きこんだ。
「あっ、つっ……」
 痛い、と思った次の瞬間、ぞくぞくして足元が崩れ落ちそうになる。あっという間に濡れそぼつ秘部を、趙雲は強く掻き回す。
 鼻先に揃えた二本の指を差し出され、軽く広げると銀色の糸が引く。
「……口付けだけで平気だと、本気で言っているのか?」
 責めるような口調に、は不貞腐れる。
「……平気だもん。つか、子龍がしたいだけなんじゃないの」
 趙雲がにずずいと不機嫌な顔を寄せる。焦って仰け反ると、さらに寄せてくる。
「当たり前のことを、言うな」
 白けた間が空いて、ようやく趙雲の言葉の意味を飲み込んだが、怒鳴りつけようと口を大きく開けた。
 開けた口を、趙雲がまふ、と甘噛みして寄越す。
 絶妙なタイミングに、の怒気が一気に萎んだ。
「……もー、さぁ……」
 体の力を抜くと、趙雲は好き勝手にの体を撫で回す。あんまり熱心に撫で回してくるものだから、何かあるのかと勘繰ってしまう。
 手を回し、趙雲の背を抱くと、趙雲もの背に手を回して強く抱き締める。
「子龍……」
 息が詰まって苦しいのだが、縋られているのを突き放すのはどうにも躊躇われる。
 呉に着いてしまえば、お互い多忙となってこうして触れ合うことも出来なくなるだろう。そう思うと、この抱擁が終わってしまうのが惜しく思えた。
 軽い口付けを何度も交わし、ゆるゆると腕の力を抜く。
 体を契るのはままなるまい。けれど、情を交わす方法はそれだけではないと思う。
 から口付けを施すと、趙雲の目が少し見開かれた。
 目を開けたまま、唇を押し付けて寄越すの顔を間近に見る。
 口付けが終わり、が離れていっても、趙雲はの顔を繁々と見つめていた。
「……何」
 恥ずかしくなってきて、顔を手で覆うのを趙雲が払い除ける。
「うー、だから……何だってば」
 大した顔ではない。趙雲に、そんな風に見つめられているのは耐え難い。
「見ては、いけないのか」
 切羽詰ったような声に、は困惑した。
 趙雲にしても、馬超や姜維にしても、ふざけている気配は微塵もない。けれど、男達が何故これほど自分に執着するのが分からない。
「私の何処がいいのかなぁ……」
 の呟きを聞きつけ、趙雲が視線を険しくする。
「馬鹿」
 小さく呟いた罵声をは聞きつけ、即座に着火する。
「馬鹿とは何よ、馬鹿とは!」
 呆れたように見下ろしてくる趙雲の視線にたじろぎ、は黙り込んだ。
 趙雲はの顔をしばらく見つめていたが、やがて肩を落とした。
「……これだけは言っておく。何か嫌な事や辛い事があったら、すぐ私の所に来い。面子など気にするな。お前が溜め込めば溜め込むほど厄介になる。それだけは、自覚しておけ」
「……心配してくれてるの」
 趙雲の目が、ようやく緩む。時間を気にしてか、背後を伺ってからの耳元に唇を寄せた。
 いつも、お前のことを思っている。
 何という口説き文句か。
 が顔を真っ赤にして口篭っている間に、趙雲はくるりと背を向けて立ち去った。
 後姿を見送って、は自分の身なりにようやく気がついた。慌てて乱れた裾を直しながら、理由は理解できないけれど、趙雲は自分が好きなんだな、と改めて実感した。
 嬉しくもあり、心強くもあり、それに応えられていない自分が不甲斐ないとも思った。
 せめても、しっかりしなければ。
 でも、趙雲にはなるべく相談するようにしよう、とは心に決めた。
 素直に喜びが胸に沸いて、頑張ろうと思えた。
 船は、着々と呉に向かっていく。


  終

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