が三蔵と出会ったのは、月もろくに顔を出さない暗い夜だった。
 連れだと言う悟空とやらと、を見間違えたそうだ。
 暗かったから仕方なかったのかもしれないが、聞けば相手は猿の化け物(三蔵はそこまではっきり言わなかったが)だと言うから、いささか失礼だと思わないでもない。
 なんだかんだではぐれてしまい、あちらこちらを探している最中だったそうだ。
 もっとも、一通り話を聞き終えたとしては、それははぐれたのではなく撒かれたというのが正しかろうと思う。
 これまた何でか、三蔵は以降の行動をと共にしていた。
 悟空が近場に居ないと踏んでのことだろうが、あんまり適当過ぎやしないか、というの心配をよそに、三蔵は至って呑気だ。
 その内きっと会えるなどと嘯いて、実に気楽なものである。
 そういうものだろうか、ただでさえ訳の分からん事態になっているというのに、と、少しばかり引っ掛かりは覚えるものの、三蔵がそう主張するのをわざわざ引っ繰り返してやろうとも思わない。
 も、大概大雑把な性格をしていた。
 けれど、ある一点、どうにもならない困ったことがある。
 単純な話だ。
 三蔵が無警戒過ぎる。
 気が付けば、寒いの淋しいの言いながら寝床の隣に滑り込んでくるし、何の気なしに腕を絡めてくるし(しかも肘が胸に食い込むし)、これは困る、有り難いが困る。
 三蔵にその気がないのは一目瞭然だったし、そも、三蔵は仙女だそうだ。
 さすがに生身の人間の分際で仙女様に手を出す訳にもいかず、は悶々とした日々を過ごすより他なかった。
 だと言うのに、三蔵はそんなの様子に気付く素振りもなく、どころか日に日に油断していって、昨夜はついに下着をご披露するまでに至った。
 白だった。
 それはともかく、いい加減にもこれは何の修行かとやさぐれ始めている。
 悟空が逃げたのも、案外これが原因やもしれない。
 妖怪変化の類ならば、それなり色欲を持ち合わせていてもおかしくあるまい。
 仙女が発情するよりは、よっぽどありそうな話だった。
――あぁ、不味い。
 仙女が発情、の一文で、は三蔵が頬を染めた挙句にくねくねしている様を思い浮かべてしまった。
 過去の記憶が喚起され、これまた鮮明に妄想される。
 股間の暴れん坊がよっしゃと起き出すのを、何とも情けない心持ちで見下ろす。
 火の番を買って出たの傍らで、三蔵はすやすやと可愛らしい寝息を立てている。
 今ならば。
 は一瞬躊躇うものの、この機を逃しては次の機がいつになるやら知れない。
 音を立てぬよう最新の注意を払いながら、そっとその場を離れる。
 いざとなったら、生理現象とでも言い訳すればいい。
 少なくとも、嘘ではない。
 ちょっと見には何をしているか分からぬように、高く生い茂った草むらを探してその中に腰を下ろす。心地よさげに鳴いていた虫達が、一斉に静まり返った。
 が、が動かぬと見るや、すぐさま好き好きに鳴き始める。
 その間も、は身動ぎすらせず油断なく様子を伺う。
 三蔵は眠ったままのようだ。
 乾いた唇をぺろりと舐め上げ、は意気盛んな己の肉を掴み出す。
 手早く済まさねばならないが、既に固く屹立した姿を見れば要らぬ心配のようだ。
 冗談でなく、三擦り半で済むやもしれんと自嘲を漏らすと、すぐさま『処理』に取り掛かる。
「……ふっ……」
 久々の感覚に、腰が浮きそうだ。
 大きな声を出す訳にもいかないから、声を殺しつつ快楽に身を委ねた。
 が。
「何してるのー?」
 呑気な声が掛かり、は半ば飛び上がる。
 慌てて振り向くと、いつの間に起き出したのか三蔵が無邪気な顔を覗かせていた。
「……ちょ、ちょっと便所……」
「嘘」
 用意していた言い訳は、あっさり切って捨てられた。
「男の人は、立ってするんでしょ。それに、座ってするにしたって、そんなべったり座ってたら出来ないでしょ?」
 ぐうの音も出ない。
 すっかり元気をなくした肉を三蔵がじろじろ見遣るのも忘れ、は固まっていた。
「……まぁ、私には関係ないけど」
 ふわりと浮き上がって背の高い草むらを飛び越えると、三蔵はの前に回り込む。
「手伝ってあげるね」
 言うが早いか、唐突にのものをくわえ込んだ。
 三蔵の接近に、反射で伸ばし掛けた腕がびたりと止まる。
 脊髄を走り抜けた快感が、の体を縛り付けた。
 柔らかでいてしなやかな舌が、先端の窪みをえぐる。
 躊躇いない手管に、慣れが滲んでいるような気がした。
 の想像を立証するかのように、三蔵の舌は淫猥に躍り、を追い詰める。
 無意識に膝に力がこもり、爪先て踵でがりりと乾いた土を掻く。
 三蔵の口許が緩い弧に歪んだようだが、確かめる間もなく強く吸い上げられのけぞる。
 双玉が張り詰めて破裂しそうだった。
 後孔に力が入って、きゅっと締まる。
 そうしていないと、体全体が弾けて溢れてしまいそうだった。
 三蔵が離れる。
 ここまで来て殺生な、と泣きたくなるが、そうではなかった。
「飲んで、あげられないの。ごめんね」
 手での奉仕に切り替えるが、口も義理堅く玉への愛撫を続けている。
「……うっ」
 限界を感じ、解き放つ。
 噴き出したものが三蔵の顔をしとどに濡らし、汚していった。
 青ざめるとは裏腹に、三蔵自身は至ってけろりとして指で顔に付いたものを拭っている。
 しみじみ見つめた後、不意にぱくっと口にくわえたもので、の方が慌てふためく。
「の、飲んだら駄目なんじゃなかったのか!?」
「うーん……そう、なんだけど……」
 そうなんだけど、何だ。
 もしかしてこいつ、俺のことを……などと厚かましい妄想が頭をよぎる。
「やっぱり、マズーイ」
 顔をしかめてそんなことを言い腐る三蔵に、がくっと力が抜ける。
「飲んだら駄目なんだろ!?」
「うん、不味いんだもん」
 それは『駄目』じゃなくて『嫌』だろう。
 他動的禁止でなく自発的禁止だ。
「久しぶりだから、飲めるかと思ったんだけど。やっぱり駄目だね」
 三蔵は、心なしかがっかりしている。
 まあ、飲んでくれれば嬉しいに違いないが、どちらかと言えば挿れさせてくれる方が有難い。
 出すには出したが、満足した訳でなし、むしろ本番に向けて体を慣らした感の方が強かった。
 『もう一回』の一言を如何にして切り出そうかと悩んでいる間に、三蔵はすっと立ち上がる。
 その顔に、『もういいよね』と書いてあった。
――いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。
 引き留めようと伸ばし掛けた腕を遮るように、三蔵は朗らかに宣誓する。
「また、いつでも言ってね!」
 いや。
 いつでも、と言うなら、先ではなく今すぐお願いしたい。
 の腕が欲望に押し出されるように、じりじりと前方の三蔵へとにじり寄る。
 気配を察した訳でもなかろうが、三蔵はあくまで無邪気だった。
「挿れるのは駄目だけど、足で挟むのはしてあげるからね!」
 駄目らしい。
 ここで遂に妄執の残量を失ってしまったは、がっくりと肩を落とした。
 その様にようやく何事か覚ったか、三蔵は両手で自らの体を抱えるようにして庇う。
「……駄目だよ! だって私、初めてなんだから!」
 さいですか。
 慰めどころか追撃を食らったような心持ちになって、はもたもたと腰のものを仕舞い込んだ。
 最早、自慰すらする気になれない。
――悟空とやらは、絶対コレにやられて逃げ出したな。
 間違いないと納得して、は深く深く深く頷いた。
 三蔵は、当然合点がいく由もなく、元気ないをきょとんとして見詰めている。
――俺も、逃げたい。
 けれど悟空を逃した経験からか、常から執拗と言っていい三蔵の包囲網をどうかわしたものやら考えて、は頭痛を起こして低く呻いた。

  終

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