貂蝉の顔が怒りで朱に染まる。
 けれど、その目は深い悲しみを抱いていた。
「愛しておられるなら、何故呂布様の許へ留まられないのです」
「今更です」
 連環の計を用い、董卓と呂布を仲違いさせ、呂布の手で董卓を殺させる。
 計は成ったものの、唯一の誤算は貂蝉が呂布を愛してしまったことだった。
 自らの薄汚い策で翻弄した呂布と、おめおめ共に居る訳には行かぬ。
 貂蝉の矜持は、には極々つまらないものに映った。
「今更と言うなら、何故最後まで呂布様を騙して差し上げないのです。愛しておられるなら、何故甘い夢を見させて差し上げようとは思わぬのです」
「おやめなさい、。聞きたくありません」
 貂蝉の涼やかな声で名を呼ばれるのは、にとって常に望外の喜びだった。
 けれど今、いつもなら胸に広がる甘やかな感慨は、微塵にも感じられなかった。
「私は既に呂布様の許を発ってしまいました。戻ることはできません」
「幾らでも言い訳が立ちましょう。例えば、俺が横恋慕に狂って貴女をかどわかしたのだと」
 貂蝉の顔が曇る。
「……そのような嘘。貴方は私に、いったい幾つの嘘を吐けと言うのですか」
 そうでなくとも、王允・貂蝉と二代に渡って忠実に仕えた家臣であり、携えた武で幾度も主の危機を救ってくれたのがである。そのに不実の罪を着せる訳にはいかぬと、貂蝉は頑なに拒んだ。
「罪を着せる訳にはいかぬと言うならば、本当に罪を犯せば」
 言葉より早く、は貂蝉の体を組み敷いていた。
「何をするのです!」
「申し上げたとおりのことをするまでです」
 は貂蝉を押さえつけながら、器用にその服を剥ぎ取っていく。
 貂蝉がもがけどもがけど、を押し退けることは出来なかった。
「おやめなさい、! 貴方がこんなことをする必要は、ないのです!」
「必要、なくはないのですよ、貂蝉様」
 ぐいっと体を押し付ければ、途端に貂蝉の体が強張る。
 の雄の象徴は既に昂ぶり、貂蝉の腿に擦られて尚成長を続けていた。
「ずっと、お慕いしておりました。貴女様が幸せになっていただけるなら、この身はどうなっても構わぬ……そう思っておりましたが、それは間違いでした」
 貴女は、どうあっても幸せにならねばならぬ。
 それが敵わぬなら、この身は鬼と成り果てよう。
「やめて、いやっ! 奉先様!!」
 恐怖が極まり、貂蝉は悲鳴を上げて逃げ出そうとする。
「あの董卓にすら許した肌、今更何を」
 せせら笑いながら貂蝉の体を引き寄せ、乱雑に秘肉を露にする。
 外気に触れた白い尻が、寒さの為か恐怖の為か、大きく戦慄きふるりと揺れた。
「選択は、二つしかありません、貂蝉様」
 舌を噛もうとした口中に、は指を含ませ自決を許さなかった。
「俺と共に放浪を続け、その間中陵辱され続けるか、呂布様の許に泣きながら逃げ帰るか。俺はどちらでも構いません。否、共に居て下さる方が良いかも知れぬ。天下の舞姫を犯せるなど、男として余りある栄誉」
 指の代わりに猿轡を噛ませ、は貂蝉の腰を高々と抱え上げた。
「董卓と、呂布様しかご存じないのでしょう。俺と言う男も、教えて差し上げましょう」
 猿轡越しに悲鳴が漏れる。
 嫌だと泣き叫んでいると分かっていながら、は貂蝉の膣内に己の雄を押し込めた。
 熱い。
 どうしようもなく滾っている。
 自分相手だからではないと分かっていても、溺れざるを得ない甘美な悦がそこにあった。
「動くぞ、貂蝉。お前もしっかり腰を振れ」
 一際高い声が漏れ、貂蝉は咽び泣き始めた。
 信用していたに裏切られ、体を汚される恐怖に打ちのめされているのだろう。
 だが、それでいい。
 なまじ、と言う信用できる臣下が貂蝉の許に居たのが間違いの元だった。
 という頼る者が居なければ、如何な貂蝉とて呂布の恋慕の強さにほだされ、罪に震えつつもその許を離れることはなかったろう。
 そして、呂布が貂蝉の罪を罪と思って居ないことを知ることができた筈である。
「出すぞ、貂蝉。お前の中に、出す」
 悲鳴が上がるが、当然は聞き入れなかった。
 熱い壁の奥目掛け、は己の昂ぶりを思う存分解き放った。

 気怠く起き上がった貂蝉は、自ら猿轡を外した。
 虚ろな目と、汗と精液に塗れた体は、陰惨な美しさをに見せ付けた。
 これでいい。
 翌朝には、貂蝉を連れて呂布の許へと向かおう。
 貂蝉は涙ながらにの罪を訴えるだろう。それぐらいしてくれなくては、貂蝉を荒々しく抱いた意義がない。
 もしも貂蝉が何も言わずとも、貂蝉の虚ろな目を見れば何をされたか一目瞭然だろう。
 情には脆い鬼神なれば、貂蝉を再び迎え入れるに違いない。
 そうあるべく、貂蝉の体だけでなく心をもずたずたに犯したのだ。
 今、貂蝉が頼るべきすがらは、呂布を置いて他にない筈だった。
 これで、いい。

 ぼんやりとしながら、貂蝉が呟いた。
「私は、お前と共に行きます」
 愕然とした。
「……お前が私をどれだけ大事に思ってくれようと、私の居場所は既に呂奉先の許にはない。陵辱すると言うなら、幾らでもなさい」
「貂蝉様」
 怒りに顔を引き攣らせたを見上げ、貂蝉はふっと笑った。
「貴方の抱き方は優し過ぎます、。そんなでは、私は到底傷付かない。私がこれまでしてきたことを忘れたのですか?」
 貂蝉は自ら足を開き、を誘った。
「もう一度抱いて下さい、。今だけでも、私が犯した罪を忘れさせて欲しいのです」
 それ程までに、貂蝉の罪は深いのだろうか。
 愛し愛された男と、生木を裂くような思いで別れねば成らぬ程、陵辱されて尚男に請わねば成らぬ程、それ程までに重い罪なのだろうか。
 には分からなかった。
 分からないまま、貂蝉を抱いた。
 それで貂蝉の罪が己に分け与えられ、少しでも軽くなるなら、それで幸せだと思った。

  終