姫始めなんぞという言葉があることを、は呪っていた。
は、どうも性に関しての意欲が薄い方であるらしい。
と言っても、そういう類の一切合切が受け入れられないとかではなく、交渉に及ぶよりも下世話な下ネタで盛り上がる方が好きだった。
淡白と言っていいのかもしれない。
興味がないではないが、いわゆる『体が夜泣きして』とかいうことは感じたことがない。
感じる間を与えさせない男と一緒になってしまってからは、特にそう思う。
「」
手を伸ばしてくるのを乱暴に跳ね飛ばす。
しかし、これで諦めてくれるようなら問題はないのだ。
趙雲はひょいと手を引いて、痛みも最低限に抑えてしまうから堪えない。
「」
執拗に、しかし今度はが反撃する間もなく抑え込んでしまった。
鍛え上げた肉体は、会社勤めになっても欠かさず鍛錬しているとかで、未だに体力の落ちる気配もない。
対して、はハードワークとは言っても所詮事務仕事、肉体の鍛錬にまではなかなか至れないでいる。
趙雲とて仕事がきついのは変わらず、むしろよりもしんどいのではないかと思うぐらいだ。
男女の体の違いがあるとはいえ、趙雲だけがこれ程元気な訳をは未だに覚れずに居る。
「もう一度」
戯言をほざく趙雲を押し返そうとしても、何度となく抱かれた体には膿んだ熱が籠もってなかなか思い通りに動けたものではない。
「……も、もう一度もう一度って……馬鹿じゃないのっ……!」
息切れした声では迫力もあったものではないが、何とか口での反論を試みる。
「姫始めというだろう?」
あれは、一年の最初に致すことだろう。こんな風に、制限も知らずにやることではなかった筈だ。
「そうなのか」
「そ、だって」
「私は、正月にするセックスだと覚えていたのでな」
うん、と軽く頷いて、趙雲はの喉に口付けを落とした。
そこが弱いと分かっているから、を陥落させるのに最も有力な方法を取った訳だ。
は背を強く反らせながら、趙雲の愛撫を堪える。
趙雲が自説を取り下げないのは、今の一連の流れで理解した。
ならば、せめて何がしかの『制限』を設けなければ、と必死に抗う。
「正月、なら、今日だけ、ね?」
せめて今日一日なら我慢もしよう。もうすぐ日付変更になる筈だ。これで最後なら、何とか。
が自分に言い聞かせているのも知らず、趙雲は驚いたように目を見張った。
「何を言っている。正月というものは、松の内が明けるまで続くものだ」
今度は、が目を見開いた。
趙雲は極々真面目な顔で話を続ける。
「……一年の初めの月と言うことで、一月いっぱいを正月ということもあるそうだがな。何、私もそこまで鬼ではない」
猛然と暴れ始めたを、趙雲はくつくつと笑い転げながら抱き締める。
いつでもお前を抱きたいと思っている。
殺し文句に、は横目で趙雲を盗み見て、小さく『馬鹿』と吐き捨てた。
そして、松の内が七日までなのか十五日までなのかを、は確認しそびれるのだった。