いい友達ずっと友達、残酷すぎて笑える
人気のない、倉庫の一角。
陸遜の告白を聞いても、は困ったように笑うばかりで返答をしなかった。
出来なかった。
年もだいぶ下で、まったく眼中に入ってなかった相手だ。
それを、好きだと言われたからとて急に意識することもできない。
悩むまでもなく、受け入れられないのは決まっていた。
「……友達……じゃ、ダメなのかな。恋人とかじゃなくて、時々ご飯食べに行くとか、遊びに行くとか、そういうの」
なるべく角の立たない言葉を探したつもりだったが、陸遜の表情は険しい。
黙したままの陸遜に手を焼いて、は終わらせるつもりで努めて笑顔を作った。
「いい友達でいようよ。友達なら、ずっと付き合っていけるしさ。ね」
発展の見込みはないが、相談したりされたり、そういう関係としてなら大歓迎だ。
決して陸遜を嫌っている訳ではない、ただ、守備範囲ではないだけだと伝えたかった。
納得してもらわねば、困る。
同じ職場、同じ係、デスクも並んだ相手と拗れるのは御免被りたい。
「……いい友達ずっと友達、残酷すぎて笑える」
吐き捨てるように呟かれた言葉に、はぎょっとして陸遜を見遣る。
その表情は、予想に反して明るくさっぱりしたものだった。
「どうして駄目なのか、理由だけでも聞かせてもらえませんか。今後の、参考まで」
一瞬粘着されるかと思っただけに、陸遜のさっぱりとした態度には安堵した。
笑みを浮かべてはいるが、やはり傷付いている風な陸遜に、申し訳なさが募る。こちらの方こそ、こんな女の何処が良かったのか聞いてみたいものだ。
ともあれ、せめてこれ以上陸遜を傷付けないようにしたい。
「うーん……と……あの、うん、私、こう見えても、結構スキモノだから、さ」
だから、純粋そうな陸遜では物足りない。
ぶっちゃけ話にも程があるが、嘘ではないので良心は痛まない。
が初めて付き合ったのは、大学時代の担当教授だった。
単位がどうこうという生臭い話ではなく、純粋にが惹かれ、告白して始まった仲である。
年の差があってか、万事に付け向こうが一枚二枚どころか座布団十枚ばかり上手だった。デートのマナーからベッドのマナーまで仕込まれて、一人前になったかな、という頃に別れた。
どうも向こうは教育の延長程度にしか思っていなかったようで、しかしも卒業と同時に別れたせいか、すっぱり諦めがついて今に至る。
ただ、教授以上の男にはとんと縁がなく、特にベッドでを満足させられる男は皆無だった。
やっぱり男は年上に限るな、と先日心に定めたくらいで、だから余計に陸遜の告白は予定外の話だったのだ。
「……そう、なんですか……」
の話に陸遜は目を丸くしている。
「うん、そうなん。だから、ごめんね」
話はこれで終わりと切り上げようとしただが、陸遜が何やら思い悩み始めて黙り込んでしまう。
出て行くきっかけを失って、はえぇと、と困り果てた。
「……あぁ」
やっと顔を上げた陸遜に、は緊張が解けてほっと小さく吐息を漏らした。
次の瞬間、の背中は倉庫の壁に張り付いて居た。
陸遜の顔がどアップでそこにある。
それどころか、口の中に突き込まれて蠢いているのは、紛れもなく陸遜の舌だった。
「……んー! んー! んー!」
絶叫して、何とか逃れようとするのだが、陸遜は微妙に角度を調節してに逃げる隙を与えない。
「……んっ……んん、んっ……っ……!」
絶叫が鼻から抜けて、短く小さくなっていく。
陸遜の舌が抜けた時には、は無意識に陸遜の舌に応えているような有様だった。
舌と同様に、体が痺れて言うことを聞かない。
の頬に自分の頬を擦り寄せるようにして、陸遜の囁きが吹き込まれる。
「ね、大丈夫でしょう?」
何が大丈夫か。
が陸遜を睨め付けると、陸遜は天使のような微笑みを浮かべ、の背に腕を回す。
「留学先では、ちゃんとそちらの勉強もしてきましたから。きっと、ご満足いただけると思います」
陸遜の指先がいつの間にかスカートを手繰り上げ、下着の淵を撫で回している。
くすぐったいような指の動きに、は身動ぎつつも拒否しきれなかった。
濃厚でありながら、かゆい所に手が届くような、要するに上手なキスをされたのは本当に久し振りだ。
ただ唇を重ねれば、舌を入れて掻き回せばキスだと思い込んでいる連中に教えてやりたいような、心地よくていやらしいキスだった。
「……絶対に満足していただけると確信しているひとを前にして、ずっと友達なんて、耐えられないでしょう……?」
自信満々だった陸遜の表情に、そこで初めて影が差す。
わざとだとしたら、大したものだ。
押して引いてのタイミングを、見事に心得ている。
「……ここじゃ、イヤ」
が折れた。
陸遜はさも嬉しそうに笑うと、こっくり頷く。
膝を着く陸遜に、は不審な目を向けた。
「続きは、後でちゃんと。とりあえず、煽った分の責任は取りますから」
のパンストとショーツを丁寧に下ろし、そっと舌を這わせてくる。
淫猥な心地よさに、体がびくりと震えた。
本当に、上手い。
手段も手法も、すべて手慣れてしかも狡猾だった。
「あ、あ、ん、そこ、……!」
やばい、とは唇を噛み締めた。
ハメられる。
と目を合わせた陸遜は、清らかな笑みを浮かべての朱玉を舌で突いてみせた。
舌打ちし掛けて、は陸遜を押し退けた。
「……ちゃんと、責任取ってよ……?」
壁に手を着いて尻を掲げるに、陸遜は嬉しそうに笑って、はい、お任せ下さい、と返した。
終