はじっと趙雲の顔を見ていた。
 執務室の隅で、二人はただ黙っていた。
「子龍ってさ、顔、綺麗だよね」
 突然口を開いて出たのはそんな言葉だった。
 返答は、ない。
 執務室の卓の上、たださらさらと筆が滑る音だけがしている。
「私、子龍の顔、好きだな」
「それはどうも」
 今度はあっさりいなすような適当な返事がすぐに返ってきた。
 そしてまた沈黙。
 風が入り込んで、は身を震わせた。
「もう少し、何かあってもいいんじゃないの」
 何気なく言った言葉だが、仮にも『好きだ』と言ったのだ。もっと動揺するなり照れるなりしてくれてもいいような気がした。
「私はな、
 趙雲は筆を動かす手を止めない。
「早くこの執務を終わらせてしまいたいのだ」
 ああ、そうですか。
 ちっとも色気のない返事に、は不満げに鼻を鳴らして立ち上がった。
「何処へ行く気だ」
「だって、忙しいんでしょ」
 仕事の邪魔扱いされてまで、傍に居ようとは思わない。
 趙雲の筆が止まった。立ち上がり、の傍らまでゆっくりと歩いてくる。
 怒ったのかと少しばつが悪くなった。
「…いいよ、別に拗ねたんじゃなくて、ただ仕事の邪魔したくないの」
「終わった」
 趙雲の手がを抱き寄せる。
「終わったから、後は自由に時間が使える」
 言うなり腰の帯を解き始める趙雲に、は慌てて逃げ出そうともがいた。
「あんなことを言って、私を煽るからいけない」
 趙雲の手は力強く、の力ではびくともしなかった。
「私の『すべて』が好き、と言いたくなるようにしてやろう」

 趙雲は、の言葉から行動からすべからく悪用すべしと考えているらしい。
 もう二度と言ってやるもんかと固く誓った。

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