手錠のおもちゃを買ってみた。
 おもちゃと言っても、なかなか本格的な奴だ。
 面白いので、趙雲に見せてみた。
「……これは?」
 案の定、首を傾げている。
 三国時代にこんなものはなかったろうから、当たり前か。
「へっへー、物は試し、物は試し」
 は詳しい説明を省き、趙雲の手首にがちゃりと手錠を掛けた。
 刑事ドラマのようで、それなり愉快な気持ちになる。
 が。
「あれ」
 趙雲は、こともなくするりと手を抜いた。
 おもちゃだからだろうか。
「……これが?」
「……えぇと」
 どう説明したものか悩み、手錠をじっと見詰める。
 その手錠を、趙雲がひょいと拾い上げた。
「こうか?」
「え、あ、うん……?」
 見よう見真似なのだろうが、綺麗に手錠を掛けられてしまう。
「あれ」
 右手に掛けられた手錠は、が抜こうとしても抜けず、逆に締まって来るような気さえした。
 もう片方の輪を、趙雲は自分の左手に掛ける。
「こう?」
「あ、うん」
 かちゃっ、と小気味よい音を立てて、手錠が掛けられる。
 しかし、これでは逮捕されたのはの方だ。
「……うーん」
 詰まらない。
 鍵を取り出し、開錠を試みる。
「……結局、これは何なんだ」
「うーん、これ、ね、手錠って言って……悪いことをした人を捕まえて、逃げられないようにする……道具……なんだけど……」
 話しながらも鍵を弄っているのだが、左手のせいか上手くいかない。
 は右利きだった。
 と、趙雲がひょいと鍵を取り上げる。
「あ、ありがと」
 開けてくれるものだと思って礼を述べるが、趙雲はその鍵を尻ポケットに突っ込んだ。
「……何してるの」
「これは、悪いことをした者を捕まえて逃げられないようにする道具だろう?」
 が頷くと、趙雲も頷き返す。
「では、逃げられないようにせねば」
「私は犯罪者かっ!」
 ノリツッコミの要領で喚くと、趙雲はを抱えてベッドに向かう。
 まさか、とは冷や汗を垂らした。
「いつも先に根を上げてしまうだろう」
 私がどれ程傷付けられているか、と、趙雲は寝言をこいた。
「ついでに、お仕置きも済ませてしまおう」
「お仕置きって、いつもと変わらないじゃんっ!」
「そうか、では、此度はお仕置きに足るお仕置きを心掛けよう」
 墓穴を掘った。
「単に有り余った体力、持て余してるだけじゃんっ! ストレス解消する機会、狙ってただけなんじゃんっ!」
「すとれすなどという言葉は分からない」
「ス、ストレスっていうのは……!」
 が脳内辞書を必死で検索している間に、趙雲はさっさと仕度を整えていく。
「む、無罪を主張するっ!!」
 の最後の叫びが虚しく響き、その後は意味を為さない声だけが続いた。
 逮捕直後に無罪を主張しても、聞いてくれないのが悲しい世の定めである。
 呪うべきは、趙雲の狡猾を舐めて見ていたの迂闊だった。

  終

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