「小さいのが、好きなんだ」
 の告白に、関平は眉を寄せた。
「……はぁ」
 嬉しい。
 だが、嬉しくない。
 複雑な心持ちだ。
 朋輩として親しく親交を持つに好きだと言われたのは、嬉しいような気がする。
 けれど、その理由が『小さいから』というのは甚だ納得がいかない。
 それは確かに、は女性にしてはそこそこ……以上、に背が高く、関平と比しても余りない。
 がもし踵の高い靴を履いたら、その分(決して地の分が低い訳ではない)関平の背を追い越す危惧があった。
 だが、だからと言って、何も『小さい』部類に入れてくれなくても良い。
 関平は、知らぬ間に唇を尖らせていた。
 の表情が曇る。
「……やっぱり、おかしいものかな」
 はっと我に返り、慌てて否定する。
「い、否、それは拙者の勝手な言い分であって、決してが悪い訳ではない、と思う」
「……そうかな」
 こくこくと大きく頷く関平に、は曖昧な笑みを浮かべた。
「うん、まぁ……私みたいな図体のでかい女が可愛いものを好きだと言うのは、少々気味が悪いものかな。でも、関平の言う通り、私がそれを好きなのはどうしようもない事実だし、あまり人に知られないようにするなら、構わないのかもしれないな」
 ここに来て、関平はようやく話の食い違いに気付いた。
「……あの……拙者の、こと、では……」
 ん? とが不思議そうに目を丸くするのを見て、関平は自身の勘違いを確信した。
「否っ! ……その、すまない、拙者の思い違いだった! が好きなものであれば、堂々と胸を張っていて、構わないと拙者は思う!」
 は小首を傾げて関平を見ていたが、ややもして小さく頷く。
「そう、かな……関平が、そう言ってくれるなら」
 先日、小さな花を愛でているのを張飛に見られ、『お前みてぇな図体のデカイ女が花なんてよ』と散々小馬鹿にされたのが少々堪えたのだと、はこっそり打ち明けた。
「それは、幾らなんでも」
 酷いと憤慨する関平に、そこでようやくは常の穏やかな笑みを浮かべて見せた。
「いいんだ。私の見てくれからでは、張将軍がそんな風に仰るのも分からないではないし、それに、関平が怒ってくれたから」
 有難うと頭を下げるに、関平は意味もなく顔を赤らめた。
 おかしな勘違いをしてしまったのに、と後ろめたい気持ちだというのもあったが、自分でも上手く説明できそうになかった。
 適当に切り上げ、挨拶してそれぞれの持ち場に戻ろうとした時、がふと足を止める。
 釣られて足を止めた関平に、は口を開いた。
「先程の、思い違いの話だけれど」
 てっきり上手く流せたと思いこんでいた関平は、またも赤面する。
 はいなすように手を振り、にこりと微笑む。
「……私は、お前を小さいと思ったことは一度もないよ。お父上譲りの、懐の大きな男だと思っている」
 それでいいじゃないか。
 はそう言って、それきり背を向けて立ち去った。
 義父たる関羽を引き合いに出されての褒めように、関平の顔はますます赤くなる。
 関羽に似て云々という言葉は、関平にとっては何より得難い褒め言葉なのだ。
 だが、ふと思い至る。
「……要するに、やはり拙者は小さいと、そう思われているということなのか……?」
 疑問を解消しようにも、答えを得るべき相手は立ち去ってしまっている。
 追い掛けてでもすっきりと片を付けるべきか、このまま疑問を呑み込んで耐えるべきか、『懐の大きな男』はしばし悩み続けるのだった。

  終

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