愛馬の世話を甲斐甲斐しく焼いている馬超の背を、はじっと見詰めた。
もうずいぶん長い時間が過ぎていた。
「孟起ってさ、顔、綺麗だよね」
突然口を開いて出たのはそんな言葉だった。
藁束で愛馬の体を擦っていた馬超は、ぴたりと動きを止めた。
何か気に障ることを言ってしまったかと思うが、一応褒めたつもりなのでは黙って馬超の硬直が解けるのを待った。
「……何だ、いきなり」
振り返りもせず作業を再開させた馬超の声に、怒ってはいないようだと少し安堵した。
「いや、前から思ってたんだけど。綺麗だなって思っただけ」
馬超は手にした藁束を置くと、のところまでつかつかと歩み寄る。
顔が強張っているので、やはり怒らせてしまったかと後悔した。
男だから、顔が綺麗だという言葉はけなされていると取ってしまうのかもしれない。
おかしいと思う間もなくぐんぐん近付いてきた馬超に、突然口の辺りを噛み付かれた。
それは瞬間のことで、痛みが脳に伝わるより早く馬超は離れていた。
が涙目で口元を押さえると、馬超はぷいっと踵を返してまた馬の体を摩り始めた。
怒ったにしてもあんまりだ。
「……何すんの、いきなり」
不満を口にすると、馬超はやはり振り返りもせず作業を続ける。
「お前が」
「……私が?」
「お前がおかしなことを言うからだ」
それにしたって口元に噛み付くことはないだろう。
腫れてきた気がして、口元を撫でる。熱く柔らかい。
馬超はまた口を開いた。
「お前の方が」
「私の方が、何」
「お前の方が、綺麗だ」
呆気に取られて立ちすくむと、馬超は藁屑を投げつけてを厩から追い出した。
「……照れたのかな」
それにしたって、あんまりだ。
終