舌先で触れると、独特の匂いが鼻を突く。
 慣れてしまえば何と言うこともなく、はそのまま口に含んだ。
 大きく膨らんだそれはの口には到底収まりきらず、それでも深く呑み込もうとすれば喉奥を突いて吐き気を促す。
 けれど、同時に鼓膜に吹き込まれる声は甘く潤んでいて、の脳髄を痺れさせた。
 吐き気も忘れて舌で扱けば、声はますます切なくかすれて行く。
「……なぁ」
 無視する。
「なあって」
 無視をしていたのに、浅く咥えた瞬間を見計らって外されてしまった。
 仕方なく目線を上げると、頬を紅潮させた甘寧と目が合う。
「挿れさせろよ」
「やだ」
 行為を再開させようとするのを、甘寧に阻まれた。
「挿れてぇんだって」
「やだって」
 興が醒めて、は中腰にしていた腰をぺたりと下ろした。
 甘寧も同じ心境だったらしく、隆々と勃ち上がっていたものが心なし下を向いている。
「何でだよ。これじゃ、お前ぇが気持ち良くなんねぇだろ?」
「だって、体がもたないもん」
 が甘寧らと出会ったのは、折良く宝くじを当てた日のことだった。
 使い道に迷って、浮かれるよりも先に途方に暮れていたは、これを天啓として受け止め彼らを保護することに決めた。
 奇妙な同居生活は、それなりに楽しいものではあったが、一つ想定していない問題が浮かび上がる。
 それは、血気盛んな男達にはありがちな、けれど重大な問題だった。
 問題が初めて露見した時、当初は実に気楽に構えていた。
 何のことはない、風俗に行かせれば良いだけの話である。
 その手の店が幾らでもあることは知っていたし、無論が行ったことはないにせよ、小遣いを持たせて行って来いと言えば済むだけだと思っていた。
 だが、よくよく考えてみれば、それで済む話ではない。
 初めての客であると言うのなら、初めてなりの態度を取ればいい。問題は、あの連中にそんな殊勝な態度が取れるかどうかだ。
 それだけではない。
 身分証明など不法就労者よりも頼りない身の上の連中を、その手の店に送り込んで大丈夫かどうか保証がなかったのだ。
 ガサ入れに巻き込まれる、筋者に目を付けられて集られる、気に食わないことがあって暴れる等々、考えれば考える程容易くトラブルが想像される。
 では、どうするか。
 悩む時間が無駄だと思えるくらい、解決法はすぐ目の前にあった。
 が相手をしてやればいいのだ。
 迷いはしたが、他に方法はなかった。
 初めてでもなし、倫理観もそれ程固くはなかったは、割にあっさり決意して行動に移る。
 は、似たようなことを考えていたと思しき甘寧にまず話を持ち掛け、武将達に訊いてもらった。
 何人かは拒絶し、以来に対してやや余所余所しくなったようだったが、生活に支障が出る程のことではない。
 残りは、の世話になると決めたらしく、が提示した一日一人の条件を守って、粛々と『処理』をしにやって来ている。
 提示した条件はもう一つあり、それが甘寧の要求を撥ね退ける理由となっている。
「口までって言ったでしょ。嫌なら、帰れ」
「口もあっちも変わんねぇじゃねぇかよ」
 変わる変わらないと言い争っている内に、甘寧がキレたらしく立ち上がる。
 帰るのだろうと思って、も立ち上がった。
 視界が斜めに流れる。
 それまで甘寧が腰掛けていたベッドに押し倒されたのだ。
「口じゃ、足りねーんだって」
 言いながらもの服のボタンを外していく。
 やりなれないだろうに、生来器用な性質なのか、ボタンはあっという間に外された。
 シャツの下にはブラしか着けておらず、そのブラはを守る態を成さない。指を掛けられて上に持ち上げられれば、他愛なく外れて間抜けに浮いた。
「んっ」
 乳首を吸われ、は思わず唇を噛む。
 殺せなかった喘ぎ声が漏れ、甘寧は酷く嬉しそうな顔をしてみせた。
「それ、それ。……やっぱ、女を抱く時ぁこうでなくっちゃなぁ」
 一人言を呟きながらの肌に顔を埋める。
 舌で執拗に嬲られながら、は自分を捕らえる甘寧の拳を見上げた。
 鍛えられてごつくなった拳は、関節ごとに固く膨れ上がり皮膚そのものが硬い。力を入れていないのは傍から見ても分かるが、が逃げられる程には弱くもなかった。
 逃げても引き摺り戻されるだろう。
 現実を見据え、は早々に匙を投げた。
「……私、声大きいからね」
 の降伏宣言を素早く解し、甘寧は舌舐めずりをする。
「気持ち良くしてやるから、よ」
 な、と言いつつ口付けを求められ、は無為に応じる。
 事実、甘寧は普段の適当さが嘘のように、熱心にに愛撫を施した。
 徐々に体が熱くなるのを実感しながら、はこっそりと甘寧を盗み見る。
 頬を火照らせ、懸命に、しかし嬉しそうにを弄る甘寧の表情に、どこか『愛しさ』のようなものが滲んでいた。
 逃れられないように押さえ付けながらも、細やかな愛撫を繰り返している。
 は、見なければ良かったと目を閉じた。
 どうせ帰ってしまう男相手に、心を傾けてもつまらないのだから。
「挿れるから、な」
 宣言は、極度の緊張に震えていた。
 濡れて敏感にされた秘部に、熱い肉の塊が押し当てられる。
「………………あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 甘寧の肉が押し込まれる瞬間、の絶叫が部屋いっぱいに響き渡る。
 ぎょっとして固まる甘寧を余所に、は声を張り上げ続けた。
 がん、と凄まじい破壊音が轟く。
 が口を閉じ、室内が静寂に包まれた。
「……もう少し、お静かに願えませんか」
 陸遜だった。
 おどろおどろしい声が、扉を通して甘寧を震え上がらせる。
「……甘寧」
「何だよっ」
 は、二人の結合部にちらりと目を遣る。
 甘寧はそっぽを向いた。
「縮んじゃったね」
「しょーがねえだろ!?」
 さすがの甘寧も続きをする気になれず、夢見た和合は儚くも未遂の憂き目を見たのだった。
 そしては、ほんの少し安堵していた。

  終

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