大金が入ったら、やってみたい『しょーもないこと』という奴は、それなり多いと思われる。

殿! 如何ですか?」
 陸遜が自慢げに指先で示す。
 その背丈よりも高い樅の木には、きらきら輝くモールや球がセンス良く飾られている。
「おー、立派立派。初めてにしては、綺麗に飾れたねぇ」
 の惜しみない賛辞に、陸遜は頬を赤らめて微笑んだ。
 一般家庭のものとしては巨大と言っていい樅の木は、枝振りもその大きさに相応しくそれなりに良い。
 しかし、どの角度から見ても隙のない飾り付けは、陸遜の頑張りを深く知らしめていた。
 何せ、陸遜が居た時分にクリスマスなど存在しない。
 呉将各位まとめて転移してきたとはいえ、この世界の天を仰ぐ心細さはひとしおだ。
 そんな状態で、知らないものをこれだけの出来に仕上げるのは、並大抵の苦労ではなかっただろう。
「……ん? これ、何?」
 きらきら目映いツリー飾りの間に、小さな緑色のブーケがぽつんとぶら下がっている。
 花のない、本当に葉だけのブーケは異質で、却って目立っていた。
「こんなの、買ったっけ」
 飾りを選んだのは尚香や大喬、小喬だったが、会計をしたのはである。レジを通した商品は、一応すべて見届けていたつもりだが、こんな葉っぱだけのブーケを購入した覚えはなかった。
「あぁ、それは」
 陸遜が、笑みを浮かべながらの傍らに立つ。
 何気なく振り返ったの顔の間際に、陸遜の顔があった。
 温かい。
 まずそう思った。
 柔らかい。
 そう思った時には、陸遜の顔は離れていた。
「……こういうことです」
 にっこり笑う陸遜を、は凝視した。
 ぼんやりしつつも、口は『解』を紡いでいる。
「……あぁ。ヤドリギ?」
「はい」
 ツリーに飾られた宿木の枝の下に居る女の子には、キスをしていいことになっている、らしい。
 良くそんなことまで調べ上げたものだ。
 もっとも、努力家兼勉強家の陸遜のことだから、呆れ返るくらい調べまくったのだろうと予測される。
 不意打ちのキスが、徐々に染みてきた。
 顔が赤くなるのを誤魔化すように、宿木のブーケを見上げる。
「つーか……クリスマスの時にやるもんじゃないの、それ」
「では、クリスマスの時には、もっときちんとすることにします」
 間髪入れず答える陸遜に、は何か腹黒いものを感じる。
――つか、もっかいする気か、お前。
 じと目で睨むも、陸遜は黙って笑っているだけだった。
 クリスマス当日は、ある種の攻防戦が繰り広げられそうだ。
 しかし、若輩なれど百戦錬磨の陸遜相手に、計略に掛からず過ごせる自信はあまりない。
 むしろ、自ら飛び込んで行ってしまいそうな自分を制御するのに苦労しそうで、今から頭が痛かった。

  終

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