はちびりちびりとコーヒーを啜っていた。
 夜遅いせいか、人気はない。
 宝くじで引き当てた金で面倒を見ている武将達は、大概夜が早いのだ。
 ただし、何事にも例外はある。
「未だ起きていたのか」
「いや、未だも何も宵の口だし」
 時計は午後十一時を指そうとしている。
 子供ならさておき、夜型を自称するからすれば、寝るには早過ぎる時間だった。
 対して、趙雲は怪訝そうに眉を寄せる。
 こんな時間に起きているのは、夜警の当番くらいだからだろう。
 平和な現代にトリップしてきた今でも、彼らは頑なに夜警の見回りを欠かさない。
 用心するのは悪いことではないが、いい加減慣れてくれたらとも思う。
 警備システムの加入も検討してはみたのだが、趙雲達にシステムを理解してもらうことを考えると気が遠くなって止めてしまった。
 目に見えないセンサーやら電波やらを理解してもらおうということ自体が無茶なので、結局夜警の当番制を続けさせる結果に繋がっている。
「何を飲んでいる?」
 ひょいと手元をのぞき込まれ、答える前に渋い顔をされる。
「そんなにイヤなもんかなー」
「それは、苦い」
 簡潔明瞭な答えだが、かと言ってそこまで嫌うのもどうかと思う。
 苦いと言うが、ミルクも砂糖も入れてある。むしろ甘くし過ぎたと軽く後悔しているような代物だ。
「いっぺん、ちゃんと飲んでみれば? 趙雲が最初に飲んだ時って、確かブラックだったでしょ?」
 ほら、と両手でカップを押しやる。
 差し出されたカップを覗き込むようにして、趙雲は何事か考え込んでいた。
 不意にカップに手が伸びる。
 その気になったのだと思っていたら、違った。
 趙雲は、何故かカップを差し出すの手首を、そのごつい手で楽々抑え込む。
 何をするかと問う前に、趙雲の口がの口を塞いでいた。
 言葉もない。
 唇が離れるのと同時に、封じられていた手も解放されていた。
 趙雲は、指で舌先を拭うようにしながらを軽く睨め付ける。
「苦い」
「……あ、ごめ……」
 謝ってから気付く。
――謝る必要、なくね?
 しかし、が反論する前に、趙雲はさっさと立ち去っていた。
 の周辺に静けさが戻る。
「……何なんだ……」
 小さな愚痴が漏れるが、応えがある筈もない。
 手持無沙汰になって、カップに残ったコーヒーをあおる。
 すっかり冷めたコーヒーの温度に、かなり長い間呆けていたことを分からしめられた。
 そして、コーヒーとは裏腹に、酷く火照った頬の熱にも気が付いてしまう。
「……だから、何なんだよー……」
 思わず顔を伏せてしまった。

  終

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