「法正殿は、報恩報復を旨とされているのですよね?」
 唐突な問いだった。
 しかし、法正に動じた様子はない。
「そうですよ。それが、どうかしましたか?」
 こともなげに返す法正に、は一瞬口籠る。
「……では、愛、は? 愛も、すべて返すのですか」
 法正は、しばらく無言を守った。
 答えに窮しているのでないことは、その口元に浮かぶ笑みが示している。
 むしろ、そんな他愛のない問いを真剣に投げ掛けるの様を、楽しんでいるようだった。
「……さぁ。そんなものは、向けられたこともないですからね」
 分かりません、と肩をすくめる法正に、の眦に涙が浮かぶ。
 の想いを認めないと、言外に宣言されたも同然だった。
 痛みを訴える胸を抑えるの肩に、法正の指が伸びる。
 さらわれるように引き寄せられ、は法正の胸に倒れこんだ。
「あなた以外には、ね。……だから、それを返すのは、あなただけですよ」
 は、不意に頬が熱くなるのを感じた。
 と、天地が引っくり返る。
 法正の下に組み敷かれたのだと、数瞬遅れてようやく気が付いた。
「それに」
 薄笑いの法正の顔が、の顔の間近にある。
「今更、でしょう。何度、こうしていると思っているんですか」
 密着する肌が、勢いを増して熱くなる。
 愚問を恥じて、は口を閉ざす。
 法正の首に腕を絡め、耳元で哂う法正の吐息を感じていた。

  終

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