「声が大きい?」
文鴦の声は、動揺の為か揺れていた。
は、羞恥から肩をすくめる。
古参の家人から、口幅ったいことながらと注意されたのは、今朝のことだ。
――仲がよろしいのは、家人として喜ばしいことですが……。
気のせいか、頬の辺りを赤らめる家人は、言い難そうにもごもごと続けた。
――あてられる者が、その、後を断ちません……このようなこと、お耳汚しで申し訳もありませんが……。
忠勤で鳴らした家人の進言である。
これはよほどのことなのだと、さすがにも理解できた。
けれども、だからといってどうしていいかは解らない。
夢中になってのことであるし、自分の『声』がそこまで大きいとは思いもよらなかったのだ。
どうにもならなくなって、仕方なく文鴦に相談という段になった次第だ。
文鴦も、困惑したように指を顎に掛けている。
沈黙が重い。
考えてみれば、文鴦には関係のない話かもしれない。
自分が気を張って、声を抑えれば良いのではないか。
そう気付いて、顔を上げる。
ちょうど、文鴦もに目を向けたところだった。
視線がかち合い、喉元まで込み上げていた言葉が引っ込んでしまう。
その間を狙ったかのように、文鴦が口を開いた。
「私が、あなたの声を好むからいけないのかもしれない」
え、とが驚くと、文鴦の頬がみるみる染まる。
「……その、不快な思いをさせてしまって、すまなかった。これからは、自重するとしよう」
「そんな、私の方こそ」
ふと、視線が絡まった。
最初から決められていたかのように、二人は向き合い指を絡ませる。
「……で、では……お互い、自重するということで……」
「あの、はい、では、そのように……」
吐息が触れ、は目を閉じた。
どちらも自重できなかったのは、言うまでもない。
終