「……声が、大きい……と?」
 どこか茫洋とした視線のままに、関興はをその眼に映していた。
 本当に分かっているのかどうか、甚だ怪しいと思いつつ、は大きく頷いた。
 関興に求められ、妻として迎えられてからしばらく経つ。
 夫婦として睦まじい時を共有する内に、はすっかり関興の色に染まった。
 それは即ち、の感じ得る悦をも進化させ、つまり『あの時』の声を抑え難くしてしまったようなのだ。
 ようなのだ、というのは、自身にその自覚が全くないことに起因する。
 指摘されるまで、それこそ察してもいなかった。
 思い出すだけで顔から火が出そうだ。
 ところが、関興には今一つしっくりこないらしい。
「そう、なのだろうか……」
 首を傾げてさえいる。
 しかし、面と向かって注意されたからには、相当大きい筈だ。
 最も近い位置にいる関興が、『そうなのだろうか』はないだろう。
 羞恥から憤るを他所に、関興はあくまで平静だった。
「あの、」
「私は、あなたのあの時の声を、もっと聴いていたいのだが……」
 被せて放たれた言葉は、の予想を遥かに超えた。
 顔を真っ赤にして黙り込んでしまったを、関興は不思議そうに見詰めている。
 しばらくして、関興は一人小さく頷き、膝を立てたままの傍らに進んだ。
「聴かせてくれるだろうか」
 答えられなかった。
 何も言えぬまま、けれど抵抗することもなく、は関興に抱き締められていた。

  終

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