「声が大きい?」
 張苞は、何を言われているのか分からないようだった。
 しかし転瞬、ぱっと顔を赤らめる。
 何の『声』だか察しが付いたのだろう。
 釣られて、も頬を赤らめる。
 何とも世間体が悪い話だ。
 いかに夫婦の間柄とはいえ、開き直れる程に厚顔無恥でもない。
「よ、よし。自重しよう」
「は、はい」
 張苞が言い、が応じる。
 それ以上にはしようがないし、その後の沈黙はある意味仕方がないとも言えた。
 けれども、奇妙な縛りが発生し、二人を戒める。
 何か言わねばと思うも、気の利いた言葉が浮かばず、は一人やきもきしていた。
 恐らく張苞も同じ気持ちでいたのだろう。
 不意に唸り声を上げると、乱雑に頭を掻き出した。
「……あぁもう、駄目だ!」
 何が駄目なのだろう。
 一瞬身を強張らせたは、その後に続く張苞の言葉に呆気にとられた。
「自重、できる気がしねえ……」
 いかにも参った、と言わんばかりの弱々しい声に、思わずぷっと吹き出してしまう。
「……何だよ、笑うなよ!」
「あ、いえその、すみません」
 謝りつつも、笑いが止まらない。
「おい、笑うなって」
 張苞が身を乗り出し、口元を押さえるの手首を掴む。
 自然、近付く互いの唇から、柔らかな吐息が触れ合った。
「………………」
 引き寄せられるように唇が重なり、次第に深く絡み合う。
 急速に高まる熱に、二人は自重の二文字を忘れて睦みあうのだった。

  終

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