「声が大きい?」
魯粛は、声を潜めることもなく聞き返してきた。
二人きりとはいえ、の気恥ずかしさは打ち消されるものではない。
声を潜めて、という切なる嘆願は、声の小ささ故か無視された。
「大きいと、何が困るというのだ」
改めて問われると、返事に困る。
「……風紀とか……」
絞り出すように出した答えは、魯粛に一瞥くれられて終わる。
「夫婦の睦み事に、風紀も何もあるものか」
それはそうなのだが、それもそうだで済ませられもしない。
家人からの苦情であるから、魯粛の妻たるとしては、何とか応じてやりたい、やらねばならぬというのが心情だ。
ところが、魯粛には理解できないようだ。
に正対して立つと、まじまじと見詰めてくる。
呆れているのかと恥ずかしくなり、顔を反らすも、魯粛によって引き戻された。
「俺は、お前が愛しい」
飾ることない真っ向からの言葉に、は顔を赤らめた。
魯粛の言葉は続く。
「お前の願いは全て聞き届けてやりたい……だが、お前が俺に与えてくれるものを、例え吐息一つたりとも我慢することは出来ん」
俺をそういう風にしたのはお前だと、嘘偽りの欠片も混ざらぬ表情と声音が告げる。
「わ……わかりました、から……」
体が震える。
恐怖からではない。
魯粛ほどの男が自分に夢中になっているという事実が、の女の部分をこの上なく刺激していた。
「わかりましたから……もう……」
崩れ落ちそうになるの体を、魯粛は満ち足りて受け止める。
「もう、我慢が出来なくなったか」
意地悪を言う魯粛の口を、は自ら封じる。
「私を、こういう風にしたのはあなたです」
囁くような声に、魯粛は大きく頷いた。
「そうだな」
の体を牀に落とすと、魯粛はその上に覆い被さる。
「……なればこそ、声を潜めるなどという無体な真似は、してくれるなよ」
もう一度塞いでやろうともがくを、魯粛は笑いながら制していった。
終