空から雪が降る。
 長身の太史慈が空を見上げているので、それを更に見上げるの首は痛みを覚えるほどだった。
 太史慈の厚めの唇に雪がふわりと舞い降りるのをは見た。
「太史慈殿ってさ、顔、綺麗だよね」
 突然口を開いて出たのはそんな言葉だった。
 何をかいわんや、と苦笑してを見下ろす。が頓狂なことを言い出すのはいつものことなのだ。
「俺は男だから、顔の美醜を褒められるよりも武の猛きを褒められる方がよほど嬉しいぞ」
「ホントにそう思ったんだもん」
 お世辞を言っていると取られたは、不服そうに唇を尖らせた。
 太史慈は苦笑した。本当だろうがお世辞だろうが変わらない。面映いだけだ。
は、俺の顔が嫌いなのではないのだな」
「何ソレ。遠まわしだなぁ」
 呆れたように腰に手を当て上目遣いに睨めつけてくる。
 好きなのだな、などと素面で言えたものではない。はそこら辺がどうにも疎いようだ。
「太史慈殿の顔、私は好きだよ」
 気持ちを読んだかのように、はずばりと言ってくる。
 最早言葉はなく、苦笑しか出ない。
 けれど、は太史慈の言葉を待っているようだった。
「……有難う」
 仕方なく無難に礼を述べると、の眉が吊り上がり頬が膨らんだ。気に入らなかったらしい。
「言い直す。私は、太史慈殿のことが好きだよ」
 そんなことを言われても、と、太史慈は困惑した。じっとを見ると、は照れる様子もなく太史慈の視線を真っ向から受け止める。
 言葉の表面からのみ察するなら愛の告白なのだろうが、この態度を慮ればそうとは決して言えないだろう。
 太史慈は返事に窮した。
「……有難う」
 結局、先程と同じことしか言えなかった。

 不貞腐れて廊下を歩いていると、顔見知りの護衛武将が何をそんなに機嫌悪くしているのかと声を掛けてきた。が、太史慈があまりに朴念仁だからだと答えると、今更そんなこと、と返ってくる。
 それもそうなので、の機嫌はあっという間に直った。

  終

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